年輪を感じさせる留学生スピーチ大会~「第27回青山国際教育学院スピーチ大会」に参加して~

2月25日、浅草のすみだリバーサイドホールで「第27回青山国際教育学院スピーチ大会」が開かれました。今回、審査員として初めてこのスピーチ大会に参加しました。27年にわたって続けてきた足跡は、優勝トロフィーの歴代優勝者名が書かれたペナントリボンの数にも見られます。

今年は、学習者数が大幅に増えたため、午前部と午後部に分かれての実施となったと伺いました。

長い間実施していらしただけあって随所に工夫が見られ、ぜひ発信して、皆さまと共有したいと考えました。教務主任の北出さんの許可を得て、評価基準などもお知らせ致します。こうしていろいろな日本語学校の実態を共有することで、ネットワークが広がり、全体として日本語教育の質の向上が図れるのだと思います。

 

午前の部 司会が優勝者にインタビュー

午前の部 司会が優勝者にインタビュー

■予選で「クラス代表」を決定し、いよいよ本選へ

まずは各クラスで授業としてスピーチを実施、その中から選ばれた3名が「クラス代表」を決める予選に出ます。各クラスの3名は、学内教師による審査員のもとスピーチを披露し、「クラス代表」1名が選ばれます。その代表者は、同じスピーチをさらに磨き上げて、本選に臨むことになるのです。

 

こうして同じスピーチを何度も練り上げていくことで完成度が高まり、クラスでのスピーチへの関心度も高まっていきます。審査員長を務められた村上学院長は、次のように話してくださいました。

 

「いつだったか、学校の近くの歩道橋でいつもスピーチを練習している人がいたんですよ。よく見たら、今日の出場者の〇〇さんだったんですよ」

 

こうしてクラスを代表するスピーカーとしての意識、入賞したいという思いが、自発的な練習につながっていったのではないでしょうか。

 

 

■審査員は、基本的には外部の方に依頼

 

よく日本語学校関係のスピーチ大会では、学内教師だけの審査団、あるいは学内に加えて一部外部の方を入れた審査団というケースが多いのですが、ここではできるだけ外部の方で・・・という方針だと伺いました。そして、なんと落語家の桂米多朗師匠も毎年審査員として参加していらっしゃると聞き、びっくり! 私が以前勤めていたイーストウエスト日本語学校でも、長い間「学内落語鑑賞会」をしているのですが、「スピーチ大会の審査をお願いする」という発想がありませんでした。やはり中にだけ居るのではなく、外との交流によって新たな工夫が生まれるのだと改めて思いました。

(青山国際教育学院でも、毎年桂米多朗師匠による「学内落語鑑賞会」が開かれています)

 

 

午前の部 みんな揃って記念撮影

午前の部 みんな揃って記念撮影

■多様な賞に、びっくり!

どのスピーチ大会でも、優勝、準優勝、第3位はありますが、本大会では、さらにいくつもの個性豊かな賞があります。それは、人との関わりを大切にした賞であり、その審査をする人が、すべて檀上に上がって紹介されるという点も、すばらしいと思いました。ちょっと賞をご紹介したいと思います。

 

 

 

◇学生賞

スピーチ大会に参加している学習者全員に、1枚ずつシールが配られます。そこで、スピーチを全て聞き終わった後、張り出された大きな紙に「一番良かったと思うスピーチ」のところにシールを張っていくのです。よく「観客賞」などがありますが、観客にはいろいろな方がいらっしゃるので、学習者に特化した賞を設けたところに意味があります。

 

◇卒業生特別賞

数人の卒業生が参加して自分達が一番良いと思うスピーチを合議して決めます。司会者が「2010年のスピーチ大会で司会を務めた〇〇さん。2015年スピーチ大会に出場した△△さん。……」と、檀上に並んだ卒業生を紹介していく姿は、在校生と卒業生を結ぶ「すてきな時間」でした。

 

桂米多朗師匠と賞品

桂米多朗師匠と賞品

◇日本人賞

毎週ボランティアで来てくれている大学生・大学院生も数名審査員として参加しています。こうした方々もただ参加するのではなく、審査員として参加し、1名選ぶということを通して、単なる「参加」から「参画」へと変わっていきます。

 

◇桂米多朗賞

落語家の桂米多朗師匠が選ぶ賞ですが、これは優勝、準優勝、第3位の3人を除いた出場者の中から師匠ご自身が選ばれたものです(他の賞は3賞とだぶってもよいとされています)。

そして、賞品は、写真のように手ぬぐいです。すてきなオリジナル商品をもらった受賞者にとって、とても良い記念になることでしょう。

 

 

■シンプルな審査基準

午後の部 優勝、準優勝、第三位

午後の部 優勝、準優勝、第三位

審査基準は内々で・・・という教育機関が多いのですが、今回教務主任に伺ったところ、

「どうぞ、どうぞ」というお返事をいただきました。とてもシンプルなのですが、なぜか

「第1位は満場一致、2位は同点2名で話し合い後決定……」といったケースとなりました。

これは今年だけに限らず、毎年すんなりと決まるのだそうです。以下、審査基準を記します。各5点満点です。

 

①  テーマ

・自分の主張を表現できるようなテーマである。

・受け売りでない自分の主張であるか。

・偏見のない意見、主張であるか。

・スピーチ大会のテーマとして適切であるか。

午後の部 優勝して感無量

午後の部 優勝して感無量

②  話題

・自分自身で発想した話題で、自分の言葉で話しているか。

・論点が明確で、説得力があるか。

・用語など、表現方法が的確、明瞭であるか。

③  構成

・論旨、話の流れ、起承転結がうまくまとまっているか。

(自己紹介、テーマ紹介は入れない)

④  アピール度

・服装、姿勢、表情、声の大きさ、発声の明瞭さ、話す速度

午後の部で講評を・・・

午後の部で講評を・・・

⑤  準備

・原稿がきちんと頭に入っているか。

⑥  時間

・2分以上5分以内

(6分を超えた場合、本選では失格)

 

 

■できる限り学習者主体で!

司会、ポスター作成はもちろん学習者です。そして、カメラマンも学習者が責任を持って務めています。「できる

浅草①地下鉄浅草駅

浅草①地下鉄浅草駅

だけ学習者自身で……」と考えてやってきた私も、司会、ポスター作成、ご近所へのポスター張りの依頼など、学習者に任せるスタイルを取ってきましたが、カメラ・ビデオは教師陣で回していました。「そうだ!もっと工夫の余地あり」と思いながら、学生カメラマンを眺めていました。

村上学院長は、ランチタイムに次のように語ってくださいました。

 

「うちでは、できるだけ学生に任せるようにしています。そのほうがうまく行くんですよ。スピーチ大会もそうですけど、バス旅行もリーダーを決めて、彼らに任せる。意識が高くなって、きちんと行動してくれるんで……」

 

浅草②お昼に見たスカイツリー

浅草②お昼に見たスカイツリー

午前部で11のスピーチ、午後部で14のスピーチを聞いた1日でしたが、不思議と疲れはなく、爽やかな気持ちで浅草を後にしました。

あらゆるものに『適者生存』という言葉があるのに、どうして人間にだけないんですか?」という植物を研究したい楊さんの言葉、まだ日本語を勉強し始めて間がないチュオンさんの「ドアが閉まれば、また他のドアが開きます!」というメッセージ。

 

今なお、出場者のさまざまな言葉が心の中で響き合っています。こうしたさまざまな学習者との出会いが、私達日本語教師にさらなるエネルギーを与えてくれているのだと思います。

 

※スピーチ大会の写真は、青山国際教育学院から頂きました。

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>