11月3日に「〈多読〉というスタイルのすすめ~読む力をつけるとはどういうことか~」というアクラス研修を行いました。講師は、粟野真紀子さん、そして3人の協力者の方がお見えくださいました。なんとそれぞれカバンにぎっしりと本を詰めてのご登場。その熱意に感動しました。
この研修は、今回協力者として参加し、また報告レポートを書いてくださった深田みのりさんのご尽力によって実現しました。「アクラスで多読の研修会をしたらどうですか。こんな本が出たんですよ。」と、多読の本の紹介に始まり、研修企画を語ってくださったのです。こうして、会員の方からアイディアを出して頂き、研修を実施出来たことは、とても素晴らしいことだと思います。
会員の皆さま、どうぞご意見、アイディア、ご希望をお寄せください。これからも、どんどん「出会いの場」「学びの場」として、アクラスをご活用頂けたら幸いです。
また、レジュメ等を粟野さんからPDFでお送り頂きました。粟野さん、ご配慮に感謝致します。また、協力者として参加してくださった川本かず子さん、宮島京子さん、深田みのりさん、ありがとうございました! 貴重な実践報告、参考になりました。
資料:
それでは、深田さんの報告レポートをお読みください。
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「〈多読〉というスタイルのすすめ」報告レポ―ト<報告者:深田みのり>
講師:粟野真紀子(NPO多言語多読理事長)
協力者:川本かず子、宮島京子、深田みのり
なぜ「多読」に?
今回も満員御礼、定員一杯でテーブルを囲んでスタートしました。参加者はほぼ全員が日本語教育に携わる方々でしたが、教える場は日本語学校、専門学校、地域、大学、オンライン上、国内、海外など様々。最初に自己紹介しあう際、この講座に申し込まれた理由を一言ずつお願いしました。
「試験対策の読解に疑問を感じて」「非漢字圏で読解アレルギーの学習者の対応に困っていて」「研究テーマにしようと思い」「英語多読をやっているので」「英語多読をやって挫折したので」「身近に多読をやっている人がいるが、実際どうなのか知りたい」「そもそも多読とはなんぞや?と思って...」などなど。率直なご回答を受けて、講座はまず「多読とはなんぞや?」(担当:粟野さん)から始まり、次に参加者による英語多読体験(担当:宮島さん)、そして日本語多読授業の実際(担当:川本さん)という3部構成で進められました。
多読とは、自分が面白いと思うものをどんどん読むこと
「教師である自分を少し脇において、自分が外国語を学ぶことを考えてみてください。その上で、読む力をつけるとはどういうことか考えてみましょう。」
自己紹介から研修にうつる時、粟野さんはこう言いました。この言葉が、多読についてみんなで考える時間のスイッチ・オンでした。
粟野さんは、ご自身でも自己紹介されましたが、「英語多読」で多数著書のある酒井邦秀先生がおつれあいで、その英語多読を日本語でもやってみようと日本語多読研究会を立ち上げ、仲間の方々と教材の本づくりからスタートし、この10年間活動を地道に続けてこられた方です。
多読とは、「自分が面白いと思うものをどんどん読むこと」。活動の柱となる定義は、シンプルかつ明確でした。従来のテキストで語彙と文法をおさえていく読解授業への疑問、優れた読み手となるためには大量のインプットが必要であること、そのためにはテキストは学習者にとって面白くなければならないこと。それらを具体化した方法が「多読」ではないかと。
多読をする時のルールは4つ。①やさしいものから読む②辞書をひかない③わからない言葉は飛ばす④進まなくなったらその本は「捨てる」、これだけです。そのルールの意味とは何か、そして教師の役割は何か。多読授業では、教師は「本」なのであって、私たち教師は、学習者と本のコミュニケーションを観察するのが仕事なんです、そういうお話でした。(詳細や学習者の声が添付別資料にあるのでご参照ください)
それはどういうことなのか、実際に学習者の感覚を味わってみようということで、英語多読体験へ。
英語多読体験をしてみる!
英語多読を自力で250万語達成した宮島さんによるプチ英語多読体験授業。まず、2人に4冊ずつ英語多読教材が配られました。「手に取って違いを味わってみてください」。語彙が英語学習者用にコントロールされているものとネイティブの子供向けにコントロールされたものをざっと見比べてみることから始めました。
次に、英語多読教材の豊富さとすごさについて。難易度、種類、面白さが、緻密なレベル分けやガイドブック、ウェブサイトの充実によってすべて可視化されていて、個人が気軽に多読を継続できるようになっているという話でした。読書記録票も整っていて、読み終えるごとに記録していくのは預金通帳にお金がたまるような嬉しさがあると。(わかるような気がします。)
このあと、いよいよ英語多読体験。読みたいものを選び、多読4原則にしたがって実際に読んでみました。ほんの短い時間でしたが、満杯の部屋が静まり返り、まさに「多読授業の時間」でした。それを終えたあと、「読んでいた時の自分の頭や心の動きを振り返ってみてください」。集中していた?翻訳しながら読んでいた?音読しながら読んでいた?知らない単語があった時、飛ばして読む感覚はどうだった?...参加者の方々から本当はお一人お一人感想を聞きたいところでした。宮島さんによれば、英語多読をしていて大切だったことは「自分がストレスなく物語に完全に入り込める」ことだったそうです。
多読授業の実際
三部構成の最後は、多読をする側ではなく提供する側としてはどうやったらいいのか、その実際について、川本さんから事例紹介や映像を用いた具体的な話がされました。スタンダードな形の紹介のあと、参加者からの質問に答える形で進められました。
非漢字圏の学習者における「聴き読み」の効果、多読授業の初めの言葉や、多読をしている最中の声かけの言葉は、例えばどう言うのか等々。話したいことも聞きたいこともまだまだある...という感じでしたが、残り時間が少なくなってしまい、この続きは第2部の食事会で..ということで、最後に参加者から一言ずつ感想をいただき終了となりました。
最後に
最後の一言感想をいただいた中で、「多読をやります!」「楽しかった!」という声を多数いただいたことに、研修協力者としてほっとしました。限られた時間の中で、参加者の皆様には、発言や質問をいただく時間が少なく申し訳ないことでした。また、同じく限られた時間の中で伝えきれないもどかしさと闘いながら発表された粟野さん、宮島さん、川本さん、お疲れさまでした。
●私たちの伝えきれなかったことは、『日本語教師のための多読授業入門』(アスク)の中に詳しく書かれています!お見せした映像は、本の中に記載されているURLからご覧になれます。
●英語多読を始めたい方は....→多言語HPへ! http://tadoku.org/
●日本語多読を始める前に/始めてから、疑問や戸惑いがあったら....→多言語日本語多読HPからお問い合わせを!http://www.nihongo-yomu.jp/
「多読」の世界に入っていくと、今まで当たり前だと思っていたことに疑問を持ったり、考えさせられたりすることがあると思います。「評価とは?」「教師の役割とは?」「授業のありかたとは?」例えば、そういう疑問です。その時に、「多読」に難しさや限界を感じたりされることもあるかもしれません。そういうことも、また皆さんと話し合えたらいいなと思っています。学習者の「読む力をつけるとはどういうことか」という問いから始まって、私たち教師自身が楽しみ、そして自身を振り返る、そんなところに、「多読」の奥深さ、真髄があるように思うのです。
多読によって学習者がどう変わるのか、教師もどう変わるのか、このシンプルで有用な教材にどんな学習の可能性があるのか、また、アクラスでみなさんと語り合い、経験を伝えあうことができたらと思っています。どうもありがとうございました。(深田みのり)