10月アクラス研修<著者との対話>(栁田直美さん)の報告

10月に行われたアクラス研修<著者との対話>のご報告です。今回の著者は栁田直美さん、著書は『日本語教育 学のデザイン~その地と図を描く』です。実施後の報告レポートは、萩原秀樹さんが作成してくださいました。どうぞご覧ください。

 

著者の栁田直美さん

著者の栁田直美さん

当日使用の資料:

アクラス研修資料1

  日本語教育 学のデザイン

アクラス研修資料2

  日本語教育 学のデザイン_第3部タイトル

 

 

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著者と語る『日本語教育 学のデザイン その地と図を描く』 

 報告    萩原秀樹(インターカルト日本語学校 専任講師)

 

前半はパワーポイントに沿ったお話でした。

 

1 はじめに、本書のコンセプトが説明されました。それによると、およそ10年前に刊行された「日本語教師の知識本シリーズ」(下記)で提示された考察が「語られ放し」になってしまい、その後検証されず、また蓄積もなされていないことへの反省が本書刊行のきっかけになっているとのことです。

『日本語教育における学習の分析とデザイン』(岡崎・岡崎 2005)

  『ことばと文化を結ぶ日本語教育』(細川編 2002)

  『人間主義の日本語教育』(岡崎・西口・山田編 2002)

  『文化と歴史の中の学習と学習者』(西口編 2005)

  『日本語教師の成長と自己研修』(春原・横溝編 2006)

 

「地図を描く」とは日本語教育学の今までを整理し、「今」の社会的状況を踏まえたうえで「これから」を考えていくことであり、「地」とは日本語教育学の背景となる社会的な事実や課題、また学問的な蓄積や課題のことであると説明されました。その観点からみていくと、学会誌『日本語教育』等で公にされた議論、報告には未整理のものが多く、さらにその後の蓄積や検証もないために学問としては成立していない、一方「図」とは教師自身の立ち位置であり、また個別の研究、実践を指しているとのことです。こうして「地」を共有して「図」を展開し、「歩き方」に進むという流れが必要だとの説明がありました。

 

2 次いで第2部第3章を例に、「地」の議論について触れられました。

エッセイのリストを見て考える参加者の方々

エッセイのリストを見て考える参加者の方々

ここでは『日本語教育における学習の分析とデザイン』(岡崎・岡崎2005)が取り上げられ、2つの課題を示しました。それは教育実践と教育実践に関する研究の往還、そして社会的文脈における日本語教育研究の拡大です。そこから筆者に導かれたのが、過去10年間、実践報告や実践研究は数多いものの、はたして学問的蓄積がなされてきたのかとの問題意識でした。

筆者はそれに対し「NO」と言います。なぜなら、実践知の共有という目的を掲げ、広がりはあるものの蓄積が見られず、理論構築に至っていないためだとのことでした。学会誌『日本語教育』また『世界の日本語教育』での論文を数量的に分析したところ、実践対象ならびに実践研究のタイプに偏りがあること。そして社会的文脈における学習理論が少ないのと対照的に、既存の理論の応用が多く、また教室内にとどまった実践であり、その結果実践から理論へという流れが弱く、社会とのつながりが強く示されているとは言えない実情があるためだとします。

そこで筆者は、これからどのような図を描いていけばよいのかという問いを設定しました。それはまた、教育実践の「知」はいったいどこのだれを幸せにするのかという問いでもあります。この問いに対する筆者の答えあるいは学び(気づき)は、「知」は教育実践に関わる人々の社会的営みに貢献するものである、というものでした。

こうした思考の流れに沿って、筆者が描く「図」が説明されました。そして、目下の研究テーマ「地方自治体の外国人窓口対応の実態調査と研修プログラムの開発」についての具体的な説明と、窓口対応の実態調査、あるいは日本人の説明に対する外国人側の評価尺度の開発といった外国人の視点に立った現状に関する分析作業の進行状況等が報告されました。

 

休憩後、後半は筆者と参加者、また参加者どうしの意見交換が行われました。

ペアワーク

ペアワーク

 

3 まず、本書第3部に寄せられた日本語教育とは異分野からの寄稿を含む24本もの異種混交のエッセイが、「日

本語教育学の新たな展望を開く際の議論のきっかけになる」との筆者の思いとともに簡単に紹介されました。それに反応して参加者からは、他の世界とつなぐ人材の必要性やデータ(数字)の重要性、また英語教育との連携を探る声があがりました。さらに、文章におけるフリガナ必要性の有無といったものを例に、日本語教育にまつわる諸課題に関して統一した方向性や見解を発信できるような姿勢が望ましく、それが社会に対して説得力を持つだろう等の意見が出ました。

次に、参加者がどのエッセイを読みたいか、また今後どのような方から、どのような内容のエッセイが読みたいかとの問いが筆者から投げかけられました。参加者からは日本語教育関係者のほか、ロボット工学の専門家、あるいは外国籍の研究者や著名な社会学者の手による文章への関心が寄せられ、今後は学習者本人、難民、あるいは詩人といった方々への依頼を期待する声があがりました。現在、版元(凡人社)のWEBサイトでは「わたしが描く、日本語教育の『図』」が公開されており、今回のこうした意見も参考に今後も継続的にエッセイが追加、掲載されていく予定とのことです。

 

4 最後に、今後10年間の日本語教育を取り巻く環境を想定し、日本語教育のどのような「図」を描いていきたいかを踏まえつつ、参加者一人ひとりが本研修での学びを語りました。(以下は発言の一部)

・これまでとは逆の、日本人に対する外国人からの評価に関心を持った。

懇親会

懇親会

・海外と異なる日本の現場の実情を知った。(海外の専門家より)

・日本語教育関係者ができるだけ同じ方向を向くにはどうしたらいいかを考えたい。

・学習者をよく見て、学習者が幸せになることを忘れずにいたい。

・学習者だけではなく、教師も幸せになるような日本語教育の姿が望ましい。

・教員の養成課程に課題はないか。教師の化石化を招きかねない指導がされていないか。

・「地」は「地域」でもある。地域に根差した「図」を考えたい。

・言い放しにならないよう、10年後を視野に入れて活動していきたい。(版元より)

 

各自が課題を持ち帰り、それぞれの現場で「図」を展開していく意味と方向性を意識化でき

た中で、今回の研修は終了しました。

 

参考:『日本語教育 学のデザイン』ウェブサイト 

  http://bonpublishing.wix.com/design

 

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