凡人社説明会『たのしい読みもの55』のご報告

5月11日(土)、凡人社にて『たのしい読みもの55 初級&初中級』の説明会を、著者の澤田尚美、田坂敦子、高見彩子の3名で行いました。あいにく雨の説明会となりましたが、大勢の方が参加してくださり、熱心に著者の話に聞き入ってくださいました。

説明をする澤田尚美さん

説明をする澤田尚美さん

今回もできるだけ「実際の授業展開をお伝えしよう」「授業をするときのヒントをお話ししよう」と考えました。特に今回は、55のアイテムを一つずつ見ていきながら、学習者の声、エピソードなどをお話しする形をとりました。「関心はあるけれど、説明会には参加できなかった」という方のため、いくつかのお話をご紹介したいと思います(分かりやすい例として、当日お話しできなかったことも、少し付け加えてあります)。

■「日本で暮らす」と「日本を知る」の2部構成

説明をする田坂敦子さん

説明をする田坂敦子さん

第1部「日本で暮らす」は、日常生活の中で学習者が目にする文字情報の中から、どうやって情報を得るかがタスクの中心となっています。たとえば、携帯メール、電車の中の注意書き、遊園地でもらうパンフレット、ホームページ、お知らせなどさまざまなものが載せられています。

第2部「日本を知る」では、学習者が読んで楽しむことができる、読んだことを周りの人と共有したり、自分の意見を言ったりすることにつながる読み物が載せられています。ここで心がけたことは、「日本人が読んでも楽しい読みものをたくさん載せよう」ということでした。

■「日本で暮らす」のアイテムと授業展開

授業実践例を話す高見彩子さん

授業実践例を話す高見彩子さん

たとえば、「24.電車やバスの中で見た注意書き」というアイテムがあります。「止まるまで席を立たないでください」というバスの注意書きが載っていますが、何気なくふだん見ている注意書き。こうしたものを授業の中で触れることで、周囲のポスター、張り紙などに目が行くようになります。さらに「学校の帰り道、町で見かけたものを撮ってきて、発表し合う」と新たなタスクも考えられます。

また、「7.ケ―キの食べ放題特集!」では、必ず本物の雑誌を持って授業に行くようにしています。しかし、雑誌では情報が多すぎて、どこをどう見て良いのかわかりません。そこで、まずは日本を習い始めたばかりの学習者用に書き換えられたアイテムで「必要な情報を取ること」を学びます。それが終わると、学習者は教師が持って来た本物の雑誌を見たくなり、「先生、その雑誌、見せてください」「すみません。これ行きたいです。コピーください」ということになります。実際に「土曜日に一緒に行こう」とスイーツパラダイスに出かけた学習者もいました。こうして、教室内で、読解教材としてただ読んで終わりではなく、実生活から生まれた読み教材を雑誌につなげ、そこからまた実生活にとつなげていくことが大切です。

■「日本を知る」のアイテムと授業展開

授業実践例を話す森節子さん

作成過程でのエピソードを話す森節子さん

26.日本最初のコピーライター」というアイテムがあります。皆さま、いったい誰だかご存じでしょうか。これを学んだ学習者は、日本人の友だちから「えっ?知らなかった。そうなんだ。チンさん、よく知っているね!」という答えが返ってきて、とても嬉しい思いをしたと話してくれました。さて、答えは誰でしょうか。それは『たのしい読みもの55』の99ページをご覧ください。

28.まんじゅう怖い」を、最後に入れたのは、落語をぜひ知ってほしいという思いからでした。実は、第2部「日本を知る」には、すべてのアイテムを読み上げたCDが付いています。「まんじゅう怖い」では、本文の文章を声優さんが読んでいるだけではなく、落語家による「まんじゅう怖い」も収録されています。それは、「今は分からないけれど、いつか分かるようになりたい!」という学習意欲につなげるためなのです。

また、授業をする前に「どうしてまんじゅうが怖いんでしょう?」などと聞いてみては如何でしょうか。ある授業で聞いてみると、こんな答えが返ってきたそうです。「まんじゅうはとてもおいしいですから、たくさん食べます。それで、太るからこわいです」

■学習者自身が「読みアイテム」を作り始める!
「日本を知る」の最初のアイテムは「1.これは何でしょう?」です。何本かの縦線で隠されたイラストがあり、右にはスリーヒントクイズがあります。たとえば「白いです。耳が長いです。目が赤いです。」まだ日本語学習を始めたばかりの学習者ですが、読むことがとても楽しくなり、自分自身で問題を作り始めます。たとえば「赤いです。からいです。おいしいです」というクイズが韓国人学生から提示されたことがありました。答えはキムチですが、その後ある学習者が「おいしいですか。私は好きじゃありません」と言い出し、教室内には楽しいやり取りが広がりました。

2.何の数でしょう?~日本の数~」では、数字からあみだくじをたどっていくと「高校生のお小遣い/富士山の高さ/東京の人口/日本の祝日の数」などの文章にぶつかるようになっています。これも読み終わると、「じゃあ、今度は自分で問題を作ろう」ということになり、読みが総合的な学習へとつながっていきます。

■「初級&初中級」にこだわらず、レベルを超えて使ってみよう!
「日本で暮らす」に「27.便利グッズでもっと楽しく、もっと便利に!」というアイテムがあります。では、質問です。手を汚さずにポテトチップスが食べられる「ポテトング」をご存じでしょうか。また、生卵をとてもなめらかに混ぜることができる生卵専用スティック「まぜ卵」をご存じでしょうか。こうした商品の説明を読むのは、とても楽しい時間です。読み終わったら、その文の内容を聞くだけではなく、「ヒット商品になる条件はなんでしょう?」「商品開発に大切なことはなんでしょうか」などと、ディスカッションをしたり、ある商品のネイミングを考えたり、さまざまな活動が考えられます。

一つ一つアイテムの特徴と展開の仕方などをお話ししたいところですが、このあたりで終えることにします。あとは、どうぞ実際に『たのしい読みもの55』を手に取ってご覧いただき、いろいろ授業展開を工夫してみてください。いつか、どこかで「授業実践交換会」などができるといいですね!

最後に、「日本語による「読むこと」を通して、人と人とがつながり、より豊かな生活が送れることを目指して作られた『たのしい読みもの』の3つの柱を記しておきたいと思います。

1.接触場面での読みを大切にする。

2.「読み」から生まれた多様な対話を大切にする。

3.自律的な読み学習に繋げる。

シラバス一覧

第1部「日本で暮らす」一覧第1部「日本で暮らす」
第2部「日本を知る」一覧第2部「日本を知る」

集まってくださった参加者の方々

集まってくださった参加者の方々

 

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