海外だより<コロナ禍に向き合う>第11回「メキシコの現場から」(長尾和子さん:2020.7.9)

海外だより<コロナ禍に向き合う>第11回

「メキシコの現場から」長尾和子さん(2020.7.9)

 

 

新型コロナウイルス感染症の拡大による影響は世界中に広がっています。   

それぞれの国・地域では取り組み方も違えば、人々の行動の仕方も違います。   

そこで、海外で暮らし活動をしていらっしゃる方々から、「現状、取り組み方、

特長など」について伝えていただきたいと考えました。

 

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メキシコでは今年3月6日~8日に嶋田和子先生を講師にお迎えし、メキシコ日本語教師会主催の第25回メキシコ日本語教育シンポジウム「人・社会とつながる日本語教育を目指す~プロフィッシェンシーを重視した実践とは~」が行われ、メキシコ・日本・中米カリブ・ブラジルから100名近くの参加者を得ました。コロナの脅威で開催が危ぶまれ、日本からの参加者の方が渡航自粛に踏み切られる方も多い中、まだメキシコでは海外帰りの人が4~5人感染したという報告があるだけだったので、一部オンラインでの一般発表も含めた3日間のプログラムがEl Colegio de Méxicoと日本メキシコ学院で無事開催されました。

遠隔授業への移行
その感動と興奮も冷めやらぬ翌週末、多くの大学が外出自粛・自宅待機の決断をしていく中で、私の勤めるメキシコ国立自治大学(UNAM)国立言語言語学翻訳センター(ENALLT)でも教室での授業が停止となり、3月17日からの週はその次の週から始まるオンライン授業へ向けて、急遽、希望者がGoogle Classroomの講習を受け、準備を始め、あたふたと教材を持ち帰り、3月23日の週から教師が判断し、それぞれのグループにとって最良である方法で、オンライン授業が開始されました。学校からの指示は1月末に始まり、5月末に終わる学期の授業のカリキュラムの進度と日程は守る事。そこから教師や学生のチャレンジが始まりました。

 

私はそれまでZoomのホストになったり、参加者であったりしたことはあっても、Zoomでの授業は未経験、学生はGoogle Classroomに登録してあり、たまに課題を提出するぐらいだったのが、その2つを使ったコース再構築、同期・非同期のクラスの組み立て、教材の準備、授業の実施、宿題の添削などに追われていくようになりました。学生はそれぞれの学部でのオンライン授業を受けており、課題は倍増、それぞれのメキシコの地域の出身地に帰って、家族と自宅待機をしているため、家族も同じようにリモートワークや学校の授業を取らなければならないので、インターネットの容量やパソコンを共有しなければなりません。学生もZoomの使い方に慣れていないので、最初はブレイクアウトルームやチャットの保存、画面の共有など、音声や画像1つ1つの機能の使い方をみんなで教え合うことから始まりました。

 

その過程で、国際交流基金メキシコ日本文化センターの専門家(佐藤五郎先生・鵜飼香奈子先生)の先生方が企画してくださったオンライン授業に必要な各種ツールの講義、メキシコ国内の先生方によるオンライン授業実践共有、メキシコ日本語教師会(AMIJ会長竹川佐詠子)が主催した「教師の日(メキシコでは5月15日)のオンライン茶話会」、スペイン日本語教師会(APJE会長板倉法香)と共同開催している「スペイン語でつながる日本語教師ネット」など、孤軍奮闘している各国各地の教師が協力し合って、自分たちの実践や悩みを共有し、不安な気持ちも少しずつ解消されていきました。7月には経験の浅い先生方のための夏季短期集中講座を日曜日3日間(7月5日、12日、19日)に渡りオンライン開催し、メキシコ・中米カリブ・日本から67名が参加しています。この夏もメキシコ各地の学校ではオンライン授業が続けられています。
メキシコ日本語教師会https://amijriji.wixsite.com/mysite

UNAM ENALLTでの取り組み―同期・非同期の形態を組み合わせて-
UNAM ENALLTの授業ではもともと1日2時間週4回で1学期4か月の授業が続きます。COVID-19を受け、私のクラスではそ2のうち、週2回(月・水)1回2時間をZoomでの同期型にし、それ以外を非同期のGoogle Classroomでの課題にし、カリキュラムの2レベルの内容を進めていきました。
最初は果てしなく長く思われたオンライン授業2時間でしたが、ブレイクアウトルームを組み合わせて学習者同士のタスクや共同作業を増やすことにより、次第に間に5分の休憩を入れることもなくなっていきました。タスクをしている間は教師はその部屋に入っていき、質問などを受け、つまづいている学習者をフォローすることもできます。入れなかったグループにはメインルームに戻った時にどのような感じで進めたかや分からないところを教えてもらい、全体で確認します。

 

学習者にZoomによる同期授業はこのまま週2回でいいかと聞いたところ、「学部の課題も増えているので、同期と非同期のバ3左ランスはちょうどいい。」とのことでした。このグループを受け持つ前に対面授業でも試験期間など課題に追われて、単位の取れない日本語クラスへの出席が減るタイプのグループだと聞いていたので、自分の空いている時間に課題が進められる非同期のタスクを増やしたことで学習の管理をしていけるようになったのかもしれません。

 

木曜日は希望者にはZoomによる予約制の個人面談で自分の好きなグループの歌詞の分からないところを聞く、昔話を読む、Google Classroomで提出するレシピで分からないところを聞くなどしました。

3右

オンラインだからこその活動としては、家にある自分が大切にしているものを見せながら話すShow&TellでA1レベルでありながらも、家にあるドラムセットやキーボード、子供の時から大切にしている絵本、飼っている猫たちが現れたりと、普段教室では見られないクラスメートの意外な一面も見られ、皆わりと楽器の出来る人が多く、音楽が共通点だったため、一緒にセッションができるといいねなどと話しました。

 

 

 

オンラインでの授業実践で気を付けたことは学生の進度や健康や心理状態に気を配る事、自律学習ができるように育てて行くこと、クラスメート同士で助け合いながら、課題を進めていくことです。毎回パワーポイントで導入練習していた授業内容もGoogle Classroomで共有し、インターネットの不具合や学部の授業の都合で欠席したとしても授業の内容について行けるようにデザインしていきました。評価もルーブリックを使った課題やGoogle Formsを使った漢字の小テスト・期末テストを行いました。

 

また、3月のシンポジウムの際に嶋田先生にメキシコ国立自治大学のキャンパス案内をさせていただいた嶋崎明美教諭の6レベルのグループ(A2からB1程度の日本語力)では、その時作成したパンフレットをもとに他の学生にアンケートなどを取り、おすすめの食べ物や場所、活動などをパワーポイントにまとめ、今後本学に訪れる留学生や日本人の方向けにくだけた雰囲気と言葉遣いで音声を入れてビデオとして作成する作業を学生たちが続けています。

自律学習センター(メディアテカ)では、この間にオンライン漢字ワークショップで学びのストラテジーを学習者同士で共有することも行いました。

 

日本の大学とのオンライン活動

このようなパンデミックの状況は不安なことも多かったですが、ピンチをチャンスに変えることもできました。当校の自律学習4センターで行っているテレタンデム(Zoom等による1対1の言語・文化交流)を3つの大学(神田外国語大学・南山大学・岐阜聖徳学院大学)と5月から7月にかけて実施し、46組のペアが3~8セッションの活動を行いました。神田外国語大学(シルビア・ゴンサレス先生)とは日本語とスペイン語で「ラテンアメリカと日本の言語・文化」という内容で5セッション、南山大学(アベル・カルデナス先生)とは卒業論文のテーマなどの自由テーマで3セッション、岐阜聖徳学院大学(担当責任者:野倉沙弥架さん)とはペアによって自由にテーマを選んで日本語と英語での8セッション。それぞれの学習者は日本語でそのセッションで話したことや感じたことなどをジャーナルに書いて、Google Classroomの課題として提出しました。最初は日本語で書くことに自信がなさそうな人もいましたが、それぞれのジャーナルを毎回訂正し、コメントしていくことで、どんどん長く5書いてくれる人が増えました。テレタンデムの相手の様子、印象に残ったこと、自分の学びの内省など内容は多岐に渡りました。

 

また、学期後に早稲田大学大学院日本語教育専攻の福島青史先生の実践研究の授業にも参加させていただき、3回のセッションを持ち、学期中に学んだ自己紹介・インタビュー・日本とメキシコのおすすめのプレゼンなどの活動を行い、学習者にとって少しでも日本語が使えるという実感の沸く、良い機会になったのではないかと思っています。

 

コロナ禍に立ち向かうメキシコ

現在、メキシコでは感染者数が全国で26.2万人、死者は31,119人にもなってしまいました(7月7日現在世界第5位)。 その中でもメキシコシティーは一番感染者数も多く、学校は閉まっていますし、リモートワーク、分散出勤、レストランは持ち帰りや配達のみ、ショッピングモールのお店は休業、スーパーでもマスク着用・検温なしでは入れませんし、フェイスシールドを着用する人も多くみられます。しかし、初期のころは、家族の人数が多い家庭、市場や青空市(ティアンギス)の屋台での距離を取らない外食、公共交通機関の混雑などで三密が防げない状態もあったと思います。それに、メキシコでは挨拶では握手、頬を合わせるキス、ハグなどなにかと体の距離が近いです。また、COVID-19で危険だと言われている糖尿病や高血圧の人も多くいます。それも、このように重篤化した理由ではないかと言われています。

メキシコでは、Susana Distancia(健全な距離をとるスサナ(Susana)さん:「あなたの健全な距離 Su sana distancia)との6右 掛詞です)というキャラクターや一躍ヒーローとなったメキシコ保健省次官のDr. Hugo López-Gatell(ウゴ・ロペス・ガテル医師)が行う毎晩7時からの記者会見で感染対策を呼び掛けたり、感染状況を知らせたりしています。感染危険度の段階を信号の色(危険な方から赤・橙・黄・緑)に分け、感染対策を取り、経済活動とのバランスを取る対策を行っていますが、メキシコシティーでは6月末から橙信号になり、ゆるやかに経済活動が再開してきています。しかし、気を緩めず、来学期(UNAMは9月21日から)もおそらくオンライン授業が続くか教室に行く日が減る事と思われますので、これからもいろいろな工夫をし、仲間と協力することを忘れずに進んでいきたいと思っています。6左

 

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