留学生落語鑑賞会~「僕たちも分かって、笑えて嬉しかった!」と中級学習者~

昨年10月に柳家さん喬さんが国際交流基金賞を受賞されてから、ますます日本語教育界における落語への関心は高まってきています。受賞記事として「柳家さん喬師匠、国際交流基金賞受賞!~日本語学習者は落語が大好き!http://www.acras.jp/?p=3329)」という記事を書きましたが、その際に次のようなことを記しました。

 

実は、私自身これまで日本語教育の実践において、授業で小噺や落語を取り上げたり、上級クラスの学習者は必ず「落語鑑賞会」を経験するという取り組みを15,6年やってきました。上級者対象の落語鑑賞会では、いくつもの小噺、2席の落語を愉しみ、着物をはじめ日本の文化にも触れることができるよう、さまざまな工夫をこらして実施してきました。

 

落語鑑賞会の始まり、始まり!

落語鑑賞会の始まり、始まり!

 

今年もイーストウエスト日本語学校では、恒例の落語鑑賞会が行われ、「初天神」と「寿限無」に加え、さまざまな小噺を楽しみました。もちろんいつものように、落語の歴史、着物の説明なども学生達に大人気でした。

 

落語家「ええ~、落語では道具を二つ使います。一つはこれ。扇子ですね。もう一つ使うものがあります。この中(懐)に入っています。何でしょう?」

学生A「こころ!」

落語家「こころ、ねえ・・・この中に入っているのは、落語に使う道具ですから、物です」

学生B「お金!」

 

などというやり取りも聞かれ、留学生達はどんどん落語の世界に引き込まれていきました。

『できる日本語中級』

『できる日本語中級』

 

実は、今年は中級半ばのクラスも参加することができました。担任教師は、「この段階で、はたしてどれだけ分かるだろうか」と若干懸念したのですが、とても面白い反応が見られたと、次のように報告してくれました。

 

【担当教師によるコメント】

私が担当しているクラスでは、『できる日本語中級』10課あたりで落語鑑賞会を迎えることになりました。上級クラスに交じっての鑑賞会なので、「まだ中級の真ん中あたりでは、他のクラスのみんなが楽しそうに笑っているところで、分からなかったら、かわいそうだな・・・」などと思っていました。ところが予想に反して、ほとんど全員が落語をとても楽しんでいました。教科書9課のテーマは「言葉を楽しむ」で、授業ではいろいろな言葉遊びやダジャレなども面白がっていたので、落語を楽しむ準備ができていたのかもしれません。

 

当日、インフルエンザでしばらく学校を休んでいた学生と駅で待ち合わせしたのですが、時間がなくて会場まで走って行きました。病み上がりの彼を走らせて悪かったな、思っていたのですが、終わってからの彼の感想は「落語はとてもおもしろかったです。先週インフルエンザにかかっていましたが、笑ったおかげで完全に治りました。」というものでした。

 

また、道に迷って落語の会場に辿り着くことができず、一人学校に行って自習をしていた学生がいました。その学生の「落語鑑賞会の感想文」は、「落語はとてもおもしろかったです。と、みんなが言ってました。」というものでした。自分は聞いてないから、と白紙の感想文を提出するわけではなく、こんな感想を書いていました。私としては、残念だなと思っていたのですが、他の学生がみな口々に「おもしろかった」というのを聞いて、「ああ、自分は聞けなかったけれど、落語はおもしろいものだったんだな」と思ってもらえたら、それでもいいのかもしれないと考えました。

熱心に話を聞く留学生たち

熱心に話を聞く留学生たち

 

多くの学生がおもしろかった、という感想に加えて「分かってうれしかった」と書いていました。「外国語の笑い話が笑えるなんて、私もなかなか・・・」そう思えるっていいですよね。

※このクラスの学習者の出身国・地域:

ネパール、ロシア、モンゴル、ミャンマー、インドネシア、スリランカ、台湾

 

    ♪   ♪   ♪

 

【他のクラスの学習者によるコメント】

※原文を変えずに載せてあります。

 

◆Aさん(ロシア出身)

落語に来る前にとても心配しました。言葉は分かりにくいと思いました。昨日に先生からもらった本(落語の言葉の本)のおかげで、少し不安がなくなりました。先生たちありがとうございました。

 

扇子と手ぬぐいの紹介

扇子と手ぬぐいの紹介

落語家さんは話を始めて不安がぜんぜんなくなりました。なぜかと言うと落語家さんは全部の難しい言葉をちゃんと説明しました。話はとてもとても面白かったです。ロシアにそんな劇がありません。この2時間はずっと笑いました。落語家さんの演技は素晴らしかったです。声も素晴らしかったです。一人でいろいろな役をするのは初めて見ました。今はこの劇は自分の親に見せてあげたいです。今日から好きになりました。次の会は友達たちと一緒に行きたいです。

 

◆Bさん(ネパール出身)

今日落語を聞いて本当に良かったです。おもしろい話を聞いて、笑いながら日本のれきしや文化のことを勉強になりました。

 

ネパールでない落語文化を日本で初めて経験できてとてもいい思いでになります。落語の話もとてもわかりやすかったです。落語を聞きながらちょう笑いました。

 

学校の先生方、かつらせんしょうさんのおかげで本当にいいけいけんをできていただき、ありがとうございました。

 

今日の落語はひじょうに楽しかったです。ぜひ友達に聞かせてあげます。みんなもきっと笑うと思う。

 

着物の着方の説明

着物の着方の説明

◆Cさん(タイ出身)

ときどきわからない言葉や表現はありましたが、面白かったと思います。特に、私にとっては猫の話が一番わかりやすくて面白いです。それに、落語家から、着物の着方も教えてもらいました。説明は面白くて、覚えやすいと思います。この落語は300年前からやりはじめたんですから、日本の伝統的の文化を体験した機会があるのは嬉しいです。もう一度この体験みたいなチャンスがあるかどうかわからないので、見に行ったのはよかったと思います。タイの笑い話と少し違うと思いますが、理解しやすかったので、楽しかったです。

 

◆Dさん(韓国出身)

日本に来て日本語を学んでいる外国人としては、すごく光栄な経験でした。国の歴史や言葉の変化が溶けている無形文化財に接するのは、なかなか見る機会が難しいからです。落ちる言葉、落語。また機会があれば、物語の背景をもっと関心をもって調べて、次の落語のときはもっといろいろな語を知りたいです。着物の着方やおもしろい話をありがとうございました。

 

◆Eさん(台湾出身)

今回は、人生の初めての落語鑑賞だった。落語家は最初ユーモアを帯びた紹介をオープニングして観客の興味を引き出した。落語用の不可欠の道具―扇子、手ぬぐいの使い方と役が詳しく説明してくれて、落語を見た時もっとわかりやすくなった。今回の二つのテーマは、全ての話の内容が理解できるわけではないけど、落語家の仕草と表情のおかげで大体わかって笑った。しかし、肝心な「しゃれ」が掴めなくて、ちょっと残念だったときもあった。でも、今回の落語鑑賞会は本当に面白かった。

 

「『左前』は死んだ人だけ。もし街で会ったら拝みましょう」と、楽しく「左前」の説明を・・・・・・

「『左前』は死んだ人だけ。もし街で会ったら拝みましょう」と、楽しく「左前」の説明を・・・・・・

【参加した教師からの感想メール】

学生たちに作文を書いてもらったところ、落語に行く前は「言葉がわかるか」「古い時代のことばで理解できるか」など不安を抱えていたが(もちろん事前授業はしているので、そこで習った言葉は始まる前にもう一度確認したのですが)、実際に聞いてみたら、とても楽しかったし、勉強になった。全部がわかったわけではないけれど、大半は理解できた。というのも、落語家さんが分からないときは説明してくれることもあったからだと書いてありました。また彼らは落 語家さんの表情が豊かだとも感心していました。何より着物の着方が「へえ~~~」と思って、参考になった。自分も買ってみたいなどと感想を書いている人もいました。
私は、落語家さんの落語を聞いていて、一つとても参考になることがありました。私も学生たちと楽しく授業がしたいので、おもしろいことを言ったり、ダジャレを言ったりします。そのまま理解してもらえる時もありますが、説明をしないとわかってもらえなくて、説明を加えるときがありました。しかしだいたいそういうときは説明をしているうちにもともとの話のおもしろさが失われて、何をはなしているんだっけ?となってしまうことが多いです。今日もそのような場面があ りましたが、さすが、話のプロ!説明を加えながらも、話のリズムや乗りを損なわないので、おもしろさがそがれることがありません。そして表情が口よりものを言っているのがすばらしいと思いました。本当に子どもになったり、大人になったり、おかみさんになったり、表情でくるくる変われるのですね。もちろん、私は落語家じゃないですが、そのように話の大事なポイントを折らないで、あくまでも話の流れの中で、わかってもらう術をすこしでも身につけられたらと思いました。

 

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