日本語学校は地域社会において何ができるのか(平成23年度文化庁委託事業)

先日、「地域社会で活動する日本語教師(栗又由利子さん)」というタイトルの記事を書きました。http://www.acras.jp/?p=730

この活動は、文化庁の委託事業として行われたものであり、こうした委託事業がいかに現場で意味ある活動として実践されているかを、より広く知っていただきたいという思いから書いたものでした。では、文化庁委託事業として日本語学校で行われている「事例紹介第二弾」をお送りいたします。

博多にある愛和外語学院は、近隣の日本語学校・日本語教室の方々を巻き込んで「公開ラボhttp://www.acras.jp/?p=610」を実施したり、学内研修会を開いたり、とても活発に活動をしている日本語学校です。

今年9月に「公開ラボ」で愛和外語学院をお訪ねした際に、文化庁委託事業として昨年度実施した「生活者として暮らすムスリムのための日本語講座の実践」について話を聞く機会を得ました。そこには日本語学校で働く先生方が「日本語学校は地域社会で何ができるのか。また、地域社会とのつながりの中で教育実践を考えることで、これまでできなかったことが可能になるのではないか」と、真剣に考える姿がありました。

愛和外語学院では、昨年度文化庁委託事業を受け、幾つかの計画を立て実施に移しました。ここでは「ムスリムの方に対する日本語講座」についてご紹介したいと思います。教務長の深江さんから、「記事を書く際に、どうぞお使いください」と、学会で発表なさったパワーポイントを提供して頂きました。
    学会発表で使用したパワーポイント →
         「生活者として暮らすムスリムのための日本語講座の実践から見えたこと

この日本語講座が企画されたのは、近くにモスクがあり、ムスリムの方が多く居住するという地域特性がありました。そこで、日本語学校が、日本人とはあまり交わることなく暮らすムスリムの方々と日本人社会とを繋ぐ存在になろうと考えたのです。

この活動を通して語った妹川先生の言葉はとても印象的でした。

「私はムスリムの知識があまりないまま準備をしていました。でも、同時にいろいろなことを学びながら、開講にこぎつけました。最初彼女達に会った時は、表情が硬かったことをよく覚えています。しかし、授業をしていくうちに、だんだん明るくなっていき、みんな笑顔になっていったんです。最初は、なぜ何年も日本に暮らしているのに、日本語が出来ないんだろう?日本語ができないから外に出ていかないんだろうか。また外に出ていかないから日本語が上手にならないのではないか、といろいろ考えさせられました」

日本で暮らすムスリムの方々は、文化の違いが大きく、特に食べ物に関して苦労も多いのが現状です。そこで、日本語講座では、教室での日本語学習だけではなく、実際にスーパーに行って、表示してあるものについて調べてみたり……。また、ときにはお客様センターに問い合わせをしたり、いろいろな活動を通して、日本語を学ぶことの楽しさ、大切さを感じてもらうようにしたそうです。教室内での授業ももちろんですが、それを外のコミュニティーと繋ぎながら、進めていくことが重要なポイントだったのです。また、こうした活動を通して、回りの日本人の意識も変わっていきました。お互いに触れ合い、対話を重ね、理解していくことから多文化共生は生まれます。

これからの日本語学校は、こうした地域社会に根ざした日本語教育・支援をする存在であることが求められます。こうした「地域力を育む日本語学校」が全国に広がっていくことを願ってやみません。

 

 

 

 

 

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