海外だより<コロナ禍に向き合う>第4回「ベトナムの現場から」(松浦真理子さん:2020.5.29)

海外だより<新型コロナ禍に向き合う>第4回

  「ベトナムの現場から」松浦真理子さん(2020.5.29)

 

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新型コロナウイルス感染症の拡大による影響は世界中に広がっています。   

それぞれの国・地域では取り組み方も違えば、人々の行動の仕方も違います。   

そこで、海外で暮らし活動をしていらっしゃる方々から、「現状、取り組み方、

特長など」について伝えていただきたいと考えました。

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      海外だより「ベトナムの現場から」→コロナ禍と向き合う ベトナム

ハノイの日本語教師が集まる研修会、Zoomのブレイクアウト中にこんな意見が出ました。

「私たちはこの時期、ハノイにいてラッキーだったのではないか」

早い段階からの隔離政策で感染者数も少なく、4月1日から始まった社会的隔離も22日間で原則的解除。

いまだ死亡者0と安心して過ごすことができている上、‘とりあえずやってみる’というベトナム的思考に乗せられて、オンライン授業を始めることができたからです。

 

■ベトナムの新型コロナウィスル対策

ベトナムの新型コロナウィルス対策を4期に分けて説明します。

私はベトナムの教育会社(送り出し機関から委託された実習生や提携大学の大学生に日本教育を実施)に勤務していますが、この間、私の身近で起きた出来事も併せてご紹介します。

 

第1期 初の感染者確認から一次収束まで 1月下旬~2月末

・1月23日に中国人2名の感染を確認。

・1月末には中国人への観光ビザ発給や中国感染地域とベトナムを結ぶ空路運航の一時停止を決定。

・中国武漢市で研修を受けて帰国した日系企業のベトナム人5名の感染を確認。その家族にも感染者が出たため、彼らが住む村を封鎖。村民全員の隔離措置(3月4日解除)

・感染者は2月13日で16名になるが、26日には全員完治。

・多くの学校が旧正月休みから続く休校措置を実施。毎週末に延長決定を繰り返す。

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*参考ニュース*

村の封鎖

https://www.viet-jo.com/news/social/200213173643.html

教育計画変更

https://www.viet-jo.com/news/social/200225131127.html

マスクの不適切処分に対する罰金

https://www.viet-jo.com/news/social/200215131922.html

医療費無償

https://www.viet-jo.com/news/social/200206173135.html

農家支援活動

https://www.viet-jo.com/news/social/200210201724.html

①

自社は教育省の管轄外であったこともあり、休校にはせず授業を続けていました。「今、ここにいる実習生に感染者はいない。3、4月には日本へ行く予定の実習生も多い。彼らを各地方の実家に帰らせることで多くの人と接触し感染する恐れがある。ここで規則正しく生活していたほうが安全」という判断でした。授業中のマスク着用、手洗いの励行。マスクは入手しにくく、値段は2倍以上になっていましたが、実習生へのマスク配布もありました。

 

寮生活をしている実習生は2月中は土日の長時間の外出は禁止になり、実家への帰省も特別な理由以外は許可しないことにしました。

 

自社の社員は20代、30代が中心で、小さい子供がいる人が多数。休校は2月2日決定、3日から実施と急だったため、子供の面倒をみるために夫と交代で会社を休む、ハノイから離れた実家に子供を預けに行くなど、苦労があったようです。ただ、ベトナムでは急決定即実行はよくあることなので、政府のこの決定に不満を言う人はいませんでした。

②
大学や小中高校では独自にオンライン授業が実施されていたようです。小学生はパソコンや ケータイを持っていないので、親が帰宅した夜の時間に短時間の授業をすると聞きました。

 

このころ外国人居住者へのアンケート調査があり、「どこからベトナムへ来たのか」という選択肢は、〈中国湖北〉〈韓国〉〈日本(東京・横浜)〉〈イタリア〉〈イラン〉〈その他〉となっており、日本人への警戒感も強かったです。

 

 

第2期 海外からの感染拡大と阻止対策の徹底 3月中

政府はさらに感染者の隔離政策を推進。 3月2日で隔離対象者1万人超。

・3月6日に17人目の感染者確認。後にヨーロッパからの帰国者が隔離を避けるために虚偽申請をして入国したことがわかり、17人目の感染者として有名に。

・感染者が滞在した場所を示すアプリが登場。

・3月6日~23日までに102人が新規感染。ほとんどが海外からの入国者(ベトナム人を含む)

・18日からベトナムに入国する外国人のビザの発給をすべて停止。

・21日からはすべての入国者に14日間の集団隔離措置を行うこと決定。

・3月23日から4月末まで、ベトナム航空はすべての国際線の運休を決定。(その後日本路線は6月末まで延長)

・商業サービスの一時休止、20人以上の集会、職場や学校で10人以上の集合禁止など、次々と規制が出される。

・ハノイ市内の幼稚園、小中高校の休校措置2月3日以降継続

 

*参考ニュース*

虚偽申告への厳格な処分

https://www.viet-jo.com/news/social/200309192251.html

警戒マップ・隔離監視アプリの導入

     https://www.viet-jo.com/news/social/200319192219.html

隔離対象者への補助金支給

 https://www.viet-jo.com/news/social/200312133749.html

  国家規模の寄付運動

https://www.viet-jo.com/news/economy/200319141524.html

商業サービスの休止

https://www.viet-jo.com/news/social/200328192716.html

④③

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※  

勤務先からは健康アンケートが数回行われました。アンケートには体調を尋ねる質問の他、感染者が出た飲食店や市場などの写真や情報が載せられ「これらの場所に行ったことがあるか」、さらに感染者とその接触者の名前や住所が記入されたリストが添付され「これらの人々と接触したことがあるか」という質問もありました。また、以下のニュースにみられるように、「〇人目の感染者」として感染者の情報を日々流しており、個人情報の扱い方の違いに驚かされました。

 

感染者数の増加

https://www.viet-jo.com/news/social/200325135537.html

 

寮生活をする実習生に一人でも感染者が出たら日本語センター全体が封鎖されるので、市中の感染者が増えるに伴って、実習生の行動範囲も狭められ、注意喚起が徹底されていきました。自社の実習生寮にも予防用に隔離棟を設け、特別な用事で外出して戻った人、熱や咳の症状がある人を様子見のためにこの建物に移しました。ただ、この提案が出されたとき「部屋がたりないのでは」と尋ねると「ベトナムの隔離は個室ではなく1部屋に10人くらい入れますから大丈夫です」という返答。はたして厳重なのかいい加減なのか…。

この頃にはオンライン授業への移行も考え始めていたので、この隔離棟にいる実習生にはお試しオンライン授業を始めました。

 

政府は隔離施設の確保のために大学寮を利用していました。公安が22日に大学のキャンパス内にある自社の日本語センターを見学。下記のようなニュースもあったため、自分たちのいる場所が隔離施設になるのではないかと緊張が走りました。結果的には隔離施設にはなりませんでした。

学生寮を隔離施設に

https://www.viet-jo.com/news/social/200321003111.html

 

23日(月)以降は怒涛の日々でした。実習生をハノイ以外に移動させて教育を続ける計画が浮上、頓挫で大騒ぎした挙句、政府より実習生の教育停止の決定。25日(水)の早朝連絡があり、その日から対面授業は休止になりました。そして26日(木)に実習生は4月末日まで自宅待機が決定すると、送り出し機関がバスを手配してその日のうちに約700人いる実習生の250人ほどが帰省、29日(日)までには全員が帰省しました。帰省前に大慌てで実習生にZoomについて説明しましたが、このときには教室内に集まることが禁止されていたため、庭で距離をとりながらの説明でした。
ベトナム航空が日本路線を運休にしたことで、実習生の日本行きは先が見えなくなっていましたが、全員自宅待機によって4、5月の日本入国はなくなったと思いました。

 

自社が教育する実習生は約700人、教師約60人。実習生の利用端末はほぼ全員がケータイ。

どのようにオンライン授業を行っていくのかじっくり考える間もなく、オンライン授業の方針を伝え、教師をグループ化し、Zoom利用方法の勉強会を実施しました。感心したのは、誰も「できない」「無理」という言葉を言わなかったことです。とりあえずやってみようという気持ちで、グループごとに練習を行い、みるみる基本的なZoom操作を覚えていきました。
そして、31日に4月1日からの全国隔離措置が発表されると、自社でも1日から全社員の自宅勤務が決まり、わずか半日の準備で慌ただしく職場を後にしました。

第3期 社会的隔離期間 4月1日~22日

  ・4月1日~15日まで社会的隔離実施(移動禁止措置)公共の場で3人以上集まることを禁止。

公共交通機関も停止。

・在ベトナム日本大使館でのビザ申請の受付停止。実習生、留学生などの渡日が完全ストップ。

  ・ハノイ、ホーチミンなどで社会的隔離措置を1週間延長。22日まで。

・2900億円の給付金決定や電気料の値下げなどコロナ対応策を多数決定

               

*参考ニュース*

    4月1日からの全国隔離措置

https://www.viet-jo.com/news/social/200331174410.html

    不要不急の外出に罰金    

https://www.viet-jo.com/news/social/200406193132.html

感染虚偽申告で捜査

https://www.viet-jo.com/news/social/200403234514.html

医療従事者サポート

https://www.viet-jo.com/news/nikkei/200407131408.html

貧困層向け幸福スーパー

https://www.viet-jo.com/news/social/200416141846.html

PCR検査1日実施可能数1,3万件

https://www.viet-jo.com/news/social/200421135003.html

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※ 

4月1日、静かな朝を迎えました。いつもは人の話し声やバイクの音で活気づく朝が、ニワトリや小鳥の声だけが響いていました。スーパーでの買い物は自由。入るまえに検温されますが、品物は通常より豊富にありました。寺や公園など人が集まりやすい場所に続く道には警官が立って監視。ハノイ在住の日本人の多くはタクシーかGrabという配車アプリを使って移動しています。社会的隔離が始まってまもなく、ケータイのGrabアプリをみたら、車とバイクのアイコンが消え、一切配車されなくなっていました。足を奪われたようで衝撃でした。ハノイはバイク利用のデリバリーが日本より発達していて、隔離中はデリバリーサービスは相当利用されていたようです。

車とバイクの交通量が減ったことで、埃と排気ガスで汚れたハノイの空気が日に日にきれいになっていくのがわかりました。

 

自社は100%在宅勤務になりました。無給休暇をとった人もいます。

オンライン授業は、内容はまだまだ改善の余地がたくさんありますが、Zoomとfacebookグループを利用して仕組みとしては順調に進みました。私は授業をしていませんが、ときどきZoomをのぞくと、実習生の背後からニワトリや犬の鳴き声が聞こえくるのがご愛敬でした。日本人のオンライン授業ボランティアを募り、日本人と話す機会も設けました。学習者が受身にならないように、家族紹介のビデオ作成を課題にしてみたら、予想以上にいいものができ、ケータイ利用だからこそ、オンラインだからこその授業があることもわかりました。

Facebookをご覧ください!

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ただ、実習生の実家は農家であることが多く、勉強より家の仕事を手伝わなければならない、子供の世話、祖父母の世話などで時間がとりにくいなど、家にいるから勉強に集中できない人もいるのが実情です。

 

 

第4期 社会的隔離解除 4月23日~

・4月23日現在で累計268人の感染者(233人回復済み)、新規感染者0人、死者0人。

・24日より飲食店の営業再開。

・この時点でも約68,000人が隔離(集中隔離施設に18,000人 残りは自宅または宿泊先)

・休校が長引き、オンライン授業の需要の急増が続く。

・5月5日からハノイとホーチミンで路線バス運行再開、6日からは交通機関でのソーシャルディスタンスも解除される。

 

*参考ニュース*

学校再開 3か月ぶり

https://www.viet-jo.com/news/social/200504180744.html

フェイクニュース拡散で禁錮6か月

https://www.viet-jo.com/news/sanmen/200423152040.html

タピオカミルクティー グラブフードで注文数トップ

https://www.viet-jo.com/news/economy/200514194855.html

 

※   

23日以降、町は徐々に活気を取り戻し、5月中旬にはほぼ元のにぎやかなハノイになりました。

しかし、これまで外国人観光客で賑わっていた旧市街地は以前ほどの賑わいはありません。

外出時はマスク着用と言われていますが、5月中旬から35度以上の日が続き、暑さでマスクをする人は少なくなりました。

私は5月4日から通常出勤に戻りました。実家に帰っていた実習生は、日本語センターに戻して対面授業を受ける人、そのまま家でオンライン授業を続ける人に分けました。しかし、すでに6か月以上日本語学習をしている人たちは、いつ日本へ行けるかわからない状況にモチベーションが下がってきています。

 

■コロナ禍に思うこと

ベトナム政府のコロナ対応策は「アメとムチ」そして「スピード」。

強制的な隔離や罰金制度で厳しく規制する反面、補償や貧困層への援助もすぐに実行。日本人はこのスピード=急な決定や変更に翻弄されることが多く、ハノイで働く日本人たちはベトナム人の仕事の進め方について「予定が急に変更になり、計画性がない」「よく考えずにその場だけの解決をする」という共通した感想を持っています。生活の中でベトナムやベトナム人の良いことろはたくさんありますが、働くとなればまた別で、つい不満を口にすることもありました。しかし、このコロナ禍では、これらの特質が「急な決定にもあれこれ考えずに、解決のために一致団結」というプラス面に転じ、日本人間では、「ベトナムを見直した」「ベトナムすごい!」という意見が増え、「ベトナムは大丈夫?」と連絡をくれる友人に対して、「ベトナムはね…」とベトナムサイドに立ってやや得意な気持ちで安全を語ってしまうと笑い合いました。価値観は見方によっていくらでもマイナスからプラスに変わり得るのだと知りました。

また、自社でのオンライン授業の実施にあたっても、ベトナム人たちはあれこれ言わず、セキュリティや内容について心配するよりまず着手(これがいいか悪いかは別問題として)、必死に理解しようとする自分と、抵抗感なく新しいことを受け入れるベトナム人の違いは若さであると、ベトナムは若い国なのだと思い知らされました。

イギリスの市場調査会社の新型コロナウィルス関連の調査によると、ベトナム国民の政府にする信頼度は97%で世界一、またアメリカの専門誌の発表によるとベトナムは新型コロナ対策効果世界一の評価を受けたそうです。

 

政府への信頼度 世界一

https://www.viet-jo.com/news/social/200523085017.html

コロナ対策効果ランキング世界一

https://www.viet-jo.com/news/social/200526153501.html

 

ベトナムの新型コロナウィスル感染者数

5月28日現在、累計感染者数 327人、うち278人回復済み 死者0人

 

新型コロナウィルスの世界的収束を願っています。

 

 

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