香港で演劇活動をする「アンソン・ラム(林沛濂)さん」がアクラス日本語教育研究所を訪ねてくれました。十数年前日本で生活していた時、保証人としていろいろサポートしてくださった方が急死、その「お別れ会」に参加するための来日でした。「本当にお世話になったんですよ。急に具合が悪くなり、そのまま・・・。日本にいる間、どんなに助けて頂いたか」と語るアンソンさん、どんな思いで成田に降り立ったのでしょうか。
■日本留学中に、「胎内」(三好十郎)という演劇に魅せられて~~~
今年5月15日から31日まで、香港の「前進進牛棚劇場」で、三好十郎の「胎内」が上演されました。プロデュースしたのは、「役者和戯」http://www.yakushatheatre.com/
を主宰するアンソンさん。彼は、2004年日本大学芸術学部に在学中に「胎内」を見て、衝撃を受けました。洞窟の中に閉じ込められた3人の登場人物が、「いつ出られるかわからない状況」で、さまざまなことを考え、話し合います。ある人は、そんな状況でもお金が大切だと言い、ある人は、人を大切にすることが一番だと言い・・・。人間とは何か、人生において大切なものは何か、「人間の本質」についてじっくり考えさせてくれる作品でした。そして、アンソンさんは、「いつか演劇活動を続ける中で、『胎内』を自分で翻訳し、プロデュースし、そして演じてみたい」という夢を持ち続けてきたのです。そして、その夢は今年5月、ついに現実の物となりました。
彼が自分の劇団「役者和戯」を結成したのは、2013年のこと。それまで、山あり谷あり、いろいろ苦労がありましたが、「自分がやりたい芝居ができる人生を送りたい」とひたすら走り続けてきました。その時のことは、以下の記事をご覧ください。
「香港で役者として活躍するアンソン・ラム(林沛濂)さん
http://www.nihongohiroba.com/?p=3234
■新たな可能性を引きだす「人のつながり」
「胎内」の登場人物は、潘燦良(プン チャンリォン)さん、蘇玉華(ルイーザ・ソウ)さん、そしてアンソンさんの3人です。香港で有名な俳優であるプンさんとルイーザさんは、アンソンさんの話に耳を傾け、「芸術的にとても価値があるお芝居。私達は日本も好きなので、『懸け橋』になるような演劇は、ぜひ一緒にやりたい」と協力を誓ってくれたと言います。これまでアンソンさんが手掛けてきた芝居「笑いの大学」(三谷幸喜)、「ぬけがら」(佃典彦)にも共感した二人は、「いつか一緒に仕事をしたいね」と言ってくださっていたと言います。
演出を担当してくれたのは、日芸の先輩である田中麻衣子さん。幅広く演劇活動をする田中さんは、アンソンさんの夢に大きな力を貸してくださいました。また、三好十郎さんのお嬢さんである白木マリさんも全面的に協力。公演後「日本と香港をつなぐお芝居になりましたね。父が生きていたら、どんなにか喜ぶことでしょう」と感想を述べてくださったと言います。
芝居は大きな反響を呼びました。いくつか観客の感想を記しておきたいと思います。
・テーマに感動。命の大切さを知りました。
・人生で大切なものについて考えさせられました。もっと周りの人を大切にしよう
と思いました。
・いい作品ですね!
・劇場と演劇がとても合っていて良かったです。
■「役者和戯」に込められた思い・夢を語る
「和」とは、日本のことであり、平和のことでもあります。彼のホームページには以下のような文章が載せられています。
「役者」とは‘舞台に上がって、どんな役でもこなせることを職業として習得し
た人’。「和」はここで日本と平和を意味にする。「戯」は演劇、芝居を意味する。「和戯」は広東語で「和気」と同じ発音になり、心が平和であるという意味なので、演劇は愛と平和をもたらす意味にもなる。役者和戯の創立者と芸術監督のアンソン・ラムは東京で九年間暮らし、日本大学芸術学部演劇学科首席で卒業し(演技コース)、卒業後は東京演劇集団風に入団し、フルタイムの舞台役者と演劇教育の仕事に勤め、後にTPT(シアタープロジェクト・東京)で活動する。アンソンは在学中から日本と香港の間の演劇や芸術交流活動を続け、両国の文化交流活動により、演劇や芸術の発展が促すことが出来、芸術は両国の壁を破れることを信じる。また、両国の友好関係も良くなり、最終的に人類は国境を越える愛を分かち合い、世界平和に繋ぐと考える。
アンソンさんの大きな夢は、演劇を通して「香港と日本の懸け橋」になることです。将来は、日本で演劇ワークショップをしたり、香港では演劇と日本語学習をつなげるような活動をしたりしたいと考えています。さらには、演劇を通したコミュニケーションによって、世界の人々の間に「心の壁」が少しでもなくなるようにと願っているのです。
そして、日本人・日本社会に対して、こんなコメントを残してくれました。
「もっと信念を持って、言うべき時ははっきりと意見を言う必要があると思います。周りに気を遣うことも大切ですが、ある時は思い切って一歩踏み出したり、提案したりすることが大切ですよね。自分の考えを伝えたり、行動したりすることで、次の何かが生まれます」
■最後に、二人のやり取りを・・・
嶋田 「日本に留学したことが、大きなきっかけになったわよね」
アンソン「本当に良かったですよ。もし日本に留学しなかったら、今頃はデザイナーをしてるかなあ~~~」
嶋田 「演劇を仕事にして良かったよね」
アンソン「演劇活動を続けることは、経済的には大変な面もあるけれど、これが僕の人生。好きなことが出来る今の生活、本当に幸せです。夢もいっぱいあるし・・・。先生、お互いに夢を追っかけ続けましょう」
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15年前に初級クラスで教えた卒業生と、こんな会話が出来るなんて、本当に幸せです。
日本語教師という仕事は、実にやりがいのある、すばらしい仕事だと改めて思いました。
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