4月「会員企画:アクラス研修<実践持ち寄り会>」の報告記事(2015.4.18実施)

4月18日の会員企画によるアクラス研修の報告をお届けします。今回は、1年前に実施した「著者との対話」で出会った方々が自主的に話し合いをし、実践を重ねながら企画していった研修です。

①会員企画であること、②1年間継続し、さまざまな形で発信し続けてきたこと、③これからもさらに「対話」を続けていくこと等、さまざまな特徴をもった研修です。当日参加できなかった方々も、たくさんの資料をご覧いただきながら、<多様な実践者による対話の大切さ><仲間づくりの大切さ><継続することの大切さ>について考えていただければ、幸いです。

 

資料:①著者であるファンさんが使用されたパワポ 

         →  アクラス持ち寄り会資料(Fanさん)

 

      ②実践持ち寄り会アジェンダ → 実践持ち寄り会アジェンダ

 

   ③藤沢明美さんの資料 →  実践報告資料(藤沢さん)

 

   ④鎌田亜紀子さんの資料 → 実践報告資料(鎌田さん)

 

   ⑤長崎清美さんの資料 → 実践報告資料(長崎さん)

 

   ⑥グループワーク → グループワーク

 

 ⑦コーディネーターである武田さんによる「1年間の歩み」→ 1年の歩み(武田さん)

 

 

今回報告記事を書いてくださったのは、下郡麻子さんです。

 

♪   ♪   ♪

 

「日本語でインターアクション」実践持ち寄り会~〈著者との対話〉継続企画~

報告者 下郡麻子(友国際文化学院・東京外語専門学校 非常勤講師)

 

 

コーディネーターの白石さん

コーディネーターの白石さん

今回の研修では、著者の武田誠先生、持ち寄り会発起人の白石佳和先生がコーディネーターとなり、「日本語でインターアクション」(以下本書)を使った実践報告会が開かれました。本書監修のサウクエン・ファン先生をはじめ、編者の徳永先生、吉田先生もご出席くださり、有益なご意見をうかがうことができました。

 

【本研修の趣旨】

簡単な自己紹介を終え、まず白石先生から本研修の趣旨をお話しいただきました。

昨年4月、「日本語でインターアクション」著者説明会後の懇親会をきっかけに、このたびの研修計画がスタート。その後実践フォーラムでの発表を経て『実践持ち寄り会』が発足し、昨年10月より毎月の勉強会を重ねられ、実に1年をかけてじっくり熟成させたものを3名の先生方がそれぞれの教育現場(ボランティアクラス・日本語学校・ビジネス日本語科)で実践されたとのことです。この経緯をうかがっただけでも、これから始まる報告会に胸躍る気分になりました。

 

話をす著者のファンさん

著者のファンさん

【本書のコンセプト】

次にファン先生より、本書のコンセプトについてご説明いただきました。

先生が掲げる3つのコンセプト

1.インターアクションは言語使用からではなく、場面の認識から始まる

2.インターアクションの目的を達成するためには、言語だけでなく社会言語、社会文化の能力も必要

3.接触場面では相手に対する違和感の度合いが増し、日本人同士の場合と異なりインターアクションが変容

してしまう

 

先生は大変わかりやすく例を挙げて説明してくださいました。

 

スーさんはなぜ二の足を踏むのでしょうか。それは「日本語が下手である」という理由からだけではなく、集団に「入る」ことへのイメージができないところに大きな問題点があると先生はおっしゃいます。

「打ち上げって何するの?」「どんな人たちが来るの?」「どう始まって、どう終わるの?」「参加する人は、それぞれどんな役割を持っているの?」などなど、その集団に足を踏み入れたいと思っても見えないことが多すぎて玄関先で立ちすくむような状態に陥ってしまうようです。

つまり、「場面参加」という角度から言葉を使うことを考えると、

言葉ができただけでは、場面に入り相手とインターアクションするのに足りないことがある

ということが言えます。

 

 

【実践報告+質疑応答】

「日本語でインターアクション」の構成は以下のようになっています。

 

今回は、PART3「本番(実践)➡ ふりかえり」に焦点を当てた実践報告をしていただきました。

 

1.藤沢明美先生 (松戸市日本語ボランティア会)

 

本書の登場人物は学生が中心ですが、ボランティア教室の学習者に合わせるため3課&6課をアレンジし、「カルチャーセンターに問い合

事例報告をする藤沢さん

事例報告をする藤沢さん

わせる」というテーマにしたとのことでした。

「イベントやサークルに参加したいとき、難しいと感じることは?」との質問に「日本人社会に受け入れてもらえるかが心配。怖い気もする」との答えがあったと聞き、これがインターアクションの壁か!とストンと腑に落ちた思いがしました。

また、問い合わせ先の役を教師がやってしまうと親切になりすぎるというというご意見も耳の痛いところです。たとえ企画されたものであっても、可能な限り自然な設定を用意することが必要だと感じました。

今回、ボランティア教室という環境で本書を扱うことに抵抗を感じる先生方が多かったそうです。

学習者の出席状況も流動的ですから、そのような声が上がるのも致し方ないかもしれません。ただ本日の報告をうかがっていく中で、ボランティア教室にくる学習者こそ日本社会との接点が濃く、インターアクションにおける不自由さも理解することの必要性も強く感じている方が多いのではないかと思いました。

 

質疑応答では、「ボランティアを相手に電話とありますが、実際に電話をかけたのでしょうか」という質問がありました。実際は対面で行ったとの回答に、「学習者と教師が背中合わせになって話すだけでも、電話の雰囲気に近づけられるし、声の遠さを訴える表現を使う機会もできますよ」とのアドバイスが贈られました。

 

 

2.鎌田亜紀子先生(友国際文化学院)

 

実践授業の対象者はまだ学習歴4か月であり、会話授業未経験であったことから1課の「自己紹介」を選ばれたそうです。「相づちをいれ

事例報告をする鎌田さん

事例報告をする鎌田さん

る・わからない時は聞く・みんなで会話をつなげる・フィラーを控える」などの目標を持たせる一方で、ビジターには沈黙になっても無理に気を遣わず黙っているように依頼するという綿密な準備がインターアクションを意識させるための重要なポイントだと思いました。振り返りの際、ビジターにも参加していただき、日本人側からの振り返りもできたのは大変有益だったようです。

鎌田先生もおっしゃっていましたが、インターアクションを意識した会話では気づいてもらいたいことがたくさんあります。そのためには、やり慣れて少し簡単だと思えるくらいのテーマがいいのだろうと思いました。

 

質疑応答では、「今回は教室活動だから上手くいったんだと言う学習者には、どのような対応が望ましいでしょうか」という質問があり「教室で着席したまま、という環境から少し変えるだけでも「本物」の環境に近づけることができそうですね」と、一歩進んだアイディアが出た形で終わりました。

 

 

3.長崎清美先生(東京外語専門学校 国際日本語コース ビジネス日本語科)

 

本書の場面設定は日ごろ教えているビジネス会話のそれとは離れているけれど、相手に合わせた会話が苦手な学生に向けて5課を選択しま

事例報告をする長崎さん

事例報告をする長崎さん

した、とおっしゃっていました。

先生が実践授業の目標とされたのは『相手の反応をよく見て会話をつなげる』というものです。

興味深かったのは、準備の段階で他の課を使って雑談のテクニックを学ばせた点です。目の前の学習者に最も合った形でテキストを使うという、当たり前ですが忘れがちなことに気づかせていただきました。また、実践授業最後に、ゲストに持ち帰ってもらえるような「お土産話」をするというのも、単に授業という企画で終わらせず「本物」に近づける工夫が見られる点だと思いました。

時間割の関係から、週に1度(90分)の授業という環境だったため3週に渡っての授業になったそうです。このような環境での振り返りはとても難しいとおっしゃっていました。

長崎先生曰く、「CD-ROMに収められているシートはとても使いやすく作られています」とのことでした。

是非、試してみたいと思います。

 

質疑応答では、「無理にひとつの課のみを切り取ろうとせず、他の課をエッセンスとして入れてつなげていくのはいい方法だと思う」、「初対面の人を何とかして誘わなければ!という場面もあると思うので、今回の設定は決して不自然ではなかったのでは」という感想がありました。

 

【グループワーク】

グループワーク①

グループワーク①

実践報告をふまえ、中でも長崎先生がなさった振り返りの実践例を用いてグループワークを行いました。

学習者が自らのインターアクションを振り返ることは、その後の接触場面での振る舞い方や何に気をつければいいのかを見つける手がかりになります。

ところが現状では、学習者の振り返りは様々です。「日本語が伝わってよかった」という程度の「浅い」気づきもあれば、「雑談で相手が興味を持っている話題を探し、それを突破口として相手を誘うことができた」という「深い」気づきもあります。

そこで以下のようなグループワークのテーマが出されました。

 

グループワーク②

グループワーク②

【グループ発表】

1)振り返りを実施するタイミング

・「早い気づき」と「遅い気づき」があるのではないか。セッションごとの振り返りは「早い気づき」を

促すのに効果的

・ICレコーダーやビデオを活用して当日の再現ができるのであれば、翌週の振り返りでもいいのではないか

ビジターのいないところで学習者の本音が聞けるのは、翌週振り返るメリットにもなる

・授業の頻度によるが、早いほうがいい。週に一度の授業であれば、授業の最後に行うのが望ましい

 

2)振り返りの方法

・いくつかのグループに分けて振り返りをした後、グループの一人が別のグループに加わって自分たちの

グループワーク③

グループワーク③

振り返りを報告する(人に話すことが、新たな気づきに繋がる)

・ICレコーダーやビデオを使った振り返り

・準備段階で難しいと感じていたことをリマインドし、セッション後それがどう変化したかを考えさせる

・話し合った後、ルーブリックを作って振り返る

・いい点から振り返り、反省点につなげていく

・言語能力そのものにはフォーカスしない

 

 

【最後に】ファン先生と武田先生より総括していただきました。

ファン先生

・日本(語)のルールは様々なとらえ方があることを認識し、「~べき」を押し付けない。

学習者にとって一番合う使い方が見つけられるように導くことが大事

・言葉は一人歩きするものではない。日本にいるからと言ってそれだけで日本語が上手になるというものではない。社会言語、社会文化もインターアクションの中に取り入れることが必要

・粘り強く、途中退場しないこと。

実生活での使用は途中退場できないのだから、問題があっても最後まで自信をもって続けさせることが

大事。

 

「学習者は、うまくいかなかった時こそ深い気づきをするのです」という先生のお言葉をうかがい、その

タイミングを逃すことなく、深い学びに導かなくてはと改めて感じました。

 

コーディネーターの武田さん

コーディネーターの武田さん

武田先生

・振り返りは、書いたものだけは深い気づきが出てこない可能性がある。

(日本語力の問題も含めた、文に表すことの難しさ)

・口頭での振り返りは、話しているうちに思い出すことや新たに気づくことがあるようだ

・振り返りは、学習者のみならず教師にも有効なもの。ここから得る情報は大。

・接触場面で学習者が実際に感じることを学習者の振り返りから得ることは、教師の「気づき」につながる。

 

最後の最後に白石先生から「お土産」のようなお知らせがありました。

インターアクションを取り入れた教育実践のための情報交換の場として、Facebook に「インターアクション教育実践を考える会」というグループを作られたそうです。「参加する」をポチッとするだけで仲間になることができるので、ぜひご検討くださいとのことでした。

 

Facebook  『インターアクション教育実践を考える会』

http://u111u.info/jSBb

 

大変気づきの多い2時間でした。武田先生、白石先生をはじめ、今回の3名の先生方が蒔いてくださった種が大きく育つよう、微力ながらインターアクション教育を心がけた授業を実践していこうと思いました。

懇親会で

懇親会で

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