海外レポート「パラグアイの日本語教育事情」(JICAシニアボランティア:権藤早千葉さん)

JALP(日本語プロフィシェンシー研究会)の会員の権藤早千葉さんがパラグアイに赴任なさったのは半年前。出発前にお会いした時、「パラグアイの日本語教育についてはあまり情報がないので、是非最新情報を送ってください」とお願いしました。その待望のレポートが届きました。「地球の反対側の未知の国に国民全体がこのような親近感を持ってくれるのは、本当に有難いことですし、この関係を大切にしたいと思います」という権藤さんの言葉が深く心に残りました。

 

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パラグアイの日本語教育事情

                     JICAシニアボランティア 権藤早千葉

パラグアイに来るまでは、こちらの日本語事情については断片的な知識しかありませんでした。来パ後も情報を得るのが難しかったのですが、半年以上過ぎてようやく全体像がつかめてきました。現在、首都アスンシオンに隣接するフェルナンドデラモラ市で活動中ですが、赴任先の学校以外については詳細なデータを得るのは難しいため、これまでの間に知り得た範囲で現地の日本語教育事情についてまとめてみたいと思います。

まず、パラグアイで日本語を教えている機関は大別して3つあります。

1)日本人学校

2)日系社会が運営する日本語学校

3)パラグアイ人対象の私立学校での日本語教育

その他に文化センター内で日本語を教えています。

4)文化教室としての日本語教室

1)は、文部省管轄の海外に赴任した日本人子弟対象の学校です。ここでは日本語教育ではなく、日本人対象の国語教育が行われています。

2)については、パラグアイの日系人は約7000人と言われ、全国に8つの日本人移住地があります。各地域および首都アスンシオンには

「ラパチョ」は桜のようにパラグアイを代表する花です。

「ラパチョ」は桜のようにパラグアイを代表する花です。

それぞれ日本人会が組織されており、各日本人会は補習校としての日本語学校を運営しています。日系の小学生はパラグアイ人と同じ正規の学校で授業を受け、放課後、日本語学校で日本語の授業を受けます。アスンシオン日本語学校では土曜日に中学生対象の日本語授業をしているとのことです。各地の日系社会では日本語が普通に使用されていて、これまでのところは日本語の継承がかなり成功しているようです。

ただ、現在は日系3世、4世の時代に移っており、パラグアイ人と日本人、二つのルーツを持つ子供が増えていることから、日本語教育はこれまでのような日本人としての言語環境を想定して行うことは困難になってきています。家庭で日本語を使用しない子供たちには、従来の国語教育ではなく外国語としての日本語教育が必要なのですが、その体制がまだ不十分だということです。

各移住地では従来、日本の「国語」の教科書を使って継承日本語として「国語教育」が中心に行われてきましたが、近年は学習者が「外国人としての日系人」へと変化してきていることを考えると、「日系人=日本人」という前提で国語教育を行うことは難しくなってきています。ある地域の日本語学校教師から得た情報によると、日系人の子供への教育は「日本人をルーツに持つ日本人としての国語教育」「国語教育に近づけたいが日本語を基礎から教える教育」「外国語としての日本語教育」など、学習者に応じて様々な様相が現われているそうです。この変化の時期にあたって、これまで培われてきたパラグアイでの日本語教育を踏まえ、各地の日系社会に適した日本語教育を考える必要がありそうです。

各地の日系社会を束ねる日本人連合会では、毎年全国の日本語学校の日本語教師対象の研修会を行っていて、今年(2017年1月)は首都アスンシオンで開催されました。一部参加させていただきましたが、国際交流基金の専門家が日本語教科書「まるごと」を使ってその基盤となる考え方を紹介するとともに、教師主導ではなく学習者主体の活動を中心に進めていく手法について、ワークショップ形式で研修が行われていました。1回の研修会では十分ではないでしょうが、学習者視点での日本語教育を考えるきっかけになったのではないかと思います。

 

3)については、アスンシオンとその近郊では筆者の赴任先を含め、3つの私立学校が日本語の授業を行っています。JICA青年隊員が派

スピーチコンテスト

スピーチコンテスト

遣されている「日本パラグアイ学院」では、スペイン語による授業のほかに、毎日2コマ週10コマの日本語授業があるそうです。小学校から高校まで文法シラバスで指導しているようです。中学、高校では日本語能力試験対応のコースもあり、N4やN3の合格者も出ているとのことです。学校では毎日、日本の国旗掲揚、国歌斉唱が行われているとも聞きました。日本語の教育を行うとともに、日本人社会の規律正しさを身に着けることも目標になっているようです。

筆者の赴任先である「Universidad Nihon Gakko」は幼稚園から大学まで備えた私立学校です。ここでも日本の国旗掲揚、国歌斉唱が行われ、やはり日本的な規律正しさを教育の基本としています。日本語教育はその一助と考えられていて、言語教育としてはあまり重視されていないのが実情です。

幼稚園から高校まで日本語が必修とされていますが、40分程度の授業を週1~2回行っているだけなので、日本語に興味のある生徒は他の文化センターなどで日本語を勉強しているようです。日系人の生徒も各学年に1名以上はいますが、2)の日本語学校で日本語を学習している生徒はほとんどいないようです。ボランティアとしては日本語に興味のある生徒を集めてクラブ活動として日本語に触れる機会を増やすことぐらいしかできませんが、他には、少ない時間でもできる効果的な学習方法など、教員に対して教室活動の工夫を提案することもしています。活動の本務は大学での日本語教育なのですが、大学の日本語教育は教養としての必修科目であるものの、これも週1回90分で半期しか行われないため、コンパクトに日本語を学習できるような教材作成に取り組んでいるところです。

 

4)は、首都アスンシオンには筆者の知る限りでは公的な3か所の文化センターに開設されており、日本語に興味を持つ人々が日本語教室に通っています。また、空手教室や日本文化紹介イベントなども開かれているようです。

以上のように、パラグアイでの日本語教育は日系社会で行われてきた国語教育が中心であり、外国語としての日本語教育は日系社会では

パラグアイでも書道は人気です

パラグアイでも書道は人気です

新しい教育方法だと思われます。また、日系社会の日本語学校とパラグアイ人対象の学校の日本語教師間には共通のパイプがなく、情報共有は日常的には行われていません。ただ、年1回行われる日本語スピーチ大会は、もともと日系人の日本語学校の生徒が対象だったのですが、パラグアイ人の日本語学習者の増加に対応して非日系部門が設けられ、別枠で参加することができるようになりました。これは、非日系の学習者へも大きな励みになっていると思います。

パラグアイの人たちは日本人に対して特別な感情を持っているようです。それは、これまでの移住者が農業分野を始めパラグアイの社会的発展に大きく貢献してきたことで得られた信頼や尊敬です。日本人に対するそのような気持ちが近年のアニメブームと結びつき、現在の日本に対する親近感につながっています。

昨年は日本人パラグアイ移住80周年記念行事が多数行われましたが、その集大成ともいえる「日本祭り」にはアスンシオンの会場に17000人が集まりました。アスンシオンの人口が約50万人であることからすると、信じられない人数です。会場の中央に設置された櫓の周りには、太鼓のリズムに合わせて盆踊りの輪に多くのパラグアイ人が加わりました。地球の反対側の未知の国に国民全体がこのような親近感を持ってくれるのは、本当に有難いことですし、この関係を大切にしたいと思います。そして、この国でどのような日本語教育が可能であるのか、赴任先で色々なことを試しつつ考えていきたいと思っています。

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