海外だより<コロナ禍に向き合う>第8回「韓国の現場から」(迫田亜希子さん:2020.6.21))

 

海外だより<新型コロナ禍に向き合う>第8

  「韓国の現場から」迫田亜希子さん(2020.6.21)

 

新型コロナウイルス感染症の拡大による影響は世界中に広がっています。   

それぞれの国・地域では取り組み方も違えば、人々の行動の仕方も違います。   

そこで、海外で暮らし活動をしていらっしゃる方々から、「現状、取り組み方、

特長など」について伝えていただきたいと考えました。

 

◆    ◇    ◆

 

今回、嶋田先生に機会をいただき、韓国からの海外だよりを書かせていただきました。主に、「韓国での人の動き・政府の対応」「韓国での日本語教育の動き・研究会およびセミナー」「韓国での日本語教育の動き・大学」についてお伝えしていきたいと思います。

 

冬休みの日本の帰省から韓国に戻った2020年2月末、韓国では2月19日(水)に発生した大邱市の教会での集団感染で感染者が爆発的に増加し、各地で新型コロナウィルスの感染も徐々に広まっていました。また、この時点で既に海外からの帰国者、または入国者は自宅隔離を2週間強いられるような処置がとられていました。

 

<韓国での人の動き・政府の対応>

◆韓国の「確診者番号および動線の公開」

韓国国内での新型コロナウィルス感染者は「感染確診者(感染を確実に診断されたという意味)」と呼ばれ、確診者には番号が付けられ(例:〇番目の確診者)、インターネット上や携帯電話の緊急アラームでその感染者の感染前の動線が全て公開されています。また、感染者が感染前に訪れた場所(例えば、職場やスーパー、レストラン、ショッピングモール、スポーツ施設など)は、建物全体の消毒作業が行われるため、数日間閉鎖されます。

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◆韓国の「社会的距離の確保」

日本でも緊急事態宣言が発令されたように、韓国でも3月22日(日)から5月5日(火)まで「社会的距離の確保(사회적 거리두기)」が強化され、韓国政府は国や自治体の各機関に在宅勤務を義務付け、民間の企業にも在宅勤務を要請しました。また、宗教施設の活動を禁止し、図書館や博物館などの公共施設は休館、学習塾などには休業が求められ、会食などの会合は自粛が要請されました。(News Week日本語版 2020/04/24「韓国の社会的距離の確保規制は意外と緩かった」を参考)

 

◆韓国の「マスク5部制」

マスクは一時不足したものの、3月9日(月)から「マスク5部制」が導入されました。出生年によって指定された曜日に国が販売するマスクを買える制度で、1週間に一人2枚のマスクを薬局で購入することがでるというシステムです。しかし、薬局ごとにマスクの販売時間が指定されているため、開始当初はマスクの販売時間になると薬局の前に長蛇の列ができ、購入できないまま店をあとにする人も多く見られました。

駅の構内に貼られたポスター「地下鉄の利用時、マスク着用は必須です」下の表にはマスクの販売所名と販売所の位置の情報が書かれています。

駅の構内に貼られたポスター「地下鉄の利用時、マスク着用は必須です」下の表にはマスクの販売所名と販売所の位置の情報が書かれています。

 
<韓国での日本語教育の動き・研究会およびセミナー>

◆韓国OPI研究会・定例会および勉強会

研究会やセミナーも集まることが難しいため、Zoomなどの動画で行われています。韓国OPI研究会では、2020年度 第一回目の定例会を4月25日(土)に、第二回目の定例会を6月20日(土)にZoomを通して開催しました。これまでの定例会では、OPIインタビューの被験者に定例会に参加してもらって対面でOPIデモンストレーションを行い、レベル判定を行っていました。

しかし、Zoomでの定例会開催によってこのような対面式のデモンストレーションの実施が難しくなった一方で、韓国の地方にお住いの先生方、さらに日本やドイツ、タイといった韓国以外の地域にお住まいの先生方にもご参加いただき、グループディスカッションを通して様々な角度からの意見交換をすることができました。

また韓国OPI研究会では、5月初旬から毎週金曜日の午前中に研究会会員およびスタッフの希望者がZoomで集まり、嶋田先生のご著書 鎌田修・嶋田和子・三浦謙一(編著)牧野成一・奥野由紀子・李在鎬(著)(2020)『OPIによる会話能力の評価-テスティング、教育、研究に生かす-』の勉強会を行っています。

◆国際交流基金ソウル日本文化センター「日本語教師サロン」

そして、6月13日(土)には、韓国の国際交流基金ソウル日本文化センターの日本語教師サロンにおいて「シャドーイングを使った外国語学習-韓国語学習者として学んだこと、日本語教師として伝えたいこと-」というタイトルでZoomを通じて発表させていただきました。教師サロンには国際交流基金の先生方をはじめ、韓国の中学、高校、大学や学院(日本語学校)、地域の日本語クラスで教えていらっしゃる多くの先生方がご参加くださり、韓国以外に日本、タイからもご参加いただいたとのことで、計32名の方にご参加いただきました。教師サロンでは、実際にシャドーイング体験をしてもらったり、日本語の授業へのシャドーイングの導入方法、教材、評価などについて考え、意見を交換しました。

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<韓国での日本語教育の動き・大学>

◆韓国の大学での日本語の授業

韓国では、本来3月から新学期がスタートしますが、今年は3月中旬ごろから開講した学校が多く、「オンライン授業」でスタートしました。オンライン授業の形態は、

①  パワーポイントに音声を録音した録音授業の視聴 + 課題提出

②   実際の授業時間にZoomなどのオンライン映像ツールに接続し、教師と学生で対面授業

といった2つのパターンで行われていることが多いようです。私が非常勤で勤務している大学では、今学期は主に①のパターンで行われた授業が実施されました。対面での授業が行えないことで、どのように双方向でのコミュニケーションを行ったらいいのか色々試行錯誤しましたが、例えばパワーポイントの録音授業で私がA役のセリフを話し、その録音授業を流しながら学生がB役のセリフを録音したものを課題にしたりしました。また、単に教科書の練習問題を行って答えを書かせるだけでなく、その練習問題にまつわる動画などを視聴してもらい、自身の意見を書いてもらえるような「問いかけ」の質問項目を設け、一人ひとりの意見にフィードバックして返送するという形で、学生とのやりとりを行ってきました。

韓国の大学での日本語の授業の期末試験

早いところでは6月の第3週目から期末試験がスタートしており、大学に来させて対面試験を実施するところ、映像ツールを使用した非対面で試験を実施するところに分かれているようですが、私が通う大学では大学にて対面での筆記試験が行われました。

大学の建物に入る前には問診票の記入と熱のチェックが行われ、教室の座席も印のあるところのみ使用可能で、その座席には「時間・試験科目・学籍番号・名前」を書くようになっており、前後の時間の試験受験者との接触を避けるため、50分間の試験実施が許可されました(実際の授業は75分)。

試験用紙配布の際はビニール手袋着用で配布し、教師が名前を呼んで出席チェックを行いますが、学生は口頭ではなく、手を挙げて返事をする方法がとられていました。試験が終了するたびに消毒係が入室して一つひとつの席に消毒をして回り、教室のホワイトボードには「会話を控えること、試験用紙は机の上に置いて退室すること、試験後はすみやかに帰宅すること」などの注意書きが書かれていました。

学生とはメールやLMS上では頻繁にやり取りはしていましたが、実際に会ったのはこの日が初めてでした。出席をとり、一人ひとり顔を確認できたことがとても嬉しく、つい話しかけてしまいそうになりましたが、ぐっとこらえて試験を開始しました。しかし、試験が終了して退室する学生一人ひとりが私の方を向いて会釈して挨拶してくれたり、目元で、笑顔で挨拶してくれたりするのを見て、何とも言えない喜びを感じました。

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<おわりに>

対面で授業をすることができないため、学生がどう反応しているのか、分からないところや難しく感じていることはないのか、先生に望んでいることはないのか…いつも悩みながら手探りの状況で今学期の授業を進めてきました。しかし、私以上に大変だったのは学生だったはずです。色々な種類の録画授業を指定された期間内に全て視聴し、次々と課題をこなして提出していかなくてはならず、教師以上に負担や苦労が多かったのではないかと思います。このような状況の中、あきらめずに最後までついてきてくれた学生たちに心から「ありがとう」を伝えたいです。そしてまた、必ず学校で再会して日本語で話ができる日が来ることを心から楽しみにしています。

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