アクラス12月研修の報告<編者との対話>(日本研究シリーズ『日本思想におけるユートピア』)

アクラス研修会12月は、砂川有里子・裕一ご夫妻による<編者との対話>でした。上級クラスを担当している先生、これから担当する予定の方、自分自身がこのシリーズを楽しみたいという方・・・参加動機はさまざまでした。今回は、伊藤文さんに報告レポートをお願いしました。

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編者との対話:日本研究シリーズ『日本思想におけるユートピア』

         報告者:伊藤文(イーストウエスト日本語学校 非常勤講師)

 

講師お二人揃って

講師お二人揃って

2014年9月に『日本研究シリーズ1 日本思想におけるユートピア』が出版されました。今回はこのシリーズの編者である砂川有里子先生、砂川裕一先生をお迎えし、「日本研究に関する専門読解への誘い~中級段階での授業実践の試行例とその課題~」というタイトルでお話がありました。

 

1.刊行の背景

まずこのシリーズを出版するに至った背景についてお話がありました。砂川有里子先生は「平たい文章で難しい内容を日本語学習者が丸々一冊読めるような専門書を作りたい」という思いがあったそうです。海外でも中上級学習者が増え、また知的好奇心の高い学習者に日本語で読む楽しさを味わってもらいたいと、今から8年前にシリーズ刊行へ向けて動き出したということでした。現在は『日本研究シリーズ2 日本の映画史』まで出版されています。

 

2.本シリーズの特徴

砂川有里子さん

砂川有里子さん

本シリーズの大きな特徴は以下の3点にまとめることができると思います。

 

・1冊の専門書であること(教科書ではない)

 ・専門書を本格的に読むための入門書であること

 ・日本語教師=非専門家や日本語学習者でも読めるように工夫されていること

 

1冊の本を読み切ることは学習者の大きな自信になる、という指摘にははっとさせられました。ですが、一番なるほどと感じたのは、非専門家の日本語教師にも扱える本だということです。教師=教える人、学習者=学ぶ人という一方向の授業では、教師が知識を持っていなければ、と専門外のテーマは取り上げにくく感じてしまうのではないでしょうか。しかし、砂川祐一先生はお話しの中で、日本語教師(=非専門家)も学生と一緒に読んでみるという姿勢で臨むように言われました。教師も一緒に読むことで、双方向の授業展開が可能となるはずです。読みの手助けとなるような文章展開、工夫された表現など、ガチガチの専門書という難しさが緩和されている本書においては、専門書にあってその授業展開が実現できると思いました。なにより、この気づきは参加者にとっても普段の読解授業を省みるきっかけとなったようです。

 

3.授業実践例

次に砂川裕一先生からこの本を使った授業での実践例についてお話があり、以下の手順が紹介されました。

砂川裕一さん

砂川裕一さん

 

①「奥付」「著者紹介」の確認と理解、および「目次」による著作の全体像・構成の確認

砂川先生は1コマ分の時間を使ってこの授業をされるそうです。それは書物や筆者に対する興味を喚起し、「これからこの本を読もう」という態度へ導くために大切なステップだということでした。この点については、参加者から自分自身の本への向き合い方を見直したという声も聞かれ、「本を読む」ことについて根本的に再考する機会にもなりました。さらに、著作の構成を理解することで、後々には書くことへつなげるという狙いもあると話されました。

 

②「考えながら」「調べながら」「繰り返し」「読む」体験

専門書が難しいのは当たり前で、考え、調べ、知識を増やし、繰り返し読み、理解を深めながら知的に、そして専門的に上昇してくのが専門書を読むという作業だということでした。ここで大切なことは、学習者が相互に協力して、自力で内容確認(フリー・トーク)を行うこと、教員による解釈やコメントは“一つの読み方”であると伝え、学習者それぞれの理解や解釈の比較検討を促すことだそうです。

この研修後の週末、私は第25回第二言語習得研究会に参加してきたのですが、そこで、読解における「言い換え」に関して、「言い換え」は読解を促進するストラテジーであり、理解の結果であるという話しを聞いてきました。教師は学生に読解内容どう説明するかや、読解教材からどう言語を学んでもらうかだけに心を砕くのではなく、学生が自ら理解に至れる授業デザインが何より重要だと感じました。

 

真剣に編者の話を聞く参加者

真剣に編者の話を聞く参加者

4.最後に

その後、質疑応答へと移りました。「この本を使用する前はどんな本を授業で使っていたか」という参加者の質問に対して、和辻哲郎の『風土』などいくつか本をあげられましたが、これらの本を扱っていたときは教師の説明過多になっていたというお話が印象的でした。時間の都合で十分に質疑ができなかったのですが、専門書を「読む」ことから学術的な文章を「書く」ことへ具体的にどうつなげるかについても、多くの参加者が関心を持っていました。

「読む」とは受容の言語活動で、ともすれば読解=受動的な授業のように捉えてしまいますが、実際は「読む」とはとても能動的な活動だとあらためて気づきました。学習者が主体的に読める工夫をまた明日の授業から試行していこうと思います。

研修お知らせ記事 →  http://www.acras.jp/?p=3353

当日配布された資料 → 日本研究に関する専門書読解への誘い

            学術論文の基本形メモ

懇親会で

懇親会で

 

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