12月のアクラス研修は、中川知恵子さんによる「音声学習は楽しい!~自分に合った学習方法や指導方法を見つけよう~」でした。
音声指導に関心の高い先生方が多く、当日は活発に質問が出たり、意見を交換したりと、有意義な時間でした。今回の報告レポートは、早稲田大学日本語教育研究センターの鈴木修子さんが作成してくださいました。
まず、講師から掲載OKとのことで、送って頂いた資料をご紹介します。当日使用したパワーポイントに加え、OJADを授業で練習するときの資料もいただきました。
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・当日使用したパワーポイント
・OJADを授業で練習するときの資料
① 配布物➡OJADスズキクン授業配布物
90分授業に使っているマニュアルのようなものです。
② 提出物モデル➡提出物モデル
これは学生の作文をここに書いたりコピペして提出します。
③ 参考マニュアル➡OJAD参考マニュアル
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12月アクラス研修報告レポート
「音声学習は楽しい!自分に合った学習方法や指導方法を見つけよう」
鈴木修子(早稲田大学日本語教育研究センター)
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「『生』中川先生にお会いしたかった!」そんな黄色い(?)声も上がる中、中川先生らしく淡々と、しかしフレンドリーに講義は始まりました。
<前半>
◆「発音指導はどこまでやるべき?どんな発音になればいいの?」
誤解のない話し方をめざすとか、日本人ぽくなりたいとか、きれいな発音とか、具体的には
例えば日本人のだれ?、どんな発音を指して言っているの?
教師や学習者の思い込みのイメージかもしれないし、直すべき原因を本当にわかっているのかと思う。
◆「発音って直せる?」
発音を直してもなかなか直らない。
人によって得意不得意もあるし、授業が終われば元の木阿弥になるのはざら・・・。
◆「自律した学習者に」
学習者も教師も、PDC(s)Aサイクルを自分で気が付いて回していけるようにならなければならない。
問題点に気づいて、意識して、続けていかなければいけない。
学習者が自律した学習者になるために、教師はそのための支援者である。
そして教師も自律した教師にならなければならない。いろいろな方法を自分で考えて料理していけることが肝心。
*学習者オートノミー(青木先生の定義):学習者は自分の学習について自分で決める権利がある。その権利者なのである。
◆「到達目標は『伝えること、伝わること』」(スライド4)
聞き手に伝わること。聞きやすく分かりやすい発音
それができればいいと私は思ってる。しかしなかなかできない。そこで小さい目標を立て、それをつぶしていくという考えでやっている。
「句切り」と「への字」、この二つがまずできればいいと考えている。(略)
アクセントは5番目。右に表記してあるパラ言語的な目標、これも大事。
スピーチだとゆっくり、聞き手への配慮も大事。いくらきれいでも気持ちもなくては伝わらない。自信がなくて、もぞもぞ言っても伝わらない。
聞き手がいる、対話だと思って、キャッチボールなんだよと思ってスピーチなどやってみることが大切。
繰り返しますが、いきなりすべてを目標にされたら大変なので、まず「区切り」、「への字」ができればいい、特にスピーチの場合は、これだけでOK、大事なことはこれだけです、というシンプルな提案。
次の段階でアクセント、それはOJADを使いましょうというスタンス。
大切なのは焦点化。
発音上達のために、あまりあれこれやらない。またいろいろ問題あるけど、その時考える力っていうのも大
事。それから、上手になってない気がしても、練習してればどっかに上手になってるもの、だからだいじょうぶ、だいじょうぶ!って気持ちでね。
教室だけの日本語はフォーマルな日本語であって、それ以外にもいろいろな日本語(バリエーション)があるというのも頭に入れてほしいですね。
◆「お互いが言語ユーザー」
自分が非母語話者だから、あるいは地方出身者だからと言って、アクセントに自信がないという教師もいるかもしれない。それなら学習者にジャッジしてもらえばいい。
母語話者も、非母語話者も、教師も、学習者もユーザー、みんな同じ言語ユーザーという考え。先生だからって偉いわけではない。先生が勝っているわけではない。それはCEFRの考え方。
お互いに何か足りないところを補い合えばいい、先生がだめだというわけではない。みんながそれぞれ自信をもっていればいい。みんなの共同作業だと思う。
◆「原点は個人的体験」
フランスに住んでいるとき、チーズ屋さんに行って、rとlが難しい発音の、欲しいチーズ名(フロマージュブラン)を緊張して言ったら通じなかった。
がっかりしたけど、再度出直して、チーズ名の単語だけでなく、今度は文にしてそれがほしいと言ったら、すぐにわかってくれた。
文がなんとなくつながっていれば、聞き手は文全体のイントネーションに注目するということに気づいた。
「これはいいわ!」と思ったこと、それが原点。
できないことにこだわらない。rとlも、意識すれば発音できるけど、じゃ、
一生それを意識して生きるの? 意識しなきゃできないんだったら、そこにこだわっていく必要があるの?
ということで、できないことは、あきらめましょう。(笑)
◆「『句切り=スラッシュ』と 『への字』実践例」
学習者のサンプル録音を聞いて、
だらだら読ませて録音したものと、次にスラッシュを入れて、句切りを入れて読んでもらったものとで、ずいぶんわかりやすくなった例などをいくつかを紹介。
(日本人も同じ。アナウンサーや講演上手な方は、句切りを意識して入れている。)
次に日本人のモデル録音とともに、音声解析ソフトでの波形を見てみると、学習者に句切りを入れて読んでもらったものが、日本人のものと近い波形になっていることがわかった。
スラッシュで区切って読むと、上手に聞こえる、学習者自身もこれならできる、これしかできない、という人もいる。
日本人の上手に読んだサンプル音声を解析してみると、
句切り、への字、アクセントで日本語のイントネーションは決まるということがわかる。
(よくある質問ですが、アクセントは単語のもの、イントネーションは文レベルで気持ちを表す、文末だけでなく、どこで区切るかもからんでくるものです)
では、句切りをどこで入れるか。
実際にスラッシュを入れる具体例を、新しい著作本(執筆中)では詳しく紹介している。(「つたえるはつおん」というサイトでも、3分でスラッシュの入れ方を紹介している。)
たとえば、文を読んで内容理解をしてちょうどいいところで区切る。しかし助詞で区切ると多すぎて、きれいなへの字にならない。長いところでは区切る、15拍程度以下で区切る。句読点などのポーズをとるなど。
◆初級用本『日本語発音アクティビティ』
上記を教科書とする授業を実践。短い会話でも、教科書を読むのでなく、大きいクラスでも、立って動いてふりもいれて言わせると、ちゃんと言えるようになる。発音もちゃんと自然な感じになってくる。教科書読むだけって意味がないってことがわかるし、意味のあることをやらないとほんとに上手にならないと思う。
まずウオーミングアップで文型など確認。自己紹介や4課くらいまではローマ字表記で、音の高さをローマ字の大文字で表している。また気持ちを表す「わー」とか「へ~」というのも練習に入れている。
(学習者はこれが結構好き。)シャドーイングなどもして、本を見ないで言えればなおいいけど、とにかく本を見てもいいから声を出すこと、それを推奨。そうすると、日本語には結構ポーズがあることがわかる。
◆「実践練習いろいろ(スライド参照)」
一つ一つの音については、「つ」が「ちゅ」になるなど、大体入門期に発音の仕方など習っていて、知っている学習者も多い。実は、あとはそのとおりに丁寧に発音するだけであったりする。
その他の練習としては、簡単な準備運動的な文で練習したり(スライド16~)、区切り、への字、アクセントのほかにフットの感覚を体で覚えてもらったり、単語アクセントは、山形か,丘型か、そして頭型か、を紹介している。
口の断面図は、(スライド23)摩擦音のみ。
早口言葉も有益なので、出席をとる代わりにこれを言わせたりしている。
そして、大切なのは自己評価をすること。またお互いに評価できるコンテスト式もグループで行っていて、
誰が一番わかりやすかったか、感じがよかったかなども意識させている。
<後半>
「OJADの使い方のデモ」
◆サイトでも使い方などのサンプル動画などがある。
◆有名教科書別の単語にアクセント表示ができ、印刷もできる。
◆動詞のアクセントと音声が入っているし、活用別に並べ替えることもできる。
◆「スズキクン」で、文章を入力すると、「アクセント」と「への字のピッチカーブ表示」が出て、音声で読み上げてくれる。
◆オリジナルの会話を入力して、男女の音声で読み上げるような設定もできる。
他にももっと細かい設定で、いろいろなバリエーションができるようです。
ぜひご活用ください。
<まとめ>
皆さんは、なぜここにいますか。探し物は何ですか。それは見つかりましたか。
先生のそんな問いかけに、これまでの発音指導に関する経験や疑問の思い出の数々が交錯する中、何か安心できる着地点をそれぞれが見つけられたように思いました。中川先生、ありがとうございました。
当日、キャンセル待ちをして参加させていただきました。
このまとめを拝見して、自分のメモを見直して、スピーチ、イントネーション、アクセント、発音、それぞれのレベルで出来そうなことから始める事が大切なのだと、感じました。
学生を前にすると、つい、要求が高くなってしまいがちですが、できるところからコツコツする事も忘れてはいけないと思いました。
今後、発音、アクセントに特化した授業を受け持つ予定もあるので、今回のセミナーは大変実践的で勉強になりました。ありがとうございました。
荻嶋さん、嬉しいコメントをありがとうございました。実践に役立てていただければ、幸いです。忙しい時期に研修報告をまとめてくださった鈴木さん、そしてたくさんの資料を提供してくださった講師の中川千恵子さんに感謝です。今後もこうして実践を通して教師のつながりがより強くなっていくことを願っています。