10月29日(土)に、ウィーン大学にてオーストリア日本語教師会の皆さまに、「『対話力』と『つながる力』を育てる授業実践」に関する講演&ワークショップを行いました。見事な歴史的建造物であるウィーン大学で、熱心に話を聞き、対話に夢中になる参加者の皆さまと過ごした
1日は、私にとっても貴重な体験となりました。
オーストリアの日本語教育に関しては、国際交流基金の『海外の日本語教育の現状』にも数値しか出ていませんし、あまり資料がないのが現状です。
参考:
国際交流基金「オーストリア(2014年)」
https://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/survey/area/country/2014/austria.html
東京外国語大学 国際日本研究センター「ウィーン大学」(2013.12調査)
http://www.tufs.ac.jp:8080/common/icjs/jp/ed/0047.html
そこで、せっかくウィーンで日本語教師の皆さまとお会いする機会を得たので、いろいろお聞きしてみるこ
とにしました。特に、研修会前日の夜、オーストリア日本語教師会会長のマダドナーさんにお話を伺えたことは、楽しく有意義な時間でした。では、簡単ではありますが、オーストリア日本語教育事情についてご紹介したいと思います。
【基本情報】
オーストリアにおける日本語教育機関数と学習者数
(国際交流基金 2012年度日本語教育 機関調査結果より)
機関数 21か所
教師数 42人
学習者数 1,687人
・初等教育 0人
・中等教育 33人
・高等教育 967人
・学校教育以外 687人
♪ ♪ ♪
.
■オーストリアにおける日本語学習の動機とは……
上記の国際交流基金2012年調査によると、オーストリアでは、初等教育での学習者はゼロ、大学での学習者が多いのが特徴です。その中でもウィーン大学東アジア学科日本学には、近年200人ほど新たに日本語を取る学生がいるそうです。最近では学生数の変動はあまりなく、同じような数で推移しています。では、ここ30年ほどのオーストリアにおける日本語学習の動きについてお話ししましょう。
1980年にアメリカで誕生したテレビドラマ『将軍 SHOGUN』は、劇場映画に編集されヨーロッパにも広がっていきました。当時の日本の強い経済力にも支えられ、オーストリアでも一気に日本語熱が高まることになりました。
その後、2000年前後には、ゲーム・漫画に対する関心が高まり学習者数が増えましたが、最近では、ゲーム・漫画に特化した興味ではなく、むしろ日本全体への興味から学び始める人が増えていると、ウィーン大学で教えるオーストリア日本語教師会会長のマダドナー・めぐみさんは次のように語ってくださいました。
・
以前は、「日本の漫画が好きだから、ゲームが面白いから」という理由でしたが、今はむしろ「日本のすべてが好きです」「日本はすばらしいです」とはっきり言い切る学生が増えま した。そこはかとない日本への憧れから日本語を始める人が増えているようです。ポップカルチャーの魅力が大きいですねえ~~。
そうそう、こんなこともあります。高校では「さまざまな国について調べて発表する」というプロジェクトがある学校が多いのですが、そこでたまたま日本を調べたことがきっかけで日本に興味を持ち、大学で日本語学習を始めたという人もいますね。まずは「日本という国・日本文化」を知る機会がもっと豊かになると良いですよね。
また市民大学などでも、日本語や日本そのものに対する興味から始める人が多く、高校生から70代までさまざまな学習者がいます。もちろんポップカルチャーの影響も大きいのですが、空手などの武道への関心から日本語を始めた人も目立つそうです。
■日本とは異なる大学入学・卒業の制度とは……
オーストリアには医学部など一部を除いて大学入学試験がありません。ドイツのアビトゥーア(Abitur)の
ように高校を正規に修了するためのマトゥーラ(Matura)という卒業試験に合格していれば、誰でも大学に入ることができます。そのためすぐに大学に入るとは限らず、数年社会で働いた後大学生になったり、また、なかには定年退職した後入学したりする人もいるそうです。しかも授業料は無料なのですから、とても素晴らしい制度ではありますが、その「いつでも……」ということがかえって大学を卒業するという人を減らす原因にもなっているようです。
最近ウィーン大学の日本学専攻で見られる傾向としてマダドナーさんは「ハンガリー、ウクライナ、スロバキア、ドイツなど近隣諸国からの留学生数の増加」を挙げていらっしゃいました。それは、「オーストリアの大学には定員枠がなく、日本学には入学試験がない」ということから、高校卒業修了認定があって、ドイツ語ができれば入学が可能だからなのです。ウィーンという町で、オーストリア人だけではなく、さまざまな国から来た留学生と一緒に日本学を学ぶというのは、多様性の中での学びであり、素晴らしいことだと思いながら、お話を聞いていました。
■もっと上級が学べる教育機関があれば……
今、オーストリアには初級から中級まで一貫したプログラムで集中的に日本語を学べる場が少ないそうで
す。ゲーテインスティチュートやアテネフランセのような、上級まで学べる語学講座が大学以外でも開設されれば、日本と日本語への強い関心をさらに持続・発展させられることでしょう。
ここで、初等教育における日本語学習者数がゼロであること、中等教育においても2桁である点について触れておきたいと思います。それは、国として日本語を学ぶメリットを感じないからであり、日本人とのコミュニケーションは英語で十分と考えているうえ、外国語として重要なのはEU圏内の言語であるととらえられているためだと聞きました。たとえ課外授業からのスタートであったとしても、もう少し初等・中等教育機関で日本語が導入されるにはどんな方法が考えられるのか……ちょっと考えてみたいテーマです。
■オーストリア日本語教師会の特徴とは……
オーストリアには、80年代後半から日本語教師が集まって勉強する会がありましたが、1995年から「日本語教師の会」として定期的に勉強会を重ねてきました。その後2001年には「オーストリア日本語教師会」と名を改め、活動を続けています。教師会の特徴を会長のマダドナーさんに伺ったところ、次のように語ってくださいました。
とても緩やかな集まりなんです。年会費4ユーロを払った人が会員ということで、特に定款を作ったり、総会をしたりはしていません。でも、多くの方がずっと長く続けてくださっています。会の目的は、研鑽の場づくり、情報交換、ネットワークづくり、……といったところでしょうか。
とはいえ、毎年必ず2回はウィーンで勉強会を実施し(時には年3回実施)、会員の多くが参加しています。ヨーロッパのさまざまな国の日本語教師会を見てきましたが、この緩やかな、しかも温かいつながり方にオーストリアの持つ特性を感じながらウィーンを後にしました。
・
コメントを残す