会員レポート「私から見たモンゴル」(白石佳和さんより)

アクラス会員の白石佳和さんから、以下のような「モンゴルレポート」を頂きました。白石さんは、ウランバートルに日本語学校を作るため、約2か月間滞在されました。そこで見たこと、聞いたことをもとに、皆さんへのメッセージを書いてくださいました。ぜひご覧ください。今後も、こうした会員の方からのレポートを皆さまと共有できることを願っています。

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「私から見たモンゴル:新モンゴル高校サマースクールとモンゴルの日本語教育事情」

白石佳和(友国際文化学院・友ランゲージアカデミー 副校長)

 

ウランバートル校のスタッフと

ウランバートル校のスタッフと

この夏、私は仕事で50日間ほど、モンゴルに滞在しました。私が勤務する友ランゲージアカデミーがこの度、モンゴルに海外校を設立することになり、その設立準備のため、8月6日から9月21日までモンゴルにいました。日本語学校の日本語教員は、なかなか海外で働く機会がなく、私にとっては本当に貴重な経験でした。そこで、嶋田先生のご許可を得て、私のモンゴル体験記を投稿します。

 

私が書きたいことは2つあります。1つは、新モンゴル高校でのサマースクールの紹介とそこで感じたこと、もう1つは、モンゴルで日本語教育機関を設立するにあたり、私が知り得た範囲の日本語教育事情です。

 

1つ目の新モンゴル高校のサマースクールですが、昨年と今年、教師募集の案内がアクラスHPに掲載されたので、アクラスの会員の方々には、覚えていらっしゃる方も多いと思います。新モンゴル高校については、アクラスのこれまでの嶋田先生の記事やJASSOのHP、あるいは日経や朝日に時々記事が出るので詳しい説明は省きますが、日本式の教育を取り入れた初中等12年教育の学校で、毎年日本留学者を30名ほど送っている超進学校です。そこでは毎年、1ヶ月ほどのサマースクールを開講し、今年は200名ほどの生徒が参加しました。毎日、9時から15時(下級生)17時(上級生)まで日本語ばかり勉強します。参加している教師は15名前後。モンゴル人10名ほどと日本人が5,6名です。規模の大きさにびっくりしました。

 

このサマースクールの特徴は、共生学習をテーマとしている点と、モンゴルのリーダーを目指すための教育(「新モンゴル高校」の名前の由来は、新しいモンゴルを担う次世代のリーダーを教育する、という意味だそうです)、の2点です。サマースクールで教える日本人のほとんどは、大学生と大学を卒業したばかりの人です。新モンゴル高校には日本人教師が二人常駐していますが、その二人はそれぞれ東京国際大学と桜美林大学の卒業生です。日本人教師も20代の若者として、モンゴルの高校生とともに学習する、という教育がなされています。上級生と呼ばれる、11月にEJUを控えた学生たちは、だいたいN2かやや下ぐらいのレベルでしょうか。彼らの日本語の勉強は、午前が日留試対策、午後は詩や歌の授業(モンゴル人は歌が大好きです!)の他に、「考える日本語」という授業を行なっています。この授業では、人権問題と環境問題、大きく二つのテーマで、いろいろな教材に触れて感想を言い合ったり、またモンゴルが抱える社会問題をみんなでピックアップし、それを5つぐらいのグループに分かれてその問題の解決方法を考え何かアクションを起こし(たとえば、孤児院訪問など)それについて発表する、アクションリサーチと呼ばれる活動を行なっています。日本で言えば中学や高校の総合学習のような感じだと思います。私は世代が違うし諸々の事情で日留試対策授業しか担当しませんでしたが、日本人にとっても気づきの多い学習だろうなあ、とうらやましく見ていました。サマースクールの最終日に、アクションリサーチの発表会と修了式があるのですが、その発表は本当に面白かったです。日本語のレベルとかの話ではなく、何を考え表現するか、がいかに大切か、実感しました。リサーチのテーマは、ストリートチルドレン、障碍者、都市計画、ゴミ問題、水環境などの社会問題。それぞれ今、真剣に取り組んだことが、国をよくしようという学生たちの将来の夢につながっていくのだろうと、容易に想像できました。

「新モンゴル高校」アクションリサーチ発表会

「新モンゴル高校」アクションリサーチ発表会

 

このサマースクールで日本人大学生や日本人講師たちを取りまとめてくださっている、村上徹也先生という方がいらっしゃいます。私はその方からいろいろなことを学びました。私が特に印象に残り考えさせられたのは、「人間教育」ということです。国内の日本語学校は、語学スクール、塾的な色合いが強い学校が多いと思いますが、新モンゴル高校では、日本語学習の中にもしつけを重んじ、行事などの参加から学ぶことがあり、また「考える日本語」のような教育が行なわれていました。「人を育てる」ということの大切さ、そういうことができるうらやましさ、を切に感じ、翻って、日本語学校でどのような教育を行なえばいいのだろう、とさまざま思いを巡らせました。日本語教育を単なる語学教育で終わらせてはいけない、というフレーズはよく耳にしますが、では何を教えるべきなのか、文化なのか、日本事情なのか、しつけなのか、もっと本質的なことなのか、…我々はもっと「人間」教育を行うという自覚が必要だと強く思いました。

 

次は、モンゴルの日本語教育事情についてです。モンゴルで行なわれている日本語教育は、初中等教育(小学校、中学校、高校が1つになった12年一貫校が一般的)、高等教育(大学)、民間などの日本語教育機関があります。初中等では、週5回(5時間)日本語を勉強する学校もいくつかあり、高校2年ぐらいでN2レベルに到達する学校もあるようです。でも一方で、「日本語の授業がつまらない」という声も聞きました。モンゴルでよく使用される教科書は、『みんなの日本語』『日本語初歩』『にほんご1・2・3』などのようでした。国際交流基金のあるモンゴル日本センターでは、『まるごと』を使っているそうですが、それ以外はほぼ従来の文法シラバスのテキストです。

 

モンゴルの教育機関では日本語の教員が1つの機関に1名の場合が多いです。複数いる場合でも、あまりチームティーチングという概念がなく、各自がばらばらに教えている印象があります(たとえばて形の教え方が、同じ学校でも先生によって異なる)。また、厳しい先生のほうが人気があり、教師と生徒の関係は非常に明確、厳格です。もちろん、いろいろ工夫なさっている先生もいますが、全体としては文法中心に各自のやり方で厳しく教える、という感じが否めません。これらは、モンゴルの国民性に拠る所も大きいのだと思います。

 

でも、その状況を打破しようという動きもあります。今、モンゴルでは、モンゴル国立大学のドルゴール先生を中心に、日本語教師会の先生たちが初中等教育用の初級日本語教科書を作成しています。名前は『にほんご できるもん』。最後の「もん」は、モンゴルの「モン」にかかっています。私は試作版しか見ていないのですが、シラバスや考え方が『できる日本語』と近いと感じました。(嶋田先生はここ2年、モンゴル日本語教師会から招待を受け、講演をなさっています。来年の3月も招待されているそうです)

 

教師主導の授業から学習者中心の楽しい授業へのパラダイムシフトは、進めるのが難しそうですが、そうやってモンゴルの日本語教育を変えようという雰囲気があるのは、本当にすばらしいと思います。私が今回担当した友ランゲージウランバートル校も、モンゴルのパラダイムシフトの一助となれるよう、共同責任者のトーラさん(新モンゴル高校校長ナランバヤル氏の奥様)以下、「楽しい授業を」をモットーに、行動目標中心のカリキュラムや漢字の成り立ち・漢字遊びなどを取り入れ、努力しています。

 

このモンゴルの状況は、実は国内の日本語学校の状況と似ているのではないかと思います。日本語能力試験が変わり日本語教育スタンダードが発表された後も、文法シラバスの教科書を採用する学校が大半を占めていますが、学習者中心の学びに変えていこうという動きも徐々に出て来ていると思います。ある意味、モンゴルの方が範囲が小さい分、組織的にまとまり、日本より先進的のようにさえ見えました。

 

教師であるわれわれ一人一人の小さい一歩から、教育は変わると思います。これからも、いろいろな教育に触れ、何を教えればいいのか、どうやって教えればいいのか、歩みを止めずたくさんの人と対話できればと思います。モンゴルでの私の話が参考になれば幸いです。

(対話したい方はこちらまで:spitzerland@gmail.com

 

 

 

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