「実践持ち寄り会」(第14回)の報告記事

9月12日(土)、学習院大学にて「第14回実践持ち寄り会」が行われました。

今回は、武田誠さんと嶋田の2人で、「教師の学び合いコミュニティは、いかに作られるか~アクラス会員企画『実践持ち寄り会』を通して~」というタイトルで、アクラスで行われた研修についてお話をすることになりました。

「実践持ち寄り会」は、「『日本語を学ぶ人たちや日本語を教えようとする人たち』を対象とした教育実践の探究と改善、学習者・教師に関する理解をはかることを目的に、それぞれの実践を持ち寄って紹介し合い、意見交換をする」ことをめざして2010年9月に発足しました。それから5年、活発に実践共有の活動を続けてきました。(http://www.cocopb.com/jissen_mochiyori/home.html

アクラス研修も「実践の共有を重視し、ともに学び合うこと」を大切にしており、「実践持ち寄り会」で話題提供をし、参加者と一緒に「対話」ができることは、とても良い機会でした。詳しいご報告を武田さんが書いてくださいましたので、どうぞご覧ください。

◆第14回「実践持ち寄り会」報告 

→  アクラス報告記事<武田さん)実践持ち寄りレポート」

 

◆配布資料等

 ①  パワーポイント

→ 「実践の共有って、楽しい!」(嶋田)2015.9.12

 ② 資料 

「著者との対話」から「インターアクション教育実践を考える会」へ(武田)2015.9.12

 ③ パワーポイント 

 実践持ち寄り会_武田スライド_HP掲載用

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長文の報告記事ですのでPDFにしましたが、以下、レポートを貼り付けておきます。

第14回「実践持ち寄り会」報告

 

日時: 2015年9月12日(土)14:00-17:30

場所: 学習院大学

参加者:嶋田和子先生、武田誠

報告者: 武田誠(早稲田大学日本語教育研究センター)

 

【経緯】

2015年4月に行われた、「『日本語でインターアクション』実践持ち寄り会~〈著者との対話〉継続企画~」の報告記事をご覧になりご興味を持たれた、実践持ち寄り会会長の文野峯子先生(人間環境大学大学院教授)からのお誘いを受け、アクラスでどのような実践の共有がなされているのかについてお話しをするため、嶋田先生とインターアクション教育実践を考える会主宰の武田が9月12日(土)に学習院大学で行われた第14回実践持ち寄り会に参加してきました。以下はその報告です。

 

【当日の内容概略】

当日は主催者側の趣旨説明の後、『教師の学び合いコミュニティは、いかに作られるか〜アクラス会員企画「実践持ち寄り会」を通して〜』と題した60分で、嶋田先生と武田が約30分ずつお話しをさせていただきました。その後30分程度、嶋田・武田の報告を受けて、参加者が小グループで話し合いを行いました。そこでは、何名かの参加者が感想を述べる振り返りで締めくくられました。皆さん、非常に良い刺激を受けた様子で、自分ができることに取り組みたい、また、この会に参加したいなど、新たな実践や実践共有に対する意欲を燃やしている様子がうかがわれました。

20分の休憩を挟み、後半は「実践交流」が行われました。テーマ別に小グループに分かれ、参加者が持ち寄ったモノ(教材や学習者の作品等)をもとに実践が紹介され、意見交換が行われました。

参加者は日本語学校、地域、大学、高校で教えている方など様々でしたが、大学で教えている方が多いのには驚きました。

 

 

【取り組みと事例紹介:『教師の学び合いコミュニティは、いかに作られるか〜アクラス会員企画「実践持ち寄り会」を通して〜』】

1.教師の学び合いコニュニティは、いかに作られるか

  「実践の共有」って楽しい!〜「学びの共同体」をめざして〜

                             嶋田和子先生

 

1.1 アクラス日本語教育研究所の概要とアクラス研修会

前半の30分では嶋田先生から、アクラス日本語教育研究所の概要説明の後、アクラス研修会の種類と、それぞれの実践例の紹介がありました。

まず、「アクラス(ACRAS)」の名前の由来、設立の経緯、アクラス日本語教育研究所の説明がなされました。アクラス日本語教育研究所は、事業団体ではなく、さまざまな人の出会いと対話を重ねる場を提供すること、さらに、情報発信により人をつなぐことを目指すことの2点を目指す団体であるとの説明がありました。

次にアクラス研修がめざしていることとして以下4点が挙げられました。

1)講師も参加者もともに学べる研修であること

2)「対話」を大切に、気づきが生まれる研修であること

3)それぞれの実践に活かせる研修であること

4)日本語教育以外の人ともつながることができる研修であること

そして、4)の研修は現在までさほど多くは行ってきていないことが述べられました。

続いて、以下の、アクラス研修の3つのパターンの説明がありました。

 

a. 公開研修

b. 非公開研修

b-①有志による研修、報告記事はHPにアップ

b-②有志による研修、報告なし

 

この日の発表ではa公開研修の実例については後続の武田の発表で触れ、嶋田先生からは、非公開研修の2つの実践持ち寄りを紹介する旨の説明がありました。

 

1.2 非公開研修①:「漢字学習」に関する実践の共有

b-①の報告が公開されている、有志による研修の例としては、漢字をテーマにした回の紹介がなされました。チューリッヒで日本語学校を経営されているメルキ能子さん、可児市文化創造センター・多文化共生プロジェクトディレクター田室寿見子さんを話題提供者に迎えての研修です。(詳細はアクラスのウェブサイト:http://www.acras.jp/?p=3760に掲載)

今回は、メルキさんの実践を中心に紹介がされました。メルキさんのお話の内容は教室外で日本語に触れる機会が乏しいという海外の制約を克服し、日本語、そして、漢字を学ぶ意義を学習者にどう見出してもらうかという課題に取り組んだ実践を踏まえたものだったそうです。

漢字がパーツから成る点に注目し、1つ1つの漢字についてストーリーで説明する指導法の紹介がありました。この指導方法を用いると、初級の学習者でもわずか60分で100個という驚異的な数の漢字を覚えられるそうです。指導に際しては、自分を表現すること、書けなくてもとにかく漢字に触れること、日本語自体、また、ストーリーで漢字を覚える楽しさを大切になさっているとのことでした。

そして、「漢字ビスケット」のエピソードは印象的でした。クリスマスの日、ある学習者が習った漢字を1枚に1字ずつ書いた手作りのビスケットを持ってきてくれた話が出ました。クリスマスプレゼントの「漢字ビスケット」はみんなで食べてしまって存在しませんが、最近同じ学習者が新たに作成した「漢字ビスケット」が、アクラス研修にお土産としてメルキさんから提示されました。早速参加者みんなで3つの漢字ビスケットを使ったワークを考えるといった活動をしたそうです。

田室寿見子さんは、演劇を通した人材育成に関わっており、体を使って漢字を覚える実践を紹介してくださったそうです。

1.3 非公開研修②:初級の読み学習:実践の持ち寄り〜『たのしい読みもの55』をもとに〜

b-②の非公開研修の例としては、『できる日本語』の実践持ち寄り会が行われているとのことでした。この研修は、「対話」によって進められ、様々な日本語教師が集まって実践を共有するとのことでした。

具体例として初級の読み学習をテーマに、『できる日本語』準拠の読解教材『たのしい読みもの55』の実践持ち寄りの事例紹介がなされました。『たのしい読みもの55』は、1)接触場面での読みを大切にする、2)「読み」から生まれる多様な対話を大切にする、3)自律的な読み学習につなげるという3つの柱から成っているという説明の後、「日本語でクイズをしましょう!これは何でしょう?」というアイテムを使った事例の紹介(第2部1)がありました。このアイテムでは「白いです。耳が長いです。目が赤いです。」などの問題文が何を説明しているか、単語で答えるクイズ形式になっています。答えは1文字ずつ、マス目に書くよう指定されています。

事例として紹介されたのは、学習者に問題を作ってもらうという活動でした。

上記のアイテムの場合、ページの下方には、「問題を作ってクラスメイトに出してみましょう」という事後タスクの指示が明記されているのにもかかわらず、学習者にクイズに答えてもらうオーソドックスな読み活動しか行わないという研修参加者が多いそうです。

学習者にクイズを作ってもらうと、問題文だけではなく、答えを書くマス目まできちんと書いてくれることが多いそうです。このことを聞き、私はこのクイズ作成活動は、学習者のモーラ感覚を養うのにも有効だと思いました。

作った問題をクラスで共有している授業を録画したビデオの試聴もあり、学習者たちが主体的に活動に取り組む様子、生き生きとした表情がよくわかりました。ビデオ視聴の後、実践を共有するのには授業の録画などの映像があると効果的だという実践共有の際のヒントもいただけました。

次にまとめとして、「学びの共同体」づくりの際、大切なことと心がけるべきことについての言及がありました。大切なことは仲間と共に課題に取り組みその中で学び合う「協働性」と「同僚性」であるという点の指摘がありました。

最後に、「『実践持ち寄り』の進化と深化」として、『目指せ、日本語教師力アップ!』(ひつじ書房)p.256からの以下の引用で嶋田先生のお話は締めくくられました。

・現状に甘んじることなく、常に新しいものに挑戦していくこと

・常に学び続け、いかなることもクリティカルに問い続けること

・情報に溺れることなく、取捨選択する力をつけること

・「違い」を認め合い、意見の対立を恐れることなく議論すること

・  研ぎ澄まされた感性で、発見の喜びを持ち続けること

お話し中、参加者の中に入って行って意見を聞かれたり、短いワーク的なものを行われたり、嶋田先生は参加者を飽きさせない工夫もしっかりとなさっていました。最も印象的だったのは、実践の共有の大切さ、そして何より楽しさを全身で参加者に伝えていらっしゃる姿でした。

 

2.「著者との対話」から「インターアクション教育実践を考える会」へ

                武田 誠(早稲田大学日本語教育研究センター)

 

後半の30分では武田がインターアクション教育実践を考える会発足の経緯とこれまでのあゆみを紹介しながら、教師の学び合いのコミュニティを作るヒントになりそうな点を共有しました。

 

2.1 キーコンセプト:「実践コミュニティ」

武田の簡単な自己紹介の後、キーコンセプトとなる「実践コミュニティ(community of practice)」の定義をウェンガーほか(2002)『コミュニティ・オブ・プラクティス—ナレッジ社会の新たな知識形態の実践-』(翔泳社)から引用し、インターアクション教育実践を考える会が「実践コミュニティ」の特徴を持っていることを説明しました。

 

2.2 インターアクション教育実践を考える会のあゆみ

インターアクション教育実践を考える会の発足は、2014年4月の公開研修、『日本語でインターアクション』(凡人社)著者との対話の懇親会まで遡ります。会員の白石佳和さん(友国際文化学院)の「研修会は始まりだから。1年後にこの教材を使った実践報告会をしよう。」という一言がきっかで、その1年後の実践持ち寄り会も成功し、この1年半の間着実に歩みを進めてきました。(詳細はアクラスのウェブサイト:http://www.acras.jp/?p=4073 をご参照ください。)

今回の発表では、この1年半を次の3期に分けて、実践コミュニティを立ち上げるまでの「萌芽期」と、活動初期の「始動期」の運営のコツになりそうな点を説明しました。

 

「萌芽期」: 2014年4月「著者との対話」〜会の発足

「始動期」: 2015年4月の実践持ち寄り会まで、実践報告者のサポート活動期間

「発展期」: 2015年4月の実践持ち寄り会以降現在までとこれから

 

2.3 コミュニティ立ち上げまでのコツ

萌芽期のポイントとしては、以下の4点を挙げました。

◆明確な目標と日程

◆具体的な活動内容

◆既存の人脈の活用

◆「進化を前提とした設計」

 

「明確な目標と日程」とは、1年後のアクラス日本語教育研究所での実践持ち寄り会の日程、そして、当日のプログラムまでが嶋田先生、凡人社の大橋さん、白石さんのお三方による話し合いで非常に早い段階(2014年5月)に決まっていたことです。

「具体的な活動内容」は、『日本語でインターアクション』の実践報告者を日本語学校、専門学校、大学、プライベート*という4つの異なる教育現場から募るということも決まっていたこと、そして、実践報告者の実践をサポートするという当座の活動内容がはっきりしていたことを指摘しました。これらの点は会の立ち上げを早める要因になった可能性があると指摘をしました。

「既存の人脈の活用」とは、白石さんの同僚やお知り合いを中心にお声掛けをして、実践報告者やメンバーになっていただいたということです。

最後の「進化を前提とした設計」とは、実践持ち寄り会までの活動では終わらず、その後もインターアクション教育実践を考える会の活動を継続する心積もりで会を立ち上げたということです。

「既存の人脈の活用」と「進化を前提とした設計」は、ウェンガーほか(2002)も実践コミュニティを作る際のコツとして指摘しています。

 

*諸般の事情により最終的に日本語学校、専門学校、地域のボランティア教室の実践者が実践報告を

することになりました。

 

2.4 コミュニティ立ち上げ初期のコツ

「始動期」は、実践持ち寄り会の報告者がほぼ決まり、報告者の実践サポートが主な活動だった時期でした。「始動期」には、2014年11月、2015年1月、3月の3回定例会を開いて、インフォーマルな情報交換をしていました。初回定例会や2回目の段階では、まだ実践が終わっていない報告者の方もいらっしゃったため、既に『日本語でインターアクション』の使用経験があったメンバーがこれから実践を行うメンバーの質問に答えたり、相談に乗ったりしていました。また、実践が終わっていたメンバーは、簡単に実践を報告し、その内容についての話し合いを行いました。

ここで、「始動期」に会のメンバー自身がどんな学びがあったかについての振り返りコメントを紹介しました。コメントの内容は「つながり、仲間意識」「理解、考えの深まり」「気づき、変化」に分類して紹介しました。

この「始動期」をうまく乗り切ることができた要因としては以下の4点を挙げました。

 

◆メンバー間のコミュニケーションを容易にする工夫

◆メンバー全員の参加を促す

◆インフォーマルさ、適度な「ゆるさ」

◆異なる教育現場のメンバーを集める

 

「メンバー間のコミュニケーションを容易にする工夫」としては、(オンライン等ではなく)対面で定例会を行ったこと、定例会後に食事をするなどして親睦を図ったこと等を挙げました。こうしたことにより、仲間意識の醸成ができたと思います。

「メンバー全員の参加を促す」試みとして、最初は武田が主導する形で話し合いを進めて行きましたが、途中からあえて発言を控えたことを挙げました。そうすることで、できるだけ他のメンバーの発言の機会を確保するようにしたところ、次第にメンバー間で意見交換が行われるようになりました。

3点目のインフォーマルさ、適度な「ゆるさ」について、まず、「コミュニティ(community)」という言葉が「官僚主義」の対語として用いられ、指揮命令系統によらない、非定型的などという意味合いを持っているとウェンガーほか(2002)の監修者序文に説明されていることを紹介しました。この点に関連し、実践持ち寄り会の実施というミッションはあったものの、インターアクション教育実践を考える会は、業務として活動をしていたわけではないので結果に対する重責もなく、また、組織のしがらみを超越できたという利点を指摘しました。また、定例会も毎回決められたアジェンダがあったわけではなく、インフォーマルな情報共有をしていた点なども結果的に良かったのではないかと述べました。

最後の「異なる教育現場のメンバーを集める」という点についてです。2015年4月の実践持ち寄り会での実践報告者は日本語学校、専門学校、地域のボランティア教室という異なる現場で日本語教育に携わっています。加えて武田は大学を実践現場としています。全く異なる現場で実践を行うメンバーが集まり、意見交換ができたことは、武田にとっては異なる現場の事情を知ることができたのと同時に刺激になった点を述べました。「学校を超えた情報交換の重要性を痛感した」という実践報告者のコメントもあり、異なる現場の実践者が集まる意義は、会のメンバーも感じていたようでした。

 

2.5 SNSの活用とその意義

最後に実践コミュニティを作る際の便利な道具立てとしてSNSの利用をお勧めしました。SNSの利用は、特に新参者がそれまでの活動やコミュニティの歴史について知ることができるナレッジ・レポジトリー(知識の貯蔵庫)や、オンライン上でのディスカッションの場として機能します。また、ウェンガーほか(2002)が指摘する「さまざまなレベルの参加を推奨する」役割も果たす可能性を指摘しました。「さまざまなレベルの参加を推奨する」とは、コミュニティの活動に積極的に関わり推進するコーディネーターや中心メンバーのほか、普段、発言もほとんどしない傍観者的な立場のメンバーの参加も認めるということです。現実世界の様々なグループでは、そうした消極的な参加は奨励されません。しかし、実践コミュニティの場合、傍観者が後に別の実践コミュニティのコアメンバーになる可能性なども考慮し、参加を保証します。

実践持ち寄り会に向けての定例会では武田が記録をつけていました。そして、実践報告者と武田以外の『日本語でインターアクション』の著者の一部もメンバーに加えて、Google+に非公開グループを開設し、そこで、記録を閲覧可能にしていました。Google+のグループは実践報告者が扱う課の執筆者と直接やりとりができるよう便宜を図る目的もありました。

ファイルの管理方法の煩雑さと、普及率の観点から現在ではGoogle+の使用をやめ、Facebookに移行し、逐次新規メンバーの加入も受け付けています。Facebookに移行してからは、じわじわとメンバーが増え、9月12日の時点で30名が参加しています。

 

こうした形でお話をする機会はこれまであまりなく、やや戸惑いもありましたが、今回、非常にいい経験をさせていただきました。嶋田先生が強調していらっしゃった実践を共有することの楽しさをこれからも満喫しながら、インターアクション教育実践を考える会での学び合いを続けていきたいと思います。今回、お世話になった実践持ち寄り会の文野峯子先生、林さと子先生、齋藤ひろみ先生、金田智子先生、そして、嶋田和子先生に心よりお礼申し上げたいと思います。

 

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