海外だより<コロナ禍に向き合う>第12回「ロシア(エカテリンブルグ)の現場から②」(ポポーワ・ユーリヤさん:2020.7:9)

海外だより<コロナ禍に向き合う>

「ロシア(エカテリンブルグ)の現場から②」(ポポーワ・ユーリヤさん:2020.7.9)

新型コロナウイルス感染症の拡大による影響は世界中に広がっています。   

それぞれの国・地域では取り組み方も違えば、人々の行動の仕方も違います。   

そこで、海外で暮らし活動をしていらっしゃる方々から、「現状、取り組み方、

特長など」について伝えていただきたいと考えました。

 

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今回は、ロシアでの新型コロナウイルスの影響とそれに伴う日本語教育の変化についてお伝えします。第2回は、エカテリンブルグ市の日本語日本文化センター「夢」を経営するポポーワ・ユーリヤがコロナ禍のエカテリンブルグの現状について報告します。

 

エカテリンブルグ市について

エカテリンブルグは、アジアとヨーロッパの境に位置し、ウラル地方スヴェルドロフス州の首都です。人口は約150万人で、ロシアで4番目に大きい都市です。モスクワから東に向かって約1400キロメートルのところにあり、工業、科学、教育、交通、経済の各分野で発展している都市です。

 

ロシアの新型コロナ対策(エカテリンブルグ)

ロシアでは3月30日から、国家非常事態が宣言され、各企業や施設などが休業せざるを得ない状況になりました。しかし、ロシアでは各地方により具体的対策が異なります。スヴェルドロフスク州での対策はモスクワと比べ、あまり厳しくありませんでした。もちろん外出自粛や外出時のマスク着用は勧告されましたが、外出しても罰金を科せられることはありませんでした。それでも、4月は、エカテリンブルグ市民はあまり外出していませんでしたし、外出時は必ずマスクを着用していました。

規制が緩み、道が少し込み始めました。

規制が緩み、道が少し込み始めました。

 

5月中旬になると、規制が少しずつ緩くなり、外出したり、通勤したりする市民が増えました。6月に入り、市民のマスク着用やソーシャルディスタンスに対する意識はかなり低くなってきたと思います。公共交通機関や店の中でマスクをしている人は多いのですが、外でマスクをつけ歩いている人はあまり見かけません。

 

今、スヴェルドロフスク州では、人々のコロナウイルスに対する警戒心が緩んできているように感じます。しかし、スヴェルドロフスク州での感染者数は増え続け、ロシア全体の感染者数で5位を占めています。レストラン、スポーツセンター、プールなどの施設の再開は許可されず、学校もいつ再開するか見通しが立っていない状態です(2020年7月8日現在)。

店に貼られている「マスク着用のお願い」のチラシ

店に貼られている「マスク着用のお願い」のチラシ

 

日本語授業のオンライン対応 (エカテリンブルグ)

ここからは、民間日本語学校である日本語日本文化センター「夢」(以下、夢センター)の対応について報告したいと思います。

ロシアでは3月末からすべての教育機関が対面授業を中止しました。夢センターでも、対面授業を中止し、オンライン授業を始めました。

 

夢センターでは、Zoom(ビデオ会議システム)を使用することにしました。このZoom機能をうまく活用することで、普段の対面授業とほとんど変わりなく授業を進めることができています。クラスサイズは以前と同じく4~10人、教師と学習者はライブでビデオやマイクを使ってやり取りをしています。また、Zoomのブレイクアウトルーム機能を使って、ペアワークやグループワークをすることができています。

 

夢センターの教師たちからは、「オンラインで様々な副教材がより使いやすくなった!」という声があがっています。特に、Zoomでは、パワーポイントを簡単に学習者と共有できたり、イラストやビデオ、インターネット上のウェブサイトの画面もすぐに学習者に見せたりできる点が魅力なようです。また、学習者たちも、普段の対面授業より、ペアワークに集中できているそうです。Zoomのブレイクアウトルーム機能では、オンライン上の小さな部屋が作れます。その部屋で、学習者たちは、ほかのペアの声を気にせず、話す練習ができるそうです。さらに、Zoomには、録画機能があるので、学習者が欠席した授業内容を後で確認することができます。

 

夢センターの教師たちは、Zoomだけでなく、いろいろなオンラインツールも使っています。例えば、Quizlet(語彙学習ツール)、Miro.com(共同で使えるホワイトボードツール)、Wordwall.net(言語ゲーツが作れるツール)などです。オンライン授業でも、楽しい活動ができるよう工夫をしています。

 

また、教師たちにとって、学習者たちと交流できる場として、SNSの役割が大きくなりました。以前も、ロシアのVkontakteと

コンビニ店内のソーシャルディスタンスを示すライン

コンビニ店内のソーシャルディスタンスを示すライン

いうSNSを使い、クラスごとのチャットは使っていましたが、オンライン授業を始めてからは、宿題提出、教師からのフィードバック、わかりにくい文型の説明、学習者同士の交流の場としてこのチャットを使うようになりました。

もちろん、オンライン授業では、インターネット環境やマイクやカメラの故障といった設備環境の問題で、学習者が途中で授業に参加ができなくなるという問題が起きることもあります。ですが、今のところ、オンライン授業は、学習者たちにとても好評です。「色々なデジタル教材を使った授業は楽しい!」、「どこにも行かないで、家から授業に参加できるのはらく!」など肯定的な声が多いです。

 

ですが、学習者たちのほとんどは、実際に教師やクラスメイトと会って日本語を学べる日が待ち遠しいとも言っています。やはり、対面のほうが人同士の交流はより深まるだろうし、日本語のクラスへ来て直接授業を受けるほうが授業に集中できるのだと思います。

 

最後に、夢センターの経営者である私の立場から、オンライン授業になり、一番変わったと思うことを共有したいと思います。それは、世界中どこにいても教師が日本語を教えることができ、学習者が日本語を学べるということです。実は、4月~5月の間に、多くの日本人がエカテリンブルグを去っていきました。ですが、オンライン授業を取り入れたことで、モスクワや日本にいる日本語話者に授業を担当してもらえるようになったり、モスクワやサンクトペテルブルグに住むロシア人講師にオンライン講演会を行ってもらえるようになったりしました。

 

また、夢センターでは、エカテリンブルグ市以外に住む人や海外に住むロシア語話者も、日本語を学び始めました。今まで日本語の授業に通いたくても通えなかった学習者に日本語を学ぶ機会を与えられていることはとてもうれしいです。

夢センターの広報写真「オンライン授業を始めました!」

夢センターの広報写真「オンライン授業を始めました!」

 

ですが、今後、対面授業が再開された時、夢センターがどのような日本語の授業を提供していくか迷うところもあります。夢センターには、今まで対面授業を受けてきた学習者とオンライン授業になってから日本語を学び始めた学習者が混ざっているクラス、オンライン授業になってから日本語を学びはじめた学習者だけがいるクラスがあります。将来的に授業を対面で受ける学習者とオンラインで受ける学習者が同時に存在するクラスを提供することも考えられますが、まだまだ具体的方法や授業の流れが想像しにくいです。遠隔地から参加している学習者たちの日本語学習の機会を維持できるよう、どうすべきか経営者として考えていかなければと思っています。

 

最後になりましたが、最近の夢センターの取り組みを紹介します。夢センターでは、以前から、情報交換や宣伝方法としてSNSを使用していましたが、今まで以上にSNSでの情報発信に力を入れています。若者に人気なTik tokやYou tubeへのビデオ投稿も始めました。これからも、インターネットを通じて、日本語・日本文化に興味がある人に様々な情報を発信していけたらと思っています!

 

オンライン教育には、プラスな面もマイナスな面もあります。ですが、夢センターではオンライン教育の可能性を考えながら、積極的に様々なことに取り組んでいます。

日本語日本文化センター「夢」のオフィシャルサイトは、以下の通りです。ぜひアクセスしてください!

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公式ウェブサイト:https://yume.center/

Facebook:yume.center

Instagram:yume.center

Tik tok: @yume.center

Youtube: https://www.youtube.com/channel/UClyBrMwnAF8deWJfTWzmRWg

 

参考:

海外だより<コロナ禍に向き合う>

「ロシア(モスクワ)の現場から①」

金城亘さん(2020.6.30)

 http://www.acras.jp/?p=9931

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