アクラス10月研修の報告「〈著者との対話〉『実践研究は何をめざすか』(三代純平さん)

10月のアクラス研修の報告です。今回は、大隅紀子さんが報告してくださいます。

当日使用したパワポ 「実践研究は何をめざすか」

(配布資料はありません)

参考:お知らせ →アクラス2014年10月研修

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<著者との対話>『実践研究は何をめざすか』

報告:大隅紀子(東京大学大学院新領域創成科学研究科日本語教室 非常勤講師)

 

著者の三代純平さん

著者の三代純平さん

会は参加者の簡単な自己紹介から始まりました。日本語学校、大学、地域で教えている方、出版社の方など様々でした。「実践研究は何をめざすか」というテーマで集まった参加者からは「実践研究したいけれど、どうすればいいのかわからない」という声が多く聞かれました。

 

まず、著者である三代先生からご著書『実践研究は何をめざすか』の内容についてご紹介がありました。第1部は理論編、第2部は実践編という構成で、第2部の7章では、参加者の佐藤先生がご自身の日本語学校での実践をお書きになっています。後半では佐藤先生から7章についてお話しがありました。

 

1.実践研究とは何か

初め、実践研究は、その方法があると三代先生は考えていたそうです。そして、実践を「研究」するための方法として、まずAction Researchに注目しました。しかし、Action Researchは実践を研究するための方法ではなく、実践研究という新しいパラダイムでした。その方法論を調べ始めたのがこの本を書くきっかけになったそうです。ここでは、ドナルド・ショーンの『省察的実践とは何か』『専門家の知恵』また、「社会構造主義」に関する本も嶋田先生からご紹介いただきました。

 

2.実践研究の3つのキーワード

著者の佐藤正則さん

著者の佐藤正則さん

実践研究には、3つのキーワードがあります。それは、「批判的」「省察」「協働」です。

「批判的」とは、自分の実践がおかれている「枠組み」(社会的文脈)を理解し、よりよいものへ変えようとする態度です。

「省察」は、「批判的」に実践について考えることです。身近な例でいうと「最近、遅刻者が増えている、なぜか?」という問いが、社会的文脈を理解し検証する「批判的省察」なのです。この際、一度、「  」に入れてみる!ということが大切です。

3つ目の「協働」は、周りを巻き込み実践を改善していく行為のことです。実践を共有している同僚や学習者、さらに同じ問題意識を持つ人も協働に含まれます。実践は一人では改善できない!

 

3.実践研究の意義

各現場では、常に実践の改善は行われていると思いますが、なぜ実践研究が必要なのでしょうか。実践研究は、その実践を社会的により良いものにしていくための実践です。1つの現場にとどまらず、日本語教育の実践研究共同体を構築するという広がりを持ちます。

三代さんの話を聞く参加者

三代さんの話を聞く参加者

実践研究を書く/読むことの意義は、フィードバックがもらえるということです。これにより、さらなる実践の改善が可能になります。自分の実践を考える「リソース」にもなります。実践研究を書く/読むことで、その先の新しい実践研究へとつなげることができます。

参加者の多くは「どのレベルなら研究発表していいのか」という不安を持っていました。三代先生は「この論文も読んでいない研究はダメだ」というコメントは無視し、「この論文を読むといいですよ」というような建設的なフィードバックをもらい、さらなる改善につなげることが大切とおっしゃっていました。嶋田先生もご自身の体験を話され、恐れず第1歩を踏み出すことの大切さを教えていただきました。

研究を書く上で大切なことは、社会的文脈がきちんと描かれていること、「私」の立場・感情・その変化の過程が描かれていることです。その場合、「私」脱文脈化しないこと、つまりこれは特殊な例だから、うちは特別だから、などとしてしまわず、社会的文脈の中で捉えて描くということだと思います。

 

4.実践研究の具体例―7章

佐藤さんの話を聞く参加者

佐藤さんの話を聞く参加者

次に、佐藤先生が日本語学校で大学院進学クラスをされていたときの話を伺いました。さっくばらんなお人柄(嶋田先生のプッシュ?)で、ときどきぽろっと口から出てしまったような言葉もありましたが、実践研究を始められたころの話から、次々に実践を重ねられ、色々なところで発表され、改善や協働が広がっていった様子がよくわかりました。佐藤先生は、実践研究の開始と大学院での研究開始の時期が一緒だったこともよかったとおっしゃっていました。外にディスカッションの場があったことが、実践の改善にも役立ったそうです。一人の実践研究者の実践研究が新しい協働、そして新しい実践研究へとつながっていく具体的なお話しでした。

 

5.質疑応答

後半の約1時間は参加者からの質問に先生方が答えるという時間でした。初めは、嶋田先生から「今日は静かですね」と言われていた参加者たちも、後半では質問が途切れることはありませんでした。実践報告と実践研究の境は?具体的にどんなテーマなら実践研究になるのか、理論はどこまで必要か、などなど。三代先生と佐藤先生がなさっているライフストーリーに関する質問もありました。参加者からは、地域での実践研究は個人情報の問題をクリアするのが難しいというコメントもありました。

実践研究では、発信後、それがどこでどう使われる(読まれて利用される)か、つまりどう消費されるかに注意する必要があります。発表後の検証も必要だということです。

この本の編集に携わったココ出版の吉峰さん

この本の編集に携わったココ出版の吉峰さん

 

お話しの中で三代先生が、理論を大きなポケットに例えられ、実践研究は小さなポケットで、私は大きなポケットが1つより小さなポケットがたくさんあったほうがいいと思うとおっしゃったのがとても印象に残っています。私が院生のとき、指導教官から、いい教師は引き出しをたくさん持っていて、そこに何が入っているかわかっていて、必要な時に必要なものをいつでも取り出して使える人だとおっしゃったのを思い出しました。

 

6.言語文化教育研究学会の紹介

三代先生方が3か月前に学会を立ち上げられました。現在会員は98名(100名目の方には豪華プレゼント?!があるとかないとか…)来春には、東洋大学白山キャンパスで第1回年次大会が開かれます。Web上では、フォーラムという場が設けられ、会員が日々の現場での疑問や悩みを投稿し会員同士のやりとりができるそうです。同じ問題意識の人に出会い、新たな実践研究が生まれる場となりそうです。私も早速会員になろうと思います。

    言語文化教育研究学会 http://gbkk.jpn.org/

いつものお店で懇親会

いつものお店で懇親会

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