海外での日本語学習者数<2015年度調査結果>(速報値)が発表になりました!

3年ごとに発表される「海外での日本語学習者数速報値」が11月10日に発表されました。3年前には7月下旬に出ていたので、「いつ出るのだろうか」と、待ちに待った速報値です。

 

学習者総数は33万人減、特に上位3位国では大幅に減少しています。しかし、その減少にはそれぞれの国のさまざまな事情があり、数値だけではなく詳しく見ていく必要があります。国際交流基金から提示された資料には、さまざまなグラフ・表、そして解説が載っています。

 

国際交流基金 Press Release

jf-press-release-2016-11-10

国際交流基金 2015年海外日本語教育機関調査(速報)

2015年海外日本語学習機関調査(速報)

 

こうしたデータに基づき、また過去の数値とも比較しながら、少し考えてみたいと思います。

 

■全体の数は減っているものの~~~。

過去5回の調査を比較すると、前回まで順調に伸びていましたが、今回33万人減となりました。しかし、ここで総数だけを比較するのではなく、どのように減っているのかを見てみると、上位3か国の大幅減による総数減となっていることがわかります。まずは、5回の調査の総数を記します。

 

2003年  2,356,745人

2006年  2,979,820人

2009年  3,651,232人

2012年  3,985,669人

2015年  3,651,715人

 

次に、上位10か国・地域の変化を見ると、中国・インドネシア・韓国が大きく減少していることがわかります。特に、韓国の減り方が著しいのですが、そのことについてはあとで触れることとします。この3か国だけで、504,433人も減っています。つまり、全体では、この3か国を除くと、170,489人増加している状況です。「世界で日本語を学ぶ人は減っているのだ!」と短絡的に見ることだけは避けたいと思います。

 

中国:      -93,207人

インドネシア: -127,286人

韓国:     -283,940人

                                                                                        ・

            

 

■韓国の事情

28万人以上の減少となった韓国を見てみたいと思います。よく「これは日本に対する感情が悪いからだ」などと決めつけられることが多いのですが、決してそうではありません。今年8月の韓国出張では、さまざまな日本語教育関係者とお話をすることができましたが、次のような理由を挙げていらっしゃいました。

 

・2001年度から大学修学能力試験(大学入試)に第2外国語(フランス・ドイツ語・スペイン語・中国語・日本語・ロシア語の6科目)が含まれることになりました。それを機に、多くの学校が第2外国語の科目を日本語や中国語に変えることになりました。

 

・2009年度から2010年度にかけて行われた教育課程改編(2009年改定教育課程)で、第2外国語が必修科目から選択科目になったことが、第2外国語の学習者急減の大きな要因となりました。それが2012年調査結果に表れています。

 

今回の結果が発表になったのは、11月10日であり、8月の段階ではわかりませんでしたが、日本語教育での仕事を失った先生方も多く、「韓国では日本語学習者が確実に減っています。それは、日本語への関心がなくなったというわけではなく、少子化で学生数が減っていることと、やはり高校で必須科目から外れたことが大きいですね。韓国では、日本語学習者の8割が中等教育ですから」とおっしゃっていました。

 

参考:韓国における少子化

 

       .

 ■インドネシアの事情

 

インドネシアに関しても、2013年の教育課程の改定が大きく響いています。それまで必修科目だった第2外国語が選択科目になったのです。中には、この教育課程の改定をきっかけにして、第2外国語をやめる教育機関も増えました。そのことが、2015年の調査に大きく表れているといえます。この件に関しては、2013年12月30日のアクラス記事「インドネシアの日本語教育事情~さまざまな変化の中で~」(http://www.acras.jp/?p=2230に記しました。1週間、バンドンにあるインドネシア教育大学に滞在した時に、先生方から伺った話をもとに書いたものです。その記事の中から2人の先生のお話をご紹介したいと思います。

【アグスさん(パジャジャラン大学) 】

「選択科目の決定権をもつ校長先生達を日本に招待し、日本の良さを知ってもらうプログラムが必要です。そうした先生方が日本語を学ぶ意味がわかることで、日本語科目を入れようとしてくれます。また、インドネシアで日本語を教える先生方の多くが日本に行ったことがありません。だから、日本語の先生達が1週間でも2週間でも日本に行って「日本を体験する」機会を与えるプログラムを考えてほしいですね。それで、先生達の気もちが高まります。今こそ、学生が日本語を学ぶ動機付けの大切さ、そして、日本語を教えている先生方の動機がさらに高まるような工夫が必要なんですよ。そのために、私達大学の教師は、今後は高校をどんどん回って、『日本語はこれから伸びていく。日本語を学ぶことには、こんな意義があるんだ』ということを伝えていっていこうと思っています」

  【ダヒディさん(インドネシア教育大学)】

1980年代と今の時代、ある意味よく似ています。同じような移り変わりだと思いま す。日本語学習がどんどん減っていくかというとそんなことはないでしょう。これからは、どうして日本語を勉強するのか、したいのかということを学習者がもっとはっきり意識できるようにすることが大切です。学習動機アップの研究が大切です。それから、日本語への関心度を高くするためには、インドネシアの中で大学と高校の連携、それから国際交流基金との連携、いろいろな連携が必要です。そうそう、そのためには、発信が大切ですね」

 

 

私は、こうした先生方のご努力があったからこそ、この程度の減少数で済んだのではないかと思っています。

 

■機関に属さない学習者数の増加

この国際交流基金の調査は、海外における日本語学習の動向を知る上で、とても意義あるものですが、最近のように独学で日本語を学ぶ人が増えている中では、課題もあるように思います。きっとインターネットやゲームなどで自分で学んでいる人達をいれると、かなりの数になるだろうと推測されます。最後に、インドネシアで独学で日本語能力試験N2を取り、日本語学校に入ってきたジョハンさんの言葉をご紹介したいと思います。

「『もっと変わる勇気を!」~留学生からのメッセージ」

http://www.acras.jp/?p=3285#more-3285

■どうして日本語を勉強し始めたのですか?

日本に来るまで、日本語は自分で勉強しました。アニメとゲームで・・・。日本のアニメやゲームが大好きで、アニメは小学校から、ゲームは「信長の野望」が本当に面白くて~~~。日本の歴史って、面白いですね。いろいろな人物が本当に面白い!

■これから日本語を勉強する人に対して「ひと言メッセージ」を!

まず、勉強を楽しめる人になってください。「漢字は友達」って感じが大切。楽しく勉強するには、漢字を分解してみるといいと思います。たとえば「語」は、「五/口/言」でしょ。

それぞれ意味があるから、それを考えると楽しくなってきます。

それから、何のために日本語を勉強するかを考えると、やる気がどんどん出てきます。私は、日本に行きたかったし、趣味のゲームやアニメのことをもっともっと知りたかったから、勉強するのが楽しかった。もちろん今も本当に楽しいです。将来は、ゲームを作る会社を作りたいです。

あと、マイペースで、ということ。日本は大好きだけど、日本に流されないように気をつけてください。自分の文化とか、いいところをずっと持ち続けることが大切だと思います。

6 Responses

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  1. 初めて書き込みさせていただきます。

    タイムリーなお話をありがとうございます。
    大変参考になりました。

    教育課程の改変をしようとすると、日本の大学は非常に時間がかかりますが、
    韓国はスピーディな改変が可能でダイナミックだと聞いたことがあります。

    グローバル化とその反動が起きている世界で、「学び」のスタイルそのものが
    変わりつつあるのかもしれないなぁ、と記事を拝見して感じました。

    1. 高木さん、コメントをありがとうございました。確かに韓国はスピーディなのですが、昔はよく「入試制度がすぐ変わるから困るんです」などという声も聞いたことがあります。良さもあれば、課題もあるのでしょうねえ・・・。でも、日本はもう少し見習う所があるように思います。

  2. 嶋田先生、とても興味深く拝読させていただきました。最新情報ありがとうございます。

    1. 杉原さん、コメントをありがとうございました!

  3. 世界の日本語教育状況を知るためにこの調査結果に興味をもっていましたので、早速の紹介と考察をありがとうございました。各国の教育政策や教育課程の変更も考慮して総数の結果を理解する必要性についてのご指摘もありがとうございました。

    また、「学習動機アップの研究が大切です。それから、日本語への関心度を高くするためには、インドネシアの中で大学と高校の連携、それから国際交流基金との連携、いろいろな連携が必要です。そうそう、そのためには、発信が大切ですね」というダヒディさん(インドネシア教育大学)のコメントに共感しました。

    学習者数の減少が20年続いているニュージーランドでは、日本語学習目的を把握するための調査(高校生と大学生)を昨年と一昨年に行い、今後の対策の一助とする予定です。また高校間、高校大学間、そして海外の教育機関との連携についても模索を続けていきたいと思います。アクラスを通して多くの方々とつながりを得る機会にも感謝しています。

    1. 荻野さん、コメントをありがとうございました。今回のJFの結果を表面的に見るのではなく、さまざまな要因を皆様とご一緒に考えていきたいと思い、投稿しました。ダヒディさんとは、迫田科研の調査で1週間バンドンでご一緒させていただきました。いろいろなお話を聞かせていただきましたが、特に学習者数に関してのお話には、私も共感を覚えました。今度ニュージーランドの日本語教育事情を教えてくださいね。

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