学会活動が私に与えてくれたもの~副会長を終えて想うこと~

本日の代議員総会(5月21日)をもって、6年間の公益社団法人日本語教育学会の副会長任期が終わりました。思えば、1999年に評議員になってから、18年間ずっと学会とともに走り続けてきました。早稲田大会その間、さまざまなことがありましたが、ともに活動する仲間に支えられ、育てられ、ここまで来ることができたのだと、しみじみ思います。

そこで、若い方々、まだ学会に足を踏み入れていない方々にも、日本語教育学会の存在、学会活動の面白さを知っていただきたく、一区切りついた今、発信したいと考えました。特に、日本語学校に関係していらっしゃる方々には、是非お読みいただきたいと思います。

(※社会啓発委員会委員は、現在1期目であり7月1日より2期目となるため、あと2年間活動をしていきます)

 

■日本語教育学会「幽霊会員」から評議員へ~「日本語学校を知ってほしい!」という思い

学会に入会したのは、イーストウエスト日本語学校の教務主任(1991.4)になってすぐのことでした。入会して春季大会に参加してみたのですが、知っている人がいない上、研究発表などもあまり興味をひくものではありませんでした。「やっぱり現場と研究は……」などと勝手に思い込み、それ以来何年もの間、大会には参加していませんでした。

 

ところが、1999年に突然事務局から「評議員就任依頼」の電話をいただきました。私にとっては、まさに青天の霹靂でした。そこで、

学会事務局入口にかかっています。

学会事務局入口にかかっています。

「これまで大会などには参加していない状況であり、学会のことはよく分からない。私などがお受けすることは……」とお答えしました。すると、「学会としては、これからはぜひ日本語学校の方に加わってほしいと思っています。理事会からの推薦ですので、是非!」という言葉が返ってきました。 私は、「そうか!やっと日本語学校が認められ始めたんだ」と、ある種の感動を覚えました。それまで「日本語学校って、どういう所なんですか?何をする所ですか」と、大学関係者から何度も聞かれてきました。そんな中で、「日本語学校関係者の一人」として評議員になることは、意義があると考えました。こうして私の学会活動の第一歩が始まりました。

 

 

■委員会活動に参加して~初参加の不安から仲間と集う楽しみへ

評議員になった私が決心したことは、以下の3点でした。

 

●日本語学校の代表として、総会(5月の大会時)と懇談会(10月の大会時)には

必ず出席すること(任期中、1度も休んだことはありません)。

●評議員会にただ出席するのではなく、日本語学校関係者として意見を述べること。

       私の役目は「日本語学校の存在を知ってもらうこと!」

●日本語学校関係者だからこそできることは何かを考え、行動すること。

                                   

そして、評議員になって2年近く経ったある日、大会委員会委員長から「大会委員就任依頼」のお電話をいただきました。これまたびっくり!「どんなお仕事なんでしょうか?」と恐る恐る聞いたことを今でも覚えています。もちろん評議員になってからは、毎回春季・秋季の大会には参加していましたが、これまで発表要旨を査読するというお仕事はしたことがありませんでした。この時も「果たしてできるのだろうか?」と不安でいっぱいでしたが、「日本語学校からぜひ出て欲しいと思って……」という一言で、お引き受けすることにしました。本当にその当時は、大学と日本語学校とのかい離は、大きなものだったのです。

 

応募要旨を評価したことがない私は、とても不安でした。そこで、こんなことをしてみました。最初の会議は新旧交代時で、新委員は「見習い委員」として現委員が付けた査読結果をもとにして話し合いをするのを傍聴するという形式でした。各委員は10件強の応募要旨を担当するのですが、私は、新委員に「参考資料」として送られてきたすべての応募要旨を熟読し、さらに評価基準を見ながらすべての応募要旨に(自己流ではありますが)採点をしてみました。初めてのことでもあり、かなりの時間がかかり、大変でした。しかし、それだけ準備をした上で会議での現委員間のやり取りを聞いたことで、「評価のポイント」「配慮すべき点」「自分の評価の課題」などを把握することができました。こうして1つ1つ小さな努力を積み上げていき、やがて不安は楽しみに変わり、ともに仕事をする仲間との対話を楽しめるようになりました。

 

次に来た委員会活動は、教師研修委員会でした。これは、勤務校で常に教師教育に携わってきた私にとって、とても関心の高いテーマでした。この委員会では、次のことをめざしました。

 

◆さまざまな機関で働く先生方に「参加したい!」「参加してよかった!」と

思ってもらえる教師研修会を実施すること。

◆ネットワーク作りができる教師研修会を実施すること。

 

この思いは、さまざまな形で実現することができました。特に1泊2日の合宿研修は、参加した方々のネットワーク作りに役立ちました。海外や国内各地に出張した際に、何度も「あの時の合宿研修は楽しかったです」「いろんな方とも知り合いになって、輪が広がりました」という参加者の声をお聞きすることができました。

 

 

■私を育ててくれた学会活動~一人でも多くの方の参加を!~

こうして学会活動にどんどん入り込んでいった私ですが、その活動を通してどれだけ多くのことを学ぶことができたか図り知れません。タテ看板勤務校の中で安住するのではなく、さまざまな教育機関で活躍する方々との協働は、考え方に幅ができ、新しいものを吸収することができました。異なる価値観を持つ方々との対話は、楽しく、有意義なものでした。

 

ここで、まだ学会活動に参加していらっしゃらない皆さんに是非お伝えしたいと思います。

 

◆まず一歩踏み出してください。大会に参加し、そして機会があったらスタッフとして参加してください。委員会活動に関しても、最近では「公募制」(注1)も導入されています。誰にでも「初めの一歩」があるのです。それを踏み出すか踏み出さないかで、その後の仕事人生は大きく違ってきます。

 

◆大会参加のためには、参加費・交通費(場合によっては宿泊費)がかかります。日本語学校には大学関係者のような研究費支給という方法がありませんが、最近では「発表者」には日本語学校からサポートが出るケースも増えてきました。今の状況がどうであれ、とにかく一歩を踏み出してみてください。

(私自身はサポートのない状況で活動せざるを得ませんでしたが、大会への参加や学会活動で多くのことを学び、大勢のか けがえのない仲間と出合うことができました)

 

◆「気持ちがあっても、時間がない」という声も聞こえてきそうです。私も日本語学校の教育の責任者として朝早くから夜遅くまで働き詰めの毎日でした。でも、時間は工夫次第で出来るものではないでしょうか。現場でアウトプットばかりで疲弊してしまい、「カラカラになった自分」という状態になる前に、一歩踏み出してみませんか。

 

 

■発信し、つながることで生まれる「新たなモノ」~「大きなうねり」は「小さな一歩」から~

「日本語教育のことは、あまり世の中に知られていない。もっと存在意義を理解してほしい」といった不満の声をよく耳にします。しかし、発信しなければ、どんなに良い実践をしていても、どんなに素晴らしい考えを持っていても、伝わりません。発信しなければ、知ってもらうことも、ともに活動することもできません。皆さん、ご一緒に発信し、つながり、新しいことを生み出していきませんか。

その一つに日本語教育学会に参加し、ともに考え、活動し、新たなモノを創り出していくという道があります。「新たなモノ」には、<新たな自分自身>も含まれています。

 

この20年、確かに日本語教育を取り巻く環境も、日本語教育の質・量とも大きく変わってきました。しかし、日本語教師の待遇改善は、まだまだ未解決のままとなっています。ここにきて、日本語教育推進議員連盟(注2)が出来、基本法の成立に向け動き出しています。何年も前から言われては消え、また沸き起こり……の繰り返しでしたが、やっと議連も誕生し、山が動き始めた感があります。今こそみんなで力を合わせてオール・ジャパンで取り組むべき時だと思っています。

そのための1つの道として、4000人が集う日本語教育学会という場で、活動してみませんか。

 

ここに新生日本語教育学会(2013年4月1日に公益社団法人となりました)が掲げる使命などを記しておきます。早稲田大学

 

【使命】人をつなぎ、社会をつくる

 

【学会像】共に集い、行動する学会

 

【全体目標】

・日本語教育の学術研究を牽引し、研究者を育成する。

・日本語教育の実践の創造と深化を共有し、実践者の育成を図って、学習環境を整備する。

・日本語でコミュニケーションと相互理解を深め、人生を豊かにする。

・日本語でともに生きる豊かな社会を創造する。

                                 

私もまだまだ現役で(働き方は変えていきますが……)日本語教育の世界で動き回っていたいと思っています。

 

皆さま、これまでお世話になりました。

そして、

これからもどうぞよろしくお願いいたします。

 

 

注1「チャレンジ支援委員会委員公募」

http://www.nkg.or.jp/wp/wp-content/uploads/2017/02/challenge_kobo.pdf

注2「『日本語教育推進議員連盟』誕生~「これまでの活動」を振り返って~」

http://www.acras.jp/?p=6496

 

参考:

2017年2月には、次のようなサポーター募集もありました。

春季大会開会式企画サポーター募集

http://www.nkg.or.jp/wp/wp-content/uploads/2017/02/supporter.pdf

2 Responses

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  1. 投稿アップ後随分たってからのコメント送付で失礼いたします。
    エッセイ、拝読しました。日本語教育界の中心にいて常に業界を引っ張ってきた(と私は感じております)嶋田先生が、幽霊会員だったとは!と、非常に興味深く読みました。
    私も学会の委員会活動に関わらせていただいておりますが、正直なところ学部卒でしかない自分に引け目を感じることもあります。それでも、「日本語学校の立場から」ということに意義と使命を感じ、懸命に参加しています。
    先生がこのエッセイで書かれていたことのひとつひとつに大きく頷きながら読みました。それは、私も本当に同じように感じているからに他なりません。嶋田先生がやってこられたように自分ができるとは思いませんが、これからも自分なりに頑張っていこう、と改めて思わせていただきました。
    今まで、お疲れさまでした。そしてこれからもよろしくお願いいたします!

    1. 金子さん、コメントを拝読しました。私が書いたことが少しでもお役に立てれば幸いです。「『日本語学校の立場から』ということに意義と使命を感じ~~~」、とても嬉しいです。これからも私にできることを発信し続けていきたいと思っています。そして、「日本語学校でこそ働きたい!」という思いを持った人達が、嬉々として働き続けられるような待遇改善が求められますね。まだまだやるべきことはいっぱいありますよねえ~~。

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