10月6日(土)に、ウランバートルにて「第11回日本語教育シンポジウム」が行われました。今回は、「モンゴル日本語教師会設立20周年記念シンポジウム」でもあり、いつもにも増して熱が入ったシンポジウムとなりました。タイトルは、「初中等日本語教育のスタンダードおよび高等教育との連携」です。
私が初めてモンゴルを訪れたのは2013年3月、それから3年続けてシンポジウムに参加しましたが、スタンダード教育を初等中等教育の先生方と、高等教育の先生方、そして、国際交流基金やJICAの方もみんなが一緒になって取り組んでいる姿が、とても印象的でした。そして、今年はいよいよ「連携のあり方」について真剣に発信し、共有し、新たな連携へと発展させていくことが大きなテーマとなったのです。
■モンゴルにおける日本語教育の流れ
モンゴルの日本語教育の歴史について、簡単に触れておくことにします。モンゴルにおける日本語教育のスタートは、1975年モンゴル国立大学文学部にできた日本語コースでした(副専攻)。その後、1990年に民主化・市場経済化が開始され、上述した日本語コースは日本語学科(主専攻)となり、日本語教育は裾野を広げていきました。
そうした中、1993年にモンゴル日本語教師会の前身となる団体が出来、5年後の1998年には法人化し、活発に活動を続けています。特に、2005年にモンゴル教育科学省が「外国語教育新スタンダード」を発表したことが、大きな転換点となりました。これまでの知識偏重型教育から、「学習者中心/実用的/意味・場面の重視/帰納的/コミュニカティブ」の5つのキーワードを挙げ、教育改革を図ろうとしたのです。
これにいち早く取り掛かったのが日本語教育界でした。初中等教育の先生方と、大学の先生方が一緒になって、スタンダード教育を知るための勉強会ができ、ワーキンググループが結成され、ついには『にほんご できるモン』という教材が誕生したのです。
まさに私が参加した3回のシンポジウムは、『日本語できるモン』誕生に向けて、全力投球している時期でした。その時期のシンポジウムのタイトルを挙げてみたいと思います。
2013年「モンゴル日本語教育スタンダードの展開」
2014年「モンゴル日本語教育スタンダードの実践と教材開発」
2015年「スタンダード教科書の開発と教師の教育」
■今年のシンポジウム「初中等日本語教育スタンダード及び高等教育との連携」
この3年間は、初中等では『にほんご できるモン』を使った授業が展開され、もう一方で大学における日本語教育スタンダード導入も進められています。今年のプログラムから、ちょっとその様子をご覧いただきたいと思います。
シンポジウムのタイトル:
初中等日本語教育スタンダード及び高等教育との連携~『できるモン』教材分析と課題(初中等教育)及び教養科目としての日本語教育スタンダード(高等教育)~」
基調講演2件
・連携を可能にする教師の力~つながり重視の日本語教育~
嶋田和子
・『にほんご できるモン』が及ぼす生徒と教師への影響と今後の課題
片桐準二
口頭発表
・初中等日本語教育の現状と課題
D.オユンゲレル、中西令子、牧久美子
・日本語教員養成課程でJFスタンダードを活かしている現状と課題
D.ボルマー
・JF日本語教育スタンダードに準拠した大学生向けの教材開発の試み
デルゲルフツェツェグ、オノン、エンフジャルガル
パネルディスカッション
・初中等日本語教育スタンダード及び高等教育との連携
参加者は、初中等教育で教える先生方、大学の先生方、さらには民間の日本語学校で教える方と、実にさまざまな先生方がいらっしゃいました。終了後懇親会もありましたが、そこでは1か月間実習に来ているという大学3年生、早期退職をして、夫婦で日本語学校で教えている方など、さまざまな方とお話をすることができ、モンゴルにおける日本語教育の裾野の広さ、タテヨコのつながりの強さを改めて感じました。
■『にほんご できるモン』の広がり
では、連携によって作り上げた『できるモン』について、もう少し詳しくお伝えしたいと思います。今回の発表「初中等日本語教育の現状及び課題」の資料によると、次のようになっています。
そして2018年9月現在、『にほんごできるモン』の使用状況は以下のようになっているそうです。
初中等で日本語を教えている学校 31校
『できるモン』を使っている学校 18校
基調講演者である片桐さんの資料スライド3、4を引用して、『にほんご できるモン』についてさらに詳しくお伝えします。
『にほんご できるモン』について①
〇モンゴル日本語教師会の教科書開発プロジェクト
・初中等教育の日本語教師と新スタンダードを学びながら、教科書を開発するプロジェクト
・2012年~2017年の約5年間で8巻完成
『ひらなが』『カタカナ』
『できるモン1上』『できるモン1下』
『できるモン2上』「できるモン2下」
『できるモン3上』『できるモン3下』
『にほんご できるモン』について②
モンゴル日本語教育スタンダードの理念
(1)社会の中で自分の考えを自由に表現し、相互理解するのに必要な外国語能力の育成
(2)子供たちが自分自身の力で学力を進めていく能力の育成
教科書の特徴:モンゴル日本語教育スタンダードの理念を反映
(1)プロフィシェンシー重視=モンゴルの生徒が実際の生活で使える内容を取り上げ、Can-doで目標提示
(2)自律学習支援=自分で考える、振り返る、評価する
■モンゴル教育大学の事例:『できる日本語』で学び、教育実習で『できるモン』を!
モンゴル教育大学におけるカリキュラム改訂の過程について、発表のスライドをご紹介したいと思います。
1.2カリキュラムの根拠
1)高等教育機関で教員を養成する専門方針・インデックスリストに「教員、日本語」が入った。「教育文化科学省大臣 2010年5月20日235番決定に」
2)本学で「教員、外国語」カリキュラムを実施することになった。
3)「JFスタンダード」に基づいて、モンゴルの初中等日本語教育スタンダードを作成し、実施し始めた。そのため、本学ではこれらのスタンダードの理念を理解して、実施する知識・能力をみにつけた人材を育成する必要性が高まった。
1.3 外国語教員養成カリキュラムの目的
教育活動を各学習者の特徴にあわせて、科学的に行う基礎知識や能力を身につけ、
それを実践させたいという心を持ち、自分や学習者を継続的に成長させたいと考える教師。
こうしたことから、それまで使用していた「はじめに文型ありき」の教科書から、『できる日本語』へと主教材を変更し、教育実習では『できるモン』を使っている初中等で行われるようになりました。
教科書『できるモン』を、初中等と高等教育機関の先生方との連携によって生み出し、また、教員の養成に関しても、連続性のある教育で行われている点が、モンゴルにおける日本語教育のすばらしさだと言えます。
■モンゴルにおける日本語学習者数の推移
国際交流基金の日本語教育機関調査の結果を、2015年と2012年で比べてみると、ある特徴がみられます。
初等教育は3割増、高等教育は2割増ですが、その他教育機関が2倍以上の延びとなっています。報告されている最新の調査は2015年であり、3年ごとの調査は、ちょうど今年度実施され、来年発表となります。
今回は、MIATモンゴル航空を利用しました。成田からモンゴルに向かう飛行機では、隣の青年が「ペン、ありますか。使いたいです」と頼んできました。使い終わると、いろいろと日本語で話しかけてきたのです。「私のお兄さんは、日馬富士です。今、ここに、みんな家族います。20人ぐらい。お兄さんは今、日本です」。ニコニコと話す青年は、なんと日本語を独学で勉強し、N5に合格。今、N3を目指しているのだそうです。「もちろん大学院は、日本に行きます!」という彼に、理由を聞いたところ、「日本の学校、とてもいいです。日本で働きたいです。いいです!」と言っていました。こうし独学で日本語を学ぶ人たちも入れると、学習者数はもっと多くなると思われます(国際交流基金の調査は、「日本語教育機関」対象です)。
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まだまだお伝えしたいことは沢山ありますが、この辺で終わりに致します。教科書『できるモン』をご覧になりたい方は、どうぞアクラスにお出かけください。また、国際交流基金のサイトをご覧になるといろいろ出ています。また、私が過去に書いた報告記事もありますので、合わせてご紹介しておきます。
■モンゴルの日本語教育(2017年度):国際交流基金
https://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/survey/area/country/2017/mongolia.html
■「介護士をめざすモンゴルの若き看護師たち:日本センターの介護技能実習候補生への日本語教育」:モンゴル日本センター
■嶋田の過去の報告記事
◆「『にほんご できるモン』誕生ストーリー
~モンゴルで生まれた、モンゴル人学習者のための教材」(2015年3月)
◆「日本式の教育をめざす「新モンゴル高校」を訪ねて~人づくりは、国づくりから~」
(2014.3.26)http://www.acras.jp/?p=2545
◆「モンゴル日本語教師会、外務大臣賞受賞(2013.11.11.)
◆「モンゴルの日本語教育は熱い!」(2013.5. 26)http://www.acras.jp/?p=1458