もう一つの俳句づくり物語~ことばへの興味が広がったロサンさん~

12月に「俳句コンテストの結果発表~たくさんの対話を生んだ俳句授業~」という記事を書きました。

http://www.acras.jp/?p=4960

今回は、中級クラスを担当する落合さんからお聞きした俳句授業での1つのエピソードとすてきな写真をご紹介したいと思います。

 

ネパール出身のロサンさんは、昨年11月の俳句授業で次のような句を作りました。

短冊に書いているロサンさん

短冊に書いているロサンさん

 

秋の月海にうつって物思い

やっときて心にのこる秋のたび

 

これが生まれる前のプロセスをちょっとご紹介したいと思います。俳句授業の直前に行われた校外学習でこんなことがありました。ロサンさんのクラスでは、バスの中で「それぞれ自分の国の言葉で『美味しい』ということを言ってみましょう」というゲームをしたそうです。

 

マシッソヨ、ミトチャチャ、ンゴーン・・・・・・

 

そして、北海道出身の先生が、「なまら うまいっしょ」と言ったところ、ロサンさんはその言葉の響きがとても

書き上がった短冊を持つロサンさん

書き上がった短冊を持つロサンさん

気に入りました。そこで、「絶対にこの言葉を使って俳句を作りたい!」と思いました。しかし、何しろ8拍もある言葉なので、なかなか難しく思い通りにはできません。最初の俳句づくり授業では、「月が海に映ってきれいなことを俳句にしたい。もう1つの俳句には『なまらうまいっしょ』を使いたい……」と、あれこれ考えていたのですが、なんと次の授業には風邪で欠席することになってしまいました。

さて、風邪が治って授業に出たロサンさんはクラス句会を目の前にして、「もう今からではちょっと……」と一瞬思ったのですが、そこは先生の見事な声かけですぐに句づくりに取り組み、上の2つの句を生み出しました。

 

この2つの句には、かなりの票が入ったのですが一票差でクラス代表句には選ばれませんでした。しかし、このことがロサンさんの自信につながり、日本語学習への意欲がさらに高まっていきました。何かを自分の力、他者との対話で作りだす喜びは、学ぶ楽しさをさらに生み出してくれることを改めて感じました。

 

さて、クラス句会が終わった直後のことでした。ロサンさんからクラス担任の落合さんに「先生、写真送ったから見て」というメールが届いたのです。「いったい何の写真だろう」と思って開いたメールの画面に現れたのは、「自分の俳句を埋め込んだ写真」でした。実は、2句作ったものの、短冊は1枚しかないため、どちらかの句しか記すことができないのです。

 

「なんと素敵な写真でしょう!」、そう思った落合さんはさまざまな先生方と対話を始めました。そして、ほどなく私の所にもその写真が届きました。(※ 最後に写真があります)

クラスみんなで記念撮影

クラスみんなで記念撮影

 

落合さんから、さっそく写真と俳句を紹介してもらった私は、是非ロサンさんに俳句作りについて尋ねてみたいと、インタビューをすることにしました。その一部をご紹介しましょう。

 

 

嶋田: この写真、すごいね!感動した。俳句もすてきだけど、この写真、すばらしい。

ロサン:本当にそう思いますか。良い俳句ですか。

嶋田: そうよ。ネパールには海はないけど、この海はどこの海?

ロサン:日本に来て初めて海を見ました。福岡に行ったとき、サンセットライブがあって、本当に海がすてきだった。

嶋田: この句を作った時の気持ちを教えて。

ロサン:月が海に映るとき、海がミラー、ミラー日本語で何ですか。(嶋田:鏡)ああ、鏡として映るとき、物思いになると思いました。自分

全員の短冊を教室に飾りました

全員の短冊を教室に飾りました

の性格にも合います。私は一人でいるのは好き。哲学が好きだから。

嶋田: 哲学が好きなの?

ロサン:はい。例えば、私の父が母と結婚しなかったら私はいない。未来、過去、今、みた

いに考えるのが好き。

嶋田: いろいろ考えるのが好きなのね。

ロサン:一人でいるのがすき。考えるのがすき。地球、月、星とか見て。いろいろ考えるのが好き。哲学が好き。

嶋田: ところで、イーストウエストを卒業したらどうするの?

ロサン:ネパールの大学でビジネスを勉強したから、日本で働きたかった。でも、漢字が難しいから、ほんとに難しいから、日本で仕事してもマネージャーは難しいと思う。だから、ネパールに帰って、それから英語を勉強しに他の国へ行きます。『できる日本語中級』

 

こんなやり取りを楽しみました。今回のロサンさんとの対話の中では、何度も何度も「哲学」という言葉が出てきました。きっと彼がとても気に入っている「にほんご」なのだろうと、今度そのことでもっと話をしたいと思いました。

 

ところで、このクラスは俳句授業のあった11月には『できる日本語 中級』13課を勉強していました。ですから、俳句授業に入る1か月ほど前に、9課「言葉を楽しむ」をやっていました。その課では、俳句も取り上げ、下地作りをしていたのです。だからこそ「『なまらうまいっしょ』を使って俳句を作りたい!」といった発言が飛び出したのでしょう。

 

皆さんも、クラスで俳句づくりをやってみませんか。「私のクラスは初級だから……」「まだ言葉が少ないから難

『できる日本語中級』9課「ことばを楽しむ」

『できる日本語中級』9課「ことばを楽しむ」

しい」「学習者が興味があるとは思えない」等という思い込みを一度捨ててみてください。イーストウエスト日本語学校では、20年以上前から、全クラスで俳句を作り、校内俳句コンテストを実施しています。時には初級クラスの学習者が入賞することがあります。たとえば2009年度には「おどらせる おとがよんでる なつまつり」というウクライナのマルガリタさんの句が第3席になりました。

http://www.nihongohiroba.com/?p=493

 

どうぞ先生方もご一緒に楽しんでみてください。学習者は、みんな自分の言葉で表現できる機会、みんなと対話できる機会を待っています。

ロサンさんが先生にメールで送った写真

ロサンさんが先生にメールで送った写真

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