インドネシアの日本語教育事情~さまざまな変化の中で~

インドネシア教育大学の素敵な建物です(夜には、ライトアップされ・・・)

インドネシア教育大学の素敵な建物です(夜には、ライトアップされ・・・)

12月下旬、大規模学習者コーパスの構築に向けて日本語学習者の言語データを収集するために、インドネシアのバンドンを訪れました。調査の前後、また1週間の実施期間を通して、さまざまな先生方からインドネシア日本語教育について教えていただくことができました。書物やデータなどから受け取る二次的な情報ではなく、「現地で、現地の先生方から聞く生の話」は、とても貴重なものでした。また、大勢の学生さんとのインタビューからも、さまざまなことを学ぶとができました。

■数年間伸び続けたインドネシア日本語教育の今後は?~教育改革による影響~

インドネシアの学習者増は目覚ましいものがあり、2006年調査では272,719人でしたが、2009年には716,353人と2.5倍に急増。さらに2012年には、872,403人となり、韓国を抜き世界2位となりました。この学習者数の急増に、多くの目がインドネシアに向けられました。しかし、実は、この急増は、2004年に始まった教育改革が大きく影響しているのです。それは「理科系=選択科目として日本語を学ぶ、社会系=週2時間必修として日本語を学ぶ、言語系=週9時間必修として日本語を学ぶ」という方針によるものです。こうしたカリキュラム改革によって学習者数は増えてきましたが、ここに来てまた教育制度が変わりました。

空手の練習に励む大学生

キャンパスで空手の練習に励む大学生

実は、2013年7月より高校において外国語は選択科目ということになったのです。まだ中学での実施は個々の対応に任されている状況ですが、いずれ全部の学校に・・・ということになるそうです。その理由としては、インドネシア語を学ぶことを大切にしたいこと、さらには人を育てる教育を重視したいという動きによるものです。今後日本語も高校において選択科目となってしまえば、学習者数が減ってくることは必至です。そこをどのように対応していけばいいのか・・・・・・インドネシア日本語教育はまた大きな岐路に立たされています。

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■日本への期待~もっと積極的に「日本訪問」のチャンスを!~

外国語が選択科目になるということは、その学校の選択科目を決定する校長によって日本語が取り入れられるかどうかが決まってくることになります。となると、日本としてはもっと積極的に「まずは校長先生に日本を見てもらうこと、日本社会を自分の目で見て、肌で感じてもらうこと」が大切になってきます。こうしたことを日本側でどれだけの人が既に考え、動き始めているでしょうか。現段階では、大きく増えた数字にばかり目が行っているのではないでしょうか。

確かに、インドネシアでは日本語学習者が大幅に増加し、韓国を抜きましたが、その韓国の学習者減の理由について、外務省の「海外における日本語の普及促進のための有識者懇談会報告書」では、次のように述べられています。

UPI(インドネシア教育大学)内のモスク

UPI(インドネシア教育大学)内のモスク

「韓国における学習者数の大幅減の主たる原因としては、高校の教育課程の改定(2009改定教科課程)2009年告示、2011年実施」に伴い、第二外国語が高校の必修選択科目から自由選択科目に変更となり、他の外国語とともに日本語を選択する者が減少したことが挙げられる」

となれば、近い将来インドネシアにおける学習者数においても大きな変化が出てくることは必至です。こうしたことを一刻も早く捉え、迅速に動くことが求められています。「インドネシア日本語教育の発祥の地」と言われるパジャジャラン大学のアグス先生は、次のように意見を述べてくださいました。

12時のお祈りの時間(大学の内の教室で)

12時のお祈りの時間(大学の教室で)

「選択科目の決定権をもつ校長先生達を日本に招待し、日本の良さを知ってもらうプログラムが必要です。そうした先生方が日本語を学ぶ意味がわかることで、日本語科目を入れようとしてくれます。また、インドネシアで日本語を教える先生方の多くが日本に行ったことがありません。だから、日本語の先生達が1週間でも2週間でも日本に行って「日本を体験する」機会を与えるプログラムを考えてほしいですね。それで、先生達の気もちが高まります。今こそ、学生が日本語を学ぶ動機付けの大切さ、そして、日本語を教えている先生方の動機がさらに高まるような工夫が必要なんですよ。そのために、私達大学の教師は、今後は高校をどんどん回って、『日本語はこれから伸びていく。日本語を学ぶことには、こんな意義があるんだ』ということを伝えていっていこうと思っています」

 

日本語教育学科の先生方とご一緒に

日本語教育学科の先生方とご一緒に

■「インドネシアと日本との関係の深さ」を大切に!

もちろん今年からのカリキュラム改正で、日本語が必修科目から選択科目になったことで、一時的には日本語学習者は減ることでしょう。しかし、その先の見通しについて、インドネシア教育大学のダヒディ先生は、次のように話してくださいました。

「1980年代と今の時代、ある意味よく似ています。同じような移り変わりだと思います。日本語学習がどんどん減っていくかというとそんなことはないでしょう。これからは、どうして日本語を勉強するのか、したいのかということを学習者がもっとはっきり意識できるようにすることが大切です。学習動機アップの研究が大切です。それから、日本語への関心度を高くするためには、インドネシアの中で大学と高校の連携、それから国際交流基金との連携、いろいろな連携が必要です。そうそう、そのためには、発信が大切ですね」

日本留学も長く、日本語を教えることをこよなく愛してくださっている先生方は、口をそろえて、「日本との連携」「インドネシア国内における中等教育と高等教育機関の連携」の大切さについて語ってくださいました。こうした海外における日本語教育事情を細かに見ていきながら、真の意味の「連携」を確立していきたいものです。

■大学生の「日本文化への関心」の高さに感動!

みんな明るく楽しい学生さん達でした。

みんな明るく楽しい学生さん達でした。

今回の出張で多くの先生方や学生さんと話をすることができたことは幸運でした。その中で多くの大学生が日本や日本文化への興味・関心について語ってくれました。こうした現地で日本語を学ぶ大学生達の声を大切にしていきたいものです。

◎私の夢は、日本の幼稚園で働くことです。できるかどうかわかりませんが・・・。私は日本が大好きです。そして子どもが大好きなので、幼稚園の先生になりたいです。両方できるために、「日本の幼稚園」で働きたいです。

◎私は、日本語の先生になって、それからずっと後、日本料理のレストランか屋台を経営したいです。高校生の時にジャパンクラブに行きました。そこで、先生が「お寿司」とか「たこやき」とか「お好み焼き」の作り方を教えてくれました。本当においしかったし、楽しかったです。それで、日本語の勉強が好きになりました。

◎高校生の時、本屋さんで日本語の辞書を見ました。その時「かわいい!」って思いました。字もかわいいですけど、フランス語みたいに字と読み方が違うってことはなくて、そのまま読めばいいからいいな! って思いました。もちろん勉強を始めたら、難しかったですけど。でも、難しいけど、日本語も日本の文化も大好きです。

◎高校の日本語の先生になったら、日本の文化、お茶とかいろいろなことを教えます。生活も教えたいです。日本の生活は、時間をちゃんと守るし、日本人はよく働きます。とてもいいと思います。それをインドネシアの高校生に教えます。それが夢です。

バンドンの大学内ホテルから見た街の景色(12月24日)

バンドンにあるインドネシア教育大学内のホテル(Isola Resort Hotel)から見た街の景色

 

 

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