介護現場での人材不足は深刻であり、2025年度には介護職員が30万人不足すると言われています。そこで、厚生労働省は検討会を開き、技能実習制度という枠組みを使って外国人を受け入れるという方針で動き始めました。
私は昨年4月にアクラスHPに、「首相の『外国人材活用』案に疑問符!」という記事を書きました(http://www.acras.jp/?p=2730)。それは、技能実習制度に関する現状の課題や、EPAによる介護福祉士受け入れにおける問題点に真摯に向き合うことをせず、安易に「技能実習制度」を介護分野に導入することへの危惧の念からでした。
「外国人技能実習制度」とは、発展途上国への技術移転を目的に、外国人を「技能実習生」として日本に受け入れ、働きながら学んでもらう制度で、これまでも農業や建設、食品製造、漁業などで受け入れてきています。しかし、中には技術を学ぶどころか単純労働に従事、賃金未払いや低賃金の長時間労働などが社会問題になっています。また、「諸外国から『都合良く外国人を使っている』などと問題視されている(日経新聞1.24朝刊)」のが現状です。
これだけ問題の多い「技能実習制度」を抜本的に見直すことなく、介護分野への導入を決めたことには驚くばかりです。今回の検討会では厚労省と法務省では監督機関を新設し、受け入れ団体や事業所の巡回監視を強化するとしていますが、制度を作っても運用面での改善がなければ、意味がありません。
では、問題山積ではありますが、今回は、「日本語力」のテーマに絞って話を進めることにします。
■日本語教育専門家抜きの検討会~求められる日本語力をどうやって決める!?~
まずは、「検討会中間まとめ(1月26日)」から日本語力に関する部分を抜粋します。
外国人介護人材受入れの在り方に関する検討会 中間まとめ(案)p.6(2015.1.26)
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イ 具体的な対応の在り方
介護分野の技能実習制度における日本語要件については、
‐ 段階を経て技能を修得するという制度の趣旨から期待される業務内容や到達水準との関係を踏まえ、技能実習生に求められる日本語水準と担保の在り方を考える必要がある。
・ したがって、日本語能力試験「N3」程度を基本としつつ、業務の段階的な修得に応じ、各年の業務の到達水準との関係等を踏まえ、適切に設定する必要がある。
具体的には、1年目(入国時)は、業務の到達水準として「指示の下であれば、決められた手順等に従って、基本的な介護を実践できるレベル」を想定することから、「基本的な日本語を理解することができる」水準である「N4」程度を要件として課し、さらに、「N3」を望ましい水準として、個々の事業者や実習生の自主的な努力を求め、2年目の業務への円滑な移行を図ることとする。(強調は筆者)
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文言として書き記すのは簡単ですが、N4レベルとはどのような日本語力なのか、どのような学習をすれば上のレベルに行けるのかといったことを理解しないまま、議論が進められていたとしか思えません。また、「N4相当」という表現は、「それ以下であっても、特に事業主が認めればよい」という意味なのでしょうか。そもそも日本語教育関係者が一人もメンバーにいない状態で、どのようにして議論が進められていったのでしょうか。
■報道における混乱と見識のなさ~「N4」は「小学校低学年程度」ではない!~
1月26日の検討会で日本語力に関しては「N4相当」という言葉が付け加えられましたが、ある新聞では、以下のようなタイトルがつけられました。
「日本語条件は小学校低学年程度」
(http://www.asahi.com/articles/ASH1V4SVFH1VUTFL004.html)
N4レベルを「小学校低学年程度」と説明する見識のなさには、ただただ驚くばかりです。先ほども書きましたが、そもそも、日本語教育関係者が1人もメンバーに入っていない検討会で、いかにして「求められる日本語力」「仕事をしながら日本語力アップ」などについて検討することができるのでしょうか。
また、ある新聞は「日本語能力『4級』で可」という見出しで、次のように報道しています。
委員の一人は、取材に「3級を最低ラインとしてきたはず。量を優先させようとする国の姿勢は理解できない」と疑問を示した。(読売新聞1.27)
この記事では「4級」と記されていますが、それは最低レベルの「N5」に相当することになります。こんな大きな間違いを抱えたまま次々に報道されているのが現状です。
【参考】
https://www.jlpt.jp/about/comparison.html
■N4レベルの日本語力では、介護は難しい!~結局単純労働者を求めているのか?~
新聞によると、見直し後は次のようになっています。
・国籍は問わず、一定の日本語能力がある人が対象
・研修などの費用は受け入れる民間が負担
・処遇は日本人と同等以上に。
・働きながら介護技能を学び、最長5年間で帰国。
N4レベルで実習生として受け入れ、あとは「研修などの費用は受け入れる民間が負担」となれば、十分な日本語研修が行われないことは火を見るより明らかです。また、それだけの時間を割くことの難しさ、勉強時間を捻出することの難しさを考えると、技能実習生にとっても「現場で働きながら日本語力をアップする」というのは大変です。
さらに、介護の現場では、ちょっとした行き違いが大きな問題に発展しかねません。利用者さん、仕事仲間との意思疎通はとても重要であり、それが出来ないことは大きな障害となり、また実習生の心の負担にもなっていきます。そうしたことへの配慮が感じられず、まるで「単なる労働者」として見ているように思えてなりません。
「日本の質の高い介護技術を学びたい」「日本の素晴らしい介護システムを学びたい」と夢を抱いて来日した技能実習生が落胆し、「もう二度と日本には来たくありません」と言って帰国していくことになっては、日本は世界の人々から見放されてしまいます。
このようなことを続けていては、「日本嫌い/日本離れ」を加速し、また本当に人材不足に陥った10年後、20年後の日本社会が、世界のどこからも相手にされないという状況が起こってしまう恐れすらあると言えます。
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最後に3つの提言をしたいと思います。
1.今後、介護人材受け入れに関する検討会・懇談会などには日本語教育関係者をメンバーとして加える。また、「介護人財」に関する課題には、日本語教育関係者を加えるだけではなく、オールジャパンで取り組むことが重要である。
2.介護分野で単純労働者としてではなく、介護の仕事に携わるには一般的には日本語能力試験N3レベル以上の日本語力が求められる。ただし、日本語能力試験では話す力や書く力を測定していないので、さらに慎重に検討する必要がある。
3.日本語研修に関して介護現場任せでは、受け入れ側、技能実習生双方にとって、望ましくない方向に進むことは必至である。経費、システムなどにおいて国が積極的にサポートしていくことが求められる。
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