香港OPI国際シンポジウム~基調講演「文化能力をどうやって測るか?」

基調講演者:牧野成一先生(休憩時間に)

基調講演者:牧野成一先生(休憩時間に)

第9回OPI国際シンポジウムhttp://opi2013.proficiency.jp/は、11月2日と3日の2日間、香港中文大学で行われました。定員100名でしたが、早々と満員御礼、OPIへの関心の高さを改めて感じました。今回のテーマは、「アジアにおける日本語プロフィシェンシー -社会言語学的能力を踏まえた多様な実践-」です(Japanese Language Proficiency in Asia: Learners’ Sociolinguistic Competence and Diversity in Practice)。

このOPI国際シンポジウムは、2002年にエディンバラで開かれてから、これまでに9回行われました。その都度、テーマを設定し、ソウル、プリンストン、函館、ベルリン、京都、ソウル、ポートランド、そして香港と、世界各地で実施されてきました。その間に、韓国語母語話者のみならず、中国語母語話者、タイ語母語話者などノンネイティブテスターが何人も誕生、今回の実行委員長も香港の何志明さんでした。

当日は、さまざまな興味深いパネルディスカッションや口頭発表、ポスター発表がありましたが、詳しい報告記事は、JALPのニューズレターをご覧頂くこととし、ここでは牧野成一氏の「文化能力をどうやって測るか?」という興味深い講演について報告します。

◆牧野成一氏「文化能力をどうやって測るか?」
牧野氏はOPIにおいて「ターゲット文化を話題にすることによって、文化能力も同時に測れるのに、文化をただ話題として取り上げている場合が多い」と、OPIの問題点を指摘されました。さらに、言語文化と非言語文化とを分けて考えることが重要であり、その非言語文化は次の3つに分類されると述べられました。

・言語と連動した非言語行動ができる能力
・言語とはほとんど連動しない行動のタスクを遂行する能力
・さまざまな分野の文化知識の活用能力

さらに文化能力基準試案(非言語能力基準試案)として、OPIの4つの評価基準に沿って、1)タスク、2)場面/話題、3)正確さ(プライトネスも含む文化の決まりの実践力、情報・知識の活用力)、4)文化行動の被理解度、という4つの評価基準が示されました。当日の配布資料から、4つの評価基準をここに記します。

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口頭発表②2013.11.3

口頭発表②2013.11.3

(1)タスク
超級:抽象度の高い文化知識を発話の中で活用できる。
上級:複雑な文化タスクの遂行ができる。
中級:言語と連動した基本的な行動タスクも、連動していないサバイバルの行動タスクもできる。
初級:お辞儀のような言語と連動した簡単な行動ができる。電車に乗るとか、道の正しい側を歩くとか、言語と連動しない簡単な行動ができる。

(2)場面/内容
超級:インフォーマルとフォーマルな状況で文化能力を駆使できる。
上級:インフォーマルな状況で文化能力がこなせる。フォーマルな状況でも多少は文化能力がある。
中級:インフォーマルな状況でのサバイバルの文化能力がある。
初級:インフォーマルな状況で言語と連動する文化能力が多少ある。

(3) 正確さ:ポライトネスも含む文化の決まりの実践力、情報・知識の活用力
超級:教養のある母文化者とポライトネスを含めてほぼぴったりの文化行動もできるし、正確な               文化情報・知識を知っていて、それを発話の中で活用できる。しかし、完璧ではない。

上級:ポスト・サバイバルの文化行動は正しくできるが、ポライトネスは維持できない。抽象的な話ができないのと連動して、抽象度の高い文化知識は活用できない。

中級:衣食住を中心としたサバイバルの文化行動なら正しくできる。
初級:断片的に文化行動ができるぐらいである。

(4)文化行動の被理解度
超級:母文化者のだれにでも分かってもらえる。
上級:殆どの母文化者に分かってもらえる。
中級:外国人の文化行動に馴れている母文化者には分かってもらえる。
初級:どの母文化者にも分かってもらえない。

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ポスターセッション2013.11.3

ポスターセッション2013.11.3

教育現場、とくに初級段階ではついつい文法や語彙の正確さなどに目がいき、文化能力を育てるという視点が欠けてしまうケースが多々あります。そうした中で、「4技能だけではなく、文化能力ということも考えることが大切」という牧野発言は示唆に富んだものでした。

しかし、教育実践ではなく、評価となると、話は違ってきます。果たしてそれを測定できるでしょうか。私は次のような疑問を抱きながら、話を聞いていました。

◆超級のことはできるけれど、上級、いや中級の文化能力としては欠落しているといったことも出てくるのではないか。

◆そもそも文化をステレオタイプに捉えてしまうことになるのではないか。「母文化」と言っても、時代、地域、さまざまなことによって多様な様相を示すことを考える必要がある。

◆ネイティブから見た視点・・・ということが強調されすぎているのではないか。

◆ 言語的能力は極めて高いが、非言語文化能力が極端に低いといったアンバランスなケースでは、出てきた「総合評価」はどれだけの意味を持つのか。OPIの評価は「全体的に測定する、総合的な評価法である」(マニュアルp.11)ことを考えると、同じ一つの試験として実施すること自体無理がある。

「文化の普遍性と個別性」は難しく、文化能力測定にはまだまだ議論すべき点が多々あります。しかし、これをきっかけにして、あちこちで対話が生まれ、教育実践、評価、教師教育について考え直していくことで、さらに教育現場も活性化していくのではないでしょうか。

参考:
牧野成一(2003)「文化能力基準作成は可能か」『日本語教育』日本語教育学会誌、vo.118,1-16
牧野成一(2006)「同文化論のすすめ」サンフランシスコ総領事館での講演、10月29日
牧野成一(2008)「アニメの文化的視点をどう教えるかー『千と千尋の神隠し』シャルル・ドゴール大学、リール(フランス)、4月25日~26日

香港中文大学の学生さん達と2013.11.2

「受付担当」の香港中文大学の学生さん達と2013.11.3

 

 

 

 

 

 

 

 

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