アクラス研修の報告<「やさしい日本語」について考えてみませんか>(庵功雄)

「やさしい日本語」について話す庵さん

10月24日に開かれたアクラス研修「「やさしい日本語」について考えてみませんか」の報告です。講師は一橋大学の庵功雄さん。当日は、泊りがけで遠方から来てくださった方2名、栃木から参加し、帰宅が翌日の1時になったという方、今回も熱~~~い空気に包まれた研修、懇親会となりました。

今回の報告者は、佐藤美和さん(TCC日本語学校講師)です。また、講師の庵さんからは、当日使用したすべての資料を報告レポートに載せてよいということで、改めて資料を送ってくださいました。これで、「残念ながら、仕事があって参加できなかった」という方々も、じっくり研修会に参加した気分に浸り、「やさしい日本語」について学ぶことができますね。庵さん、本当にありがとうございました!!
    

資料:         ①ハンドアウト  アクラス研修会20121024<ハンドアウト> 

②パワーポイント  アクラス研修会20121024パワーポイント

 ③エッセイ集(内容見本) エッセー集(内容見本)

では、皆様、佐藤美和さんの報告をお読みください。

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<「やさしい日本語」について考える

     日本語教育における「文法」を問い直す(講師:庵 功雄氏)>

             報告者:佐藤 美和 (TCC日本語学校講師 国際交流担当)

参加者同士で意見交換

はじめに

「やさしい日本語」に興味を持つ方、庵先生に興味を持つ方?が集いました。少々遅れてのスタートだったため、誰からともなく自分の実践の語り合いが始まりました。十分に空気が温まってからの庵先生のご登場に「ナマ庵先生!」と歓声が上がりました。

 

現行文法シラバスの問題点

現在の初級シラバスは70年間基本的に変わっていないという問題提起からスタートしました。しかも見直しも全くと言っていいほど行われてきていない現状。果たしてこれでいいのでしょうか。

日本語教育の中で「中級」が確固たる地位を占めている以上、見直しが必要なのですが、具体的にどのような問題点があるのでしょう。まず、学習者のニーズの多様化に対応できていないこと、そして日本語エリートを対象とするとしても、現行シラバスは無駄が多いとのことです。文法は初級で終わりだとしていることの弊害として、具体的に直接受身を例に挙げられました。さらに先生の教科書の文法項目調査をもとに、「上級から超級への日本語教育」はまともに論じられていないという新たな問題点も浮かび上がり、あちこちからため息が漏れました。

 

やさしい日本語

庵先生がご提案されているやさしい日本語は、災害時のみならず平時にこそ必要だというお考えに基づいてのものです。やさしい日本語の現行初級シラバスは相当簡素化されていますが、「話す」ということに特化して考えれば、これだけで十分であると言えます。

また、EPA看護師候補生への日本語教育の現行の枠組みについても、N2程度の日本語教育を受けることの想定は、国家試験に合格するということからすれば、この目標は全く的外れであることをお話しされ、現行の文法シラバスの無力さを力強く語られました。

 

新しい文法シラバスの構築のために

まず必要なのは、①現行の能力試験の枠組みから完全に離れること。②具体的なデータに基づいて項目を決定すること。この2点に配慮し、新しい視点からシラバスを作成し、それに基づく教材作りをする。そして成果を広く世に問うことが重要なのです。短期の学習者に対しても、「これだけあればこれだけ話せる」というものを作らないと、日本語教育は変わらない。まさしく今が最後のチャンスなのだということを最後にお話しされました。それを受けて、現在一番使われている日本語の教科書、『みんなの日本語』への批判が展開しました。さらに、現場の教師はそのままを教えているわけではなく、理解と使用を分けて教えているとの発言に、それならばどこのどのような立場の方でもそれができるような記述がなければならないと、議論が発展しました。

庵さんを囲んで懇親会

おわりに

ボランティア、日本語学校の教師、ビジネスパーソンへの指導など様々な背景を持つ方々が集まっての研修会でしたが、それぞれが立場を超えて「現行の文法シラバス」に対しての疑問が深められ、さらに「何とか変えていかねば」という使命感を持って、会は締めくくられました。

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