時間を見つけて、表参道のギャラリーで開催された「イラストレーター・じゅん氏の初個展『SWORD’S & FOOD’S』に行ってきました(開催期間:2021.9.24~10.13)。
https://pixiv-waengallery.com/exhibition/jun_swords-foods/
「じゅん氏」とは、イーストウエスト日本語学校(以下、EW)の2012年度の卒業生。彼は、「イラストを勉強したい。日本でイラストレーターとして活動したい」と専門学校に進学して行きました。あれから10年近くが過ぎ~~~。
会場には、ソさんの300点にも上るみごとな作品が飾られていました。そのイラストの持つ温かさ、豊かな表情、そして、精緻な描写・・・私達は、ソさんの作品を前に圧倒されてしまいました。「イラストレーターじゅんさん」については、こちらをご覧ください。とても詳しく語ってくれています。
「会社員兼業でも絵を発表し続ける「作業をシステム化するコツ」とは?
https://www.pixivision.net/ja/a/6880
私は、この記事では、10年近く前のソさんとのやり取りをご紹介したいと思います。ソさんは、私がEWを退職した翌月、2012年4月に入学し、その翌年卒業した学生さんなので、直接お会いしたことはありませんでした。しかし、EWの先生から来た「ある1本の電話」が、ソさんの出会いとの始まりとなりました。
■先生、見てほしいポスターがあるんです!
EWの先生から「見てほしいポスターがあるんです。いつ来られますか」という電話が入った翌日、私は学校に出かけていきました。
・先生、今日午前クラスのソさんが、ポスターを持ってきてくれたんです。
早く見ていただきたくて・・・。
・私達、ポスターを見て、鳥肌が立っちゃいました。
・先生がポスターを見たら、泣いちゃいますよ。感動して・・・。
こうして見せてもらったのが、2012年度EWスピーチコンテストのポスターでした。毎年、スピーチコンテストを実施していますが、ポスター作成も、司会もすべて留学生が仕切ります(ご近所のお店へのポスター貼りのお願いも、留学生達が行います)。その年も素敵なポスターぞろいだったのですが、その中の1枚、ソさんのポスターに先生方は釘付けになりました。
それは、今自分が使っている『できる日本語 初中級』をベースにしたポスターでした。ちょっとご覧ください。バックにあるのは、「初中級」の本冊の表紙であり、もう学習し終わった「初級」は、右側に赤色で示してあります。登場人物は、そうです!『できる日本語』の人たちなのです。
真ん中にいるのはパクさん。後ろの列は右から、ダニエルさん、ワンさん、
ナタポンさん、マルコさん。パクさんの左側は、メアリーさんにアンナさん。
なんと仲良し7人組が書かれていたのです。
■偶然にもソさんと話をすることができ……
EWの先生方と話していると、「あっ、先生、ソさんがロビーで勉強していますよ」と教えてくれました。私は、ソさんの居るところに走って行き、「ちょっと話を聞きたい」とインタビューのお願いをしました。常にハンドバックにICレコーダ―を入れていたのが幸いし、録音を取らせてもらいながらインタビュー開始となりました。ちょっとスクリプトをご紹介したいと思います。
嶋田: ソさん。このポスター素晴らしいですね。これは、『できる日本語』の登場
人物ですね。
ソさん:はい。あの、パクさんとダニエルさん・・・(省略)
嶋田: この、スピコンのポスターに、『できる日本語』の登場人物を書こうと思っ
たのは、どうしてですか。
ソさん:なんか、私が『できる日本語』を勉強するとき、本の、この人物、他の本と
ちょっと違う、あの、この人物に本当にいろんなことを、なら、ならんでい
る感じを、あの、もらいましたから。ま、そうに決めました。
嶋田: 『できる日本語』を勉強していて、登場人物がとても身近だった?
ソさん:はい、いろいろなこと、はい。
嶋田: この中で一番好きな人って誰ですか。
ソさん:やはり私が韓国人ですから、ま、パクさん、ですね。今は、声優が
ちょっと、違い、かわりましたけど。
嶋田: じゃあ、今初中級ですか。
ソさん:はい、初中級です。
嶋田: 何課やってるんですか。今日は何課?
ソさん:今、6課が全部終わりました。
嶋田: 初級と初中級で声優が変わったのもすぐ分かったんですね。
ソさん:すぐ分かりました。とてもショックでした。
嶋田: どうしてですか。前のパクさんの・・・。
ソさん:なんか前のパクさんは、本当に若いでしたけど、今は、本当に
他の人の声にかわりましたから。もともとこの声だったら、
ま、大丈夫だったけど。すぐ感じしました。
・・・後略
ソさんは、4月に入学するとともに、『できる日本語初級』の1課からスタートしました。それから4カ月強(インタビューは、7月20日)、インタビュー当時、「初中級」の6課を勉強していたソさんは、本当に『できる日本語』が大好きで、毎日わくわくしながら勉強していました。
■『できる日本語』のイラストレーターにお手紙を書こう!
いろいろ話を聞いていくと、ソさんの夢は「イラストレーターになること」でした。そこで、私は、ソさんにある提案をしました。
ソさん、『できる日本語』のイラストを描いてくださった方に、お手紙を出さない?
私は、まだお会いしたことがないけれど、きっと何かアドバイスをくださるかもしれ
ない。アルクの編集の方に、スピコンポスターとお手紙を渡すから・・・。
こうして、その2か月後の9月12日、EWでイラストレーター岡村伊都さん、そして編集の田中美帆さんにお会いすることができました。
■イラストレーターに、自分の作品を説明するソさん
ソさんは、岡村さんにお会いして、最初は緊張した面持ちで話をしていましたが、イラスト作品の話になると、どんどん盛り上がっていきました。ソさんが、こんなにもイラストに対して熱い思いを持っているとは知らなかった私達は、ただただびっくり!
「ちょっとソさんの作品を見たいんだけど、ありますか」という岡村さんのひと言で、ソさんは、タブレットを取り出し、たくさんの写真を見せ始めました。それを見た岡村さんは、こんなアドバイスをしてくださいました。
とにかくどんどん応募していくといいですね。
そのためには、日本にいるほうがいいと思いますよ。
ソさんが考えていた道はいくつかあったのですが、さまざまなことを考え、最終的に専門学校に進学することにしたのです。それからのことは、どうぞ先ほどご紹介したURLをご覧ください。
■卒業文集の表紙を飾ったソさん、8年後に初個展!
それから4カ月後のことでした。卒業文集の表紙を募集したところ、ソさんが写真のようなイラストを送ってくれたのだそうです。ソさんにインタビューをすると、こんな言葉が返ってきました。
あ、このイラストですか。私は、『できる日本語』の登場人物がほんとう
に好きなんです。私が日本語で話そうと思うと、登場人物が私の頭の中で、
踊るんです。なんか、登場人物と一緒に日本語を勉強している感じです。
イラストは、今度は、もっと立体的に描きたいと思って描きました。
これは、「卒業文集」の表紙のために出したものです。
こうしたソさんとのやり取りは、私の宝ものとなりました。『できる日本語』をこんなに楽しそうに学んでくれる姿、それを得意のイラストで表現しようという思い……苦労して生み出した『できる日本語』ですが、このシリーズがまさに私と留学生とをつないでくれていることを考えると、「ああ、作ってよかった。苦労した分、楽しみも大きい!」と、改めて思いました。
著者の一人である森節子さんと訪れたギャラリー。超多忙なソさんは、いないことは分かっていました。「先生、土曜日なら、会場にいます」と伝えてくれたものの、その日は、仕事があり……。でも、帰りがけに、ちょっとスタッフに話しかけたところ……。
嶋田:ありがとうございました。すてきな作品ですね。実は、私達は、ソさんが勉強していた日本語学校の教師なんです。今日は会えないって分かってたんですが、都合があって、今日来ました。ソさんにどうぞよろしくお伝えくださいね。
スタッフ:あ、先生(じゅん先生)から聞いていました。「今日は先生が見える」って。
一枚絵を買って帰りたかったのですが、4万円、5万円、10万円……という値段に、ちょっと手が出ず、キーホルダー「シスターズ」と、アクリルスタンド「SWORD’S & FOOD’S」を買って帰りました。
日本で夢を叶えた「じゅん先生」、どうぞ健康に気をつけて、ますますのご活躍を!