ある研修会での「漢字教育士」との出会い~漢字で「人がつながる活動をしたい」と語る中村さん~

9月25日は、兵庫県国際交流協会主催「日本語教師のための地域日本語教育研修」がありました。そこで、私に与えられたテーマは「『生活者としての外国人』への日本語教育にチャレンジ!~留学生教育と何が違うのか~」でした。

 

チラシ神戸これからさらに大切になってくる地域日本語教育に、さまざまな方が関わっていってほしいという思いから開催された研修会でした。ベテランの日本語教師は誰でも「地域日本語教育で活動できる」というわけではありません。地域日本語教育に大切な視点、能力、姿勢が求められるのです。そして、私が皆さんにお伝えしたかったこととして、「地域日本語教育に関わることで、私自身の留学生教育も刺激を受け、教師の成長につながった」ということがあります。

 

さて、研修の中で、「居場所づくり」の大切さに加えて、日本語の力が「生活者としての外国人」の人生を変えていくことをお伝えしたくて、私が12年関わっている「能代のNさん」の「離婚訴訟の記事」を持ち出しました。「北羽新報2019.2.9」の記事を一部引用します。

 

「言葉が人権を守る」

離婚訴訟で勝ったロシア人の母親がいる。要因は日本で読み書きができた

から。分厚い書類を日本語で書き、自分の意見を述べて子どもを引き取った。

言葉の学びは人権だと思った。単なるコミュニケーションツールではなく、人権を守るため必要なのだと痛感した。

 

そして、「漢字を楽しく覚えること」の重要性について話し、浜松在住の漢字教育士「ブレット・メイヤーさん」のことを紹介しました。すると、ある受講生から「私も、漢字教育士として活動しています。ブレットさんもお知り合いです」という発言があり、ここから思いがけない「つながり」が生まれました。では、漢字教育士であり、日本語教師をなさっている【中村例さん】をご紹介しましょう。

 

■「漢字の勉強はつまらなかった」からこそ、興味を持った中村さん

中村さんは、小学校のとき、漢字の勉強がつまらなくて仕方かなかったと語り始めました。「どうして漢字の勉

中村礼さん→「中村礼です。自作の漢字クラフトを開発しています」

中村例さん→「中村礼です。自作の漢字クラフトを開発しています」

強って、こんなに退屈なんだろう。ただ何回も書いて覚えるなんて……。そもそも覚える意味は、何なんだろう?」と、宿題もほとんどしない状態でした。そんな中村さんに転機が訪れたのは、小学校3年生のときでした。

 

ふと国語辞典の最後を見ると、小学校1年生から6年生までの間に習うすべての漢字が載っていました。4年生、5年生の欄を見ると、なんと「知っている漢字」が結構あったのです。それは、地名、友達の名前などで見たことがある漢字でした。知っている漢字を消していくと、残った漢字も「知っている漢字」と形が少し違うだけであることがわかりました。「そうか!漢字は、こういうことだったんだ!」と、急に興味が出てきた中村さんは、次に漢和辞典をお父様に買ってもらい、どんどん自分で調べ始めました。

 

 

■漢字検定1級合格を支えた「漢字大好き人間」の仲間たち

漢字検定1級に何度もチャレンジしては失敗したと、明るく語る中村さんは、チャレンジして5年後の2015

「消しゴムはんこです。甲骨文字など、鉛筆や紙ができる前の文字を削る追体験を狙いとしています」(中村談)

「消しゴムはんこです。甲骨文字など、鉛筆や紙ができる前の文字を削る追体験を狙いとしています」(中村談)

年に、合格を手にすることができました。ここまで年月をかけ、しかも楽しくやって来られたのは、「仲間の存在」が大きかったのです。試験を受けに行った時や、受験勉強をしている時にネットでいろいろなやり取りをする中で、仲間がどんどん増えていきました。

 

漢字が大好きな仲間たちと、SNSでやり取りをすることの楽しさは、格別です。小学校3年まで漢字が大嫌いだった中村さんが、今では漢字を通して、人とつながり、アイディアや体験を共有できることで喜びを感じているということに、話を聞いていて胸が熱くなりました。人はちょっとしたきっかけで、「苦手が得意に」「嫌いが好きに」変わることができることを再認識しました。オフ会は毎年1回開かれていますが、日常的にネットでつながり、対話をしているのだそうです。

 

■「漢字で人をつなげたい!」と、漢字教育士を目指す!

漢字検定1級を手にした中村さんが、すぐにチャレンジを始めたのは「漢字教育士」でした。

「消しゴムはんこの道具です。道具が増えるとアイデアも広がります」(中村談)

「消しゴムはんこの道具です。道具が増えるとアイデアも広がります」(中村談)

これは、立命館大学が始めた資格でが、サイトには次のように記されています。

 

「漢字教育士」は‘漢字を学ぶ楽しさを伝えたい’‘漢字を教え、地域と人とのコミュニケーションを深めたい’ という方に向けた新しい資格として、立命館大学白川静記念東洋文字文化研究所が2011年より制度運用を開始しました。漢字の構造などを体系的に学び、漢字の知識を深め、更には身に付けた漢字に関する様々な知識やスキルを、
学校における国語教育や地域社会における学習ボランティアの指導現場などに活かすことのできる資格です。現在、全国で約100名の方が漢字教育士の資格を取得し、各方面で活動を始めています。(2019.9.26検索)

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漢字検定1級取得の翌年には、漢字教育士の資格を取り、今では小学校に出かけたりして、「漢字で人をつな

「スクラッチペーパーという紙です。黒い所を削ると光沢のある面が浮かび上がります。これも漢字学習に使っています」(中村談)

「スクラッチペーパーという紙です。黒い所を削ると光沢のある面が浮かび上がります。これも漢字学習に使っています」(中村談)

ぐ」活動をしています。そして、「漢字仲間」からのアドバイスで、今では日本語教師としてお仕事をしていらっしゃるのです。実は、以前は福祉関係の仕事をしていたのですが、「そんなに漢字が好きで、得意だったら、日本語教育の道に進んだらどう?」という先輩のひと言が、中村さんを新たな道へと駆り立てました。教壇に立って一年という今、「いろいろな現場にチャレンジして、これからのことを考えていきたいと思います。『漢字で人をつなぐこと』を大切に活動していきます」と、抱負を語ってくださいました。

 

 

■漢字を学んでいる人たちへのメッセージ

最後に、漢字を学んでいる人たちへの中村さんからのメッセージです。

 

たくさん書くことより、もっとゲーム感覚で勉強したら楽しく覚えられますよね。

この漢字とこの漢字やよく似ている。ここは同じだ、と。この漢字、どんな形から出来ているんだろ

「甲骨文字の書かれた亀甲(カメの甲羅)のレプリカです。実物に近いものを触れてもらうことで、参加者のイメージを膨らませるのに活用しています」(中村談)

「甲骨文字の書かれた亀甲(カメの甲羅)のレプリカです。実物に近いものを触れてもらうことで、参加者のイメージを膨らませるのに活用しています」(中村談)

う?どんな特徴があるかな?どうやって覚えたらいいかな?と考えてみてください。楽しいですよ!

 

当日、中村さんのカバンの中には、「漢字教育士」としての活動のための「楽しい小道具」がいろいろ入ってい

ました。許可を得て、写真を撮らせていただきました。どうぞご覧ください。

 

参考:

◆ブレット・メイヤーさんの記事

「漢字は物語であり、アートであり、玩具である」と語るブレット先生

~漢字検定1級に合格し、漢字教育士として活躍!

http://www.acras.jp/?p=6292

 

◆立命館大学漢字教育士

http://www.ritsumei.ac.jp/rs/category/tokushu/130628/kanjikyoikushi.html/

 

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