Youtubeをめぐる学習者間の対話~伝え合う日本語を学ぶ意義~

今年のスピーチコンテスト(イーストウエスト日本語学校)に関する記事の第三弾は、「Youtubeをめぐる学習者の対話」です。初級のスタート時点から「対話力アップをめざした日本語教育」を実践することの大切さを改めて実感させられたエピソードです。

ベトナム出身のグエンさんは、あるクラスがショータイムに行った「盆踊り」に心を打たれました。そして、「たくさんの人に見てもらいたい」と思い、Youtubeに載せました(http://youtu.be/vf8QAEoAExo。しかし、そこに大きな問題が潜んでいたのです。

ショータイム 盆踊り

ショータイム 盆踊り

 

Youtubeを見たクラスのM先生は「このYoutube、すてきね。これ、踊っていたクラスの全員に聞いてからアップロードした?」と、彼に聞きました。すると、「あっ、していません」という答えが返ってきました。実は、「載せたい。みんなに見せたい」という気持ちばかりが焦ってしまい、聞くのを忘れてしまっていたのです。

 

教師: そうだったの。じゃあ、そのクラスの人たちに謝って、ちゃんと説明したほうがいいですよ。

学習者:はい。もし、いやだと言う人がいたら、すぐやめます。

 

しかし、グエンさんはそのクラスに行く前に、親しい友達のマデンバさん(このクラスのスピーチ代表者)に今回のことを詳しく説明し、自分の気持ちを伝えました。マデンバさんは「ああ、分かった。プライバシーのことですね。私がクラスのみんなに話すから、だいじょうぶ」と答えました。これを聞いたM先生は、まだ日本語の勉強を始めて5か月にしかならない彼らが、日本語で真剣に話し合い、問題解決の道を見つけていこうとしていることに感心したそうです(グエンさんはベトナム出身、マデンバさんはネパール出身です)。

 

さて、クラスのみんなの前に立ったマデンバさんは、次のように話したそうです。

 

「皆さん、ちょっと聞いてください。この間の盆踊りがYoutubeにあります。隣のクラスのグエンさんは、みんなに聞く前に載せました。一人でもいやだったらやめると言っています。私はだいじょうぶです。皆さんは、どうですか」

ショータイム 盆踊り(盆踊りを始める前に、ビデオで・・・)

ショータイム 盆踊り(盆踊りを始める前に、ビデオで・・・)

 

この言葉を聞いて、他の学習者も一人ひとり「私は大丈夫です」とはっきり答えていきました。最後に、ある学習者が「先生、みんな大丈夫そうですよ。全員OKです」と言ってまとめてくれました。

 

次の休み時間に、このクラスでの話し合いの結果を聞いたグエンさんは本当に嬉しそうにほっとした表情を見せていたそうです。そして、この話を伝えてくれたM先生は、次のように感想を述べてくれました。

 

「国やクラスが違っていても、ロビーでおしゃべりを楽しむ人たちをよく見かけます。日本語でお互いのことを伝えあって、仲良くなっているようです。

『できる日本語』を使っていると、授業の中で自分の考えを話すことが多くなるのですが、ただ自分の考えを言うだけではなく、話をよく聞いて質問したり、それに答えたりするという姿勢も身につくように思います。それが『ロビーでのおしゃべり』にもつながってくるのかもしれないと思っていました。

でも、今回、このようなシリアスな問題を、自分自身の力で対話を通して解決していくという学習者の姿は感動的で深く心に残りました。」

 

私が仲間とともに長い年月をかけて作り出した『できる日本語』シリーズは、「自分のこと/自分の考えを伝える力」「伝え合う・語り合う日本語力」を身につけることを目的にした教科書です。そして、日本語によるコミュニケーションの中でも「対話力」に重きをおき、人とつながる力を養うことをめざしています。

マデンバさんとクラスメイト<ショータイムに大好きな盆踊りを踊りました>

マデンバさんとクラスメイト<ショータイムに大好きな盆踊りを踊りました>

 

文型を導入し、使えるようになったから、次は活動・・・というのではなく、常に自ら考え、仲間と対話をし、その中で語彙や文法もしっかりと学べるような教育実践をどんどん広げていきたいものです。

 

追記:マデンバさんとグエンさんにはM先生から「ホームページ掲載許可」を取って頂きました。マデンバさんは、「M先生、記事が出たら、すぐにクラス全員に知らせます!楽しみです」と言っていたそうです。

 

参考記事:

「スピーチコンテストで知る留学生の思い」http://www.acras.jp/?p=3229

「もっと変わる勇気を!~留学生からのメッセージ」

http://www.acras.jp/?p=3285

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