2月9日(月)の午後、アクラスで次のような特別研修会を開きました(今回は、「有志の会」と致しました)。
◆タイトル:漢字の楽しい学び方
◆話題提供者
①メルキ能子さん(スイスで日本語学校を経営)
参考:「スイス日本語教師の会」から学んだこと
②田室寿見子さん(劇団シン・ティテューロ主宰)
http://www.jripec.aoyama.ac.jp/publication/results/rlt0003_11.pdf
14時30分から16時までは、メルキさんによる「漢字トーク」、そのあとは、ワインを飲みながら田室さんの「演劇を通して漢字を
学ぶ」活動や、外国籍の子ども達との演劇活動についてお話を伺いました。10人の仲間と夢中になって話をしていたら、いつの間にやら外は真っ暗になっていました。 今回の報告記事は、梅村弥生さん(イーストウエスト日本語学校)が書いてくださいました。どうぞご覧ください。
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アクラス特別研修会「漢字トーク」の報告
梅村弥生(イーストウエスト日本語学校)
チューリッヒで日本語学校を経営されているメルキ能子先生と劇団シン・ティテューロを主宰されている田室寿見子さんのお二人をお迎えし、ある冬の日の午後、4時間近く貴重なお話しを伺うことができました。
お二人のお話しには、「自分を表現する」といった点で共通点があり、お話しのあと現場で日本語を教えている10人の参加者たちも加わり、活発に意見交換が行われました。
メルキ先生は、25年前から海外で日本語教育に携わり、2001年、チューリッヒに日本語学校を創設されました。スイス在住の様々な言語圏出身の人々に日本語を指導する中で日本語を教えるなかで、漢字への興味を引き出す方法を考え出されました。それが、本日のテーマ「漢字100個を60分で」です。
日本語の文字指導は、一般に、「ひらがな⇒カタカナ⇒漢字」の順番で行われます。しかし、メルキ先生はこの常識を崩して、最初に漢字を教えます。漢字の面白さを教えることが、複雑な日本語文字の負担感を軽減させる工夫だそうです。日頃から非漢字圏の学習者の漢字習得に悩んでいる参加者たちは、先生の大胆な発想に驚かされました。漢字がpartの“combination”であり、各partは何らかの“sign”であることから、どんな漢字でもstoryで説明できるとし、本日の参加者に100個の漢字をstoryで教えてくださいました。
・「国」という字は「王」がお金「、」を持っているので、他の人に取られないように周りに壁を作って「国」という字になった。
・「鳩」という字は、「にわとり」の絵から「鳥」を導入し、「クークー」と鳴くから、「九」+「鳥」で「鳩」になる。
・「酒」は、つくりの部分をボトルに見立てて、「ビンの-の高さまで酒が入っている」ということで「酒」になる。
このように、学習者は、先生の漢字storyに導かれて60分で百個の漢字が覚えられるというわけです。
漢字storyは、その殆どが先生独自のstoryであって、漢字辞典の成り立ちを参照するのではなく、むしろ学習者にインパクトがあるstoryを創造し、学習者の共感を得ながらstoryを展開することがポイントだそうです。 そして、いくいくは学習者自らがstoryを作って漢字を楽しく覚えることが、非漢字圏学習者の日本語習得への近道であることも強調されました。また、漢字クッキーの文作り実習もしてくださり、学習者が頭をひねって自分の文を創造することが漢字学習に繋がることを、私たちも体験できました。
一方、田室さんは、岐阜県可児市で多文化共生に向けた演劇事業の一環として、高校進学支援教室や演劇を通した人材育成に携わってこられました。田室さんの芝居作りは、「ドキュメンタリー演劇」と呼ばれ、先ず、個人のライフヒストリー・インタビューを基に脚本を作ることから始まります。そのため、参加者は自分のことばで(母語や日本語の方言で)セリフを語ることになり、時には5~6カ国語の芝居になるそうです。約7年間にわたる多文化共生型の演劇活動を通じて、人材の育成や交流事業に発展させてこられました。
漢字storyや漢字クッキーで創造的に漢字を学ぶ外国人の姿と、自分の過去のヒストリーを自分のことばで演じる外国人居住者の姿が語りかけてくるものは何なのか、あらためて考えさせられました。お二人のお話しに共通するのは、「学ぶ」にしても「演じる」にしても、常に「自分を表現する」ことが欠かせないという点ではないでしょうか。それは、「教える日本語教育」ではなく、「学習者ひとりひとりから引き出す日本語教育」と繋がるのではないかと、それぞれが振り返ることができたひとときでした。
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