「スイス日本語教師の会」から学んだこと 

 

Seminer Photo  22.03.2014 Switzerland(T)3月22日、23日の2日間、「スイス日本語教師の会」主催の「第21回日本語教育セミナー」に参加し、いろいろな方からスイスおける日本語教育についてお聞きする機会を持つことができました。

http://www.ch.emb-japan.go.jp/anniversary2014/events/dates/0322_language_education_seminar.html

「遠くて近い国」と言われるスイスは、とても日本人と似たところがあると言われます。しかし、ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語を公用語とし、一番多く使用されているドイツ語(約63%)も、スイスドイツ語と言われ、標準ドイツ語とは異なります。懇親会では、言語の違いによる楽しいエピソードがたくさん飛び交っていました。こうした言語に対する寛容さ、他者の言語を尊重する姿勢などに感心しながら皆さんのお話を伺っていました。今回スイスにおける日本語教育に関して頂いたたくさんの情報の中から、3つのことをご紹介したいと思います。

セミナーを主催した「スイス日本語教師の会」は、1993年に設立され、毎年、春には「日本語教育セミナー」、秋には「分科会」を実施してきました。今回セミナーに参加して思ったのは、会員の方々の自主的な活動の素晴らしさです。特に、会員が自主的に集まって「継承日本語の教科書」を作成し続けていることには感動しました。そこで、プロジェクトのメンバーの一人であるクレニンまどかさんに、「短い紹介文を書いてくださいませんか」とお願いしました。

教材① 教材②

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1997年、スイス日本語教師の会の継承語教育に携わる教師が集まり、勉強会が開かれるようになりました。この会で、日本の「国語」教科書を使って教えていくことの無理、各自の教師がそのギャップを埋めるために費やす膨大な時間、苦労を話すうちに、「だったら、自分たちで教科書を作りませんか」という無謀な発言をしてしまいました。「やりましょう」と手をあげたメンバーの中に、当時すでにバーセルで12年以上継承日本語を教えているパイオニアである大先輩フックスさんがいらっしゃったのは幸いでした。その経験の蓄積を基に週1回90分1年間で、現地の学校に通っている普通の子供が楽しく無理なく、効果的に日本の文化と日本語を学べるカリキュラムの教科書を作ろうと有志4人で作り始めました。絵の上手な友人に、さんざん注文をつけてイラストをかいてもらい完成した『海外で学ぶバイリンガル児童のための-にほんご1年生―この指とまれ』という教科書を2003年のスイスでの欧州日本語教師会のシンポジウムで発表。その後、教科書だけでなく、経験の浅い教師でも使えるワークブック、続く2年生の教科書『はないちもんめ』とワークブックも制作しました。現在は3年生を制作中です。これらはスイスの非営利の継承語教育機関7か所で使われています。また口コミでスイス外、欧州だけでなく、アメリカ、ブラジル、オーストラリア、トルコ、等からも問い合わせがあり、お分けしています。2012年からはスイスの継承日本語教育機関連絡会議を年1回開いて、横の情報交換、ネットワーク構築も行っています。

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次に、「漢字学習」についてのあるエピソードをご紹介しましょう。1日目の研修終了後、チューリッヒから来たメルキ能子さんが「先生に、ぜひ見て頂きたいものがあるんですよ」と、スマホから一枚の写真を見せてくださいました。私は、それを見るなり、「ねえ、この写真、送ってくださらない!明日の講義で、これを取りあげたいので……」と、メルキさんにお願いしたのが、この「漢字ビスケット」の写真です。

[Japanese Language Studio]  http://www.japanls.ch/

『漢字ビスケット』メルキ能子さん 『漢字ビスケット』のみ

昨年のクリスマスのことでした。授業開始直前に、ある女子学生が袋から取り出したのは、なんとお手製の「漢字ビスケット」でした。彼女は、「ビスケットを焼いて、習った漢字をチョコレートでアイシングして、「漢字ビスケット」を友達と一緒に食べたら、楽しいだろうな。だって、クリスマスなんだもの」と、丁寧にこれまでに習った200個の漢字をビスケットに書いていったのです。

これを見たメルキさんは、感動で胸がいっぱいになりました。「これをそのまま食べたのでは、もったいない。そうだ!今日はこれを使った漢字の授業をやろう!」と、学生達に次のように話をしたそうです。

「○○さん、本当にすてきなプレゼントをありがとう!じゃあ、皆さん、今日はこの『漢字ビスケット』でゲームをしましょう。2つ以上の漢字を使って、言葉を作ってください。言葉ができたら、食べてもOK!」

きっとこのクラスでは、日頃から楽しみながら漢字を学んでいるのでしょう。私は「漢字ビスケット」の写真を見ながら、彼らの教室での姿を想像していました。

日本国内では、最近ベトナムやネパールからの留学生が増えています。日本語教育の先生方から、「非漢字圏の学習者は、漢字を覚えようとしないから大変」「漢字をどうやって教えたらいいか分からない」などといった声がよく聞かれます。やはりここで重要なのは、まずは「漢字は面白い」と思えるか、「こんなにたくさん覚えなきゃならないなんて……」と思ってしまうかの違いではないでしょうか。遠く離れたスイスで聞いた「すてきなエピソード」には、たくさんの教師へのヒントが潜んでいると思います。

最後に、「網の目文庫」をご紹介したいと思います。このスイス日本語教師の会では、600点以上におよぶ日本語教育関連の図書や教材を所有・管理し、「網の目文庫」というシステムによって、会員に貸し出しをしています。これは、11人の管理者がそれぞれ分野ごとに書籍を管理し、借りたいという希望者からの連絡を受け、会が送料を負担して送るという制度です。一か所に置いておくのでは、借り手も限られてしまいます。以前は会員の所を巡回していたのですが、より使いやすい方法を・・・ということで「網の目文庫」が生まれました。「みんなで助け合って、みんなでスイスの日本語教育のレベルアップを図ろう」という思いがひしひしと感じられるすばらしい制度だと思いました。

それぞれの国に日本語教師会があり、独自の活動をしています。今回、いくつもの言語圏を抱えるスイスという国で、新たな視点で「言葉を学ぶということの意味」「日本語を教えることの意義」について考えることができました。異なる価値観・文化に触れることの重要性、改めて感じながらベルンを後にしました。

スイス日本語教師の会 → http://www.kyoshi-kai.ch/

ベルンの旧市街 ベルン大聖堂入口(天国と地獄)

「アーレ川沿いのベルン旧市街」と「ベルン大聖堂の正面入り口」

 

 

 

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