散在地域の日本語支援を考える(のしろの事例より)~「外国人は地域社会をともにつくる人財」という視点~

秋田県能代市で「のしろ日本語学習会」を主宰する北川裕子さんが、先日アクラスを訪ねてくださいました。私が「のしろ日本語学習会」に通い始めて足掛け10年になります。その間、保育園児が中学生となり、結婚で来日したばかりの人が4児の母親となり……さまざまな変化がありました。今回も北川さんの話に、時間を忘れて聞き入ってしまいました。ここでは、「親と子の支援」のこと、そして「中国出身の冬美さんの厄払い」報告をご紹介したいと思います。

※最後に、これまでの能代関係の記事をまとめました。

 

 

■親の日本語支援と子どもの日本語支援は、車の両輪!photo175376

北川さんは24年前に中国帰国者の支援を始めたのですが、その当時子どもに日本語支援が必要になるとは思っていませんでした。

 

3,4歳頃来日した子どもや、日本生まれだったりしたら、問題ないだろうと最初は思っていたんですよ。でも、そうじゃなかった。親の支援をしてくうちに、日本で生まれた子どもでも言葉の問題を抱えていることが見えてきました。よく『子どもの日本語支援をやっているから大人の日本語支援は分からない』とか、『大人の支援をやっているから、子どものことは分からない』という声を聞きますが、それは違うと思うんです。

 

親の支援と子どもの支援は、車の両輪、一緒にやっていかないと本当の意味での問題解決にはなりません。親の都合で泣く子どもを見てきたからこそ言えます。それから、子どもの支援は、日本人も同じですが、地域社会が一緒になって育てるという意識が必要です。そして、それは、将来の地域社会のためでもあるんですよ。P1020834

 

今、縦割り行政の問題がクローズアップされ、「外国人庁」の創設が叫ばれています(2015年12月17日の「浜松集住都市会議」でも提案されました)。こうした日本語教育・支援を行政側が一本化して、つながりのある支援をすることも重要ですが、支援者側にももっと全体を見る目が求められているのではないでしょうか。そして、日本語教室、いや地域社会全体で子どもの支援に真剣に取り組む時が来ているのだと思います。

 

 

 

■「私達を助けてくれる人財」としての子育て支援

北川さんが能代で子育て支援を始めて20年経った今、「私達、この町に育ててもらいました」と口にする若者が

長年の積み重ねが認められ、文化庁長官賞受賞

長年の積み重ねが認められ、文化庁長官賞受賞

増えてきています。そして、町によって育てられた若者は、今度は町づくりに貢献してくれる人財に育っているのです。こんな見事な次世代育成の輪がどんどん広がっていくといいのですが……。北川さんは、さらにこんな話をしてくださいました。

 

20年経って、こういう思いでやってきたことが確実に子供達に伝わっているのが見えるようになりました。外国にルーツのある子ども達には、親の文化と日本の文化と良いところを取って、あなた自身の文化を創っていきなさいって言ってきました。

 

日本語支援は弱い人を助ける活動、などと言う人がいますが、私は一度もそう思ったことはありません。「いずれ、私達自身が助けてもらえる人」であって、そういう人財を育てたいと日本語教室をやってきました。だから、「この人達をサポートしてください。日本語教室は町の人財となる人たちを育てているんです」と言えば、地域のほとんどの人は気持ちよく手伝ってくれます。こうして地域を巻き込んで行くことで、異文化の親もその子供達も、幸せに暮らせる町が出来るんだと思います。

 

 

■日本人じゃないけど、厄払いをしたい!

 

冬美さん、「金勇」の前で(2016.1.24)

冬美さん、「金勇」の前で(2016.1.24)

今回、北川さんから「冬美さん(結婚で中国から能代市に移り住みました)」の厄払いに関するエピソードを伺いました。そこで「ぜひ彼女自身の気持ちを聞きたい」と考え、冬美さんにメールでお願いしたところ、すぐに以下のようなお返事が来ました。メール・写真の掲載許可をいただきましたので、ご紹介します。

※冬美さんには、昨年9月能代でOPIインタビューをしました。それ以来、メールでのやり取りが続いています。

 

    ♪    ♪    ♪

 

厄払いの話は聞いた事があるけど、具体的な事は全然分かりませんでした。厄払いに行ったのは、主人と北川先生のお陰でした。

 

ある日、主人に「厄払いはどうする?」と聞かれました。その時は何も分からない私は「え~何をするの、どういう意味なの」「女性は数えの33歳に厄払いをするんだよ」ただその時は主人も何処でやるのか、誰に連絡すれば良いのか、わかりませんでした。

 

冬美さん(神社で)

冬美さん(神社で)

木曜日に日本語学習会に行って、北川先生と相談をしました。先生は「やった方が良いよ、日本の女の人はみんな着物を着てやって貰うのよ。女の人は年取ると体の調子が下がるから、悪い事が起こらないようにやった方か良いと思いますよ。着物着たことないでしょう。記念写真を撮れば中国の親達も喜ぶじゃない」と言ってくださって、すぐ神社に連絡してくれました。うちに帰って、主人ともう一回話をしました。

 

着物を着たことはないし、厄払いをやらなかったら多分一生着れないかもしれないから、着ることにしました。別に誰に見せる為じゃなくて、ただ、これは日本の文化と言うか、習慣と言うか、外国人の私は知らない事がいっぱいあるので、体験をしたかったからです。

 

そして日曜日が来ました。美容室に行って、顔と髪の毛とかを着物に合うように綺麗にして貰って、着物を着付けして貰いました。毎日見ている自分の顔なのに、急に別人みたいになりました。何だかワクワクしました。

 

無事終わりました.

無事終わりました.

神社の中に入るのは初めてなので、とても緊張しました。そしてとても嬉しかったです。言葉は分からないけど、とても丁寧にやってくれました。一瞬、日本人になったように感じました。

 

今回初めて厄払いを体験して、厄払いを知らない外国人達に教えたいと思いました。そして、いろんな事を教えてくれた方々に感謝をします。これからは悪い事が起らない様に、日本語ももっと上手になるようにと祈りました。

 

(2016年1月29日   畑山冬美)

 

♪    ♪    ♪

 

ところで、冬美さんから厄払いに関する相談を受けた北川さんは、「あること」を思いつきました。それは、近くの神社に出かけて行き、知り合いの宮司さんにアドバイスをすることでした。

 

神社は、今までみたいに外国からの観光客に対して、ただ日本文化紹介みたいな上っ面のことをやるんじゃなくて、もっと神社も変わらないと!外国の人が町に住んで、厄払いをしたい、お宮参りをしたいって思ったときに、わかりやすい説明と、親しみやすい神社でないとこれからはダメだと思う。

 

北川さんは、「ただ目の前の外国人をサポートするのではなく地域社会全体を巻き込み、日本人の意識を変えることこそ大切だ」と考え、すぐに行動に移したのです。宮司さんも神妙な顔で、「外国の人達がもっと気楽に厄払いに来られるような環境を作ることが大切だってことがよく分かった。もっと自分達も勉強せねば!神社としてどんなことをしたらいいか、考えてみる」と真剣に応えてくれたのだそうです。

 

こうして1人1人の外国人住民に寄り添うだけではなく、地域社会を巻き込み、変えていこうという姿勢こそ、地域社会には重要なことなのだと改めて思いました。

 

 

参考:◆「のしろ日本語教室」に関する記事

① 2008年9月  地域社会を変えた日本語学習会の盆踊り大会 秋田県能代市で

http://nihongohiroba.com/?p=229

② 2009年3月   外国人配偶者が日本語能力試験に挑戦する意味

http://nihongohiroba.com/?p=165

③ 2009年11月  ビデオ作品『ココロをつなぐ教室』日本語教室追った能代高校放送部の奮闘

http://nihongohiroba.com/?p=520

④ 2010年3月  韓国から来た「さっちゃん」奮闘記

http://nihongohiroba.com/?p=436

⑤ 2010年9月   定住外国人配偶者にとって住みやすい社会にするために

http://nihongohiroba.com/?p=686

⑥ 2011年9月   「馬鹿って言うのは最低だよ」という言葉の波紋

http://nihongohiroba.com/?p=2035

⑦ 2012年5月   中国出身の保坂さん、介護福祉士に合格(能代市)

http://nihongohiroba.com/?p=2520

⑧2013年7月  「のしろ日本語学習会」の北川さん、「文化庁長官賞表彰」

http://www.acras.jp/?p=1599

⑨2013年9月 能代第四小学校を訪問~「取り出し授業」に参加して

http://www.acras.jp/?p=1881

⑩2013年9月 ストレス解消は利用者さんの笑顔~ホームヘルパーとして働いて~

http://www.nihongohiroba.com/?p=3136

⑪2014年1月 「のしろ日本語学習会」に届いたNちゃんからの手紙

http://www.acras.jp/?p=2253

⑫2014年7月 「広島平和と日本文化の研修旅行」の報告書

http://www.acras.jp/?p=3038

⑬2014年11月 のしろ日本語学習会からのすてきなお知らせ~スピーチコンテストに参加して~

http://www.acras.jp/?p=3490

⑭2015年10月 「読み聞かせ」は楽しい!(アクラス会員便り:北川裕子さん)

http://www.acras.jp/?p=4635

⑮2015年12月 「HIDAスピーチコンテストが生んだ新たな「つながり」

~能代の保坂さん、さらなるチャレンジ!」

http://www.acras.jp/?p=4895

 

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