アクラス2月研修報告レポート:<著者との対話『新訂版留学生のための論理的な文章の書き方』(二通信子):レポーター上杉裕子>

2月のアクラス研修に関する報告レポートです。今回は、二通信子さん(東京大学名誉教授)による「著者との対話」です。レポートを書いてくださったのは上杉祐子さんです。どうぞご覧ください。

当日配布した資料

レジュメ

資料①

追加資料(中国語話者の句読点の問題)二通

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講師の二通信子さん

2月アクラス研修 <著者との対話>

『新訂版 留学生のための論理的な文章の書き方』

講師:二通信子先生

日時:2020年2月23日(日)13:00〜15:00

レポート:上杉祐子(フリーランス日本語教師)

書誌情報:

『新訂版 留学生のための論理的な文章の書き方』

二通信子(監修・著)佐藤不二子(著)

2000年3月1日 初版第1刷発行

2003年1月10日 改訂版第1刷発行

2020年2月4日 新訂版第1刷発行

発行:株式会社スリーエーネットワーク

定価:本体1,400円+税

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二通信子(につう のぶこ)先生 プロフィール

東京教育大学教育学部教育学科卒業、カナダ・レスブリッジ大学大学院修了。

聴覚障碍児童の言語指導に始まり、主に大学で日本語教育に携わる。

北海学園大学教授を経て、元東京大学日本語教育センター教授。

 

◆ はじめに

留学生のためのアカデミック・ライティング入門書として定評のある『留学生のための論理的な文章の書き方』の新訂版が今年2月に発行された。監修・著者の二通信子先生に、日本語学校や大学の授業で新訂版を使用して、レポートや論文の書き方を指導する際のポイントを伺った。主な内容は①留学生への論理的文章の指導内容、②レポート作成に必要な知識やスキルである。

アカデミック・ライティングとは高等教育において、学術研究の場で用いられるレポート、論文などの文章作成を指す。しかし、論理的な文章の指導は日本語学校の中級から始まり、進学したり、就職したりする留学生が既習文法、表現を使って研究計画書や志望動機を書くときにも有効であると思われる。書くためには、まず論理的な思考を身につけなければならない。論理の組み立てにも注意しなければならないなど、日本語教師側も、体系的に学んでこなかった領域だろう。著者の長年の教育実践に基づいて大幅な改訂をしたということで、授業の参考となるヒントが詰め込まれている。

 

◆  留学生のための文章表現のクラスの課題

)日本語クラスの作文の目的

日本語の初級におけるクラス活動から、自分の経験や感想について「作文」としてまとまった文章を書くために、まず日本語の文法や表現を学ぶ。こうした授業を通して、学習者は日本語の文章の書き方に次第に慣れていく。教室の外でも、メールやSNS投稿、ブログなどを書くことにより、情報を発信することもあるだろう。日本語の表現は「話す」ことと「書く」ことの差異はあるものの、初級、中級、上級と学んでいく文法は日本語を使用する土台となる。

 

2)大学でのレポートで求められていること

一般教養科目のレポートやコメントペーパーに始まり、専門科目の発表原稿や論文に至るまで、高等教育に進学した留学生は、日本人学生と同様に文章として提出しなければならない。また、最近ではメールのやりとりなしに研究活動はありえないだろう。そこで、大学の留学生を対象としたクラスでは、作文とは異なる論理的な文章の書き方が求められる。論理的であるために欠かせないのは、以下のようなことだ。

・テーマに関する理解と自らの意識

・資料に基づく論理的な考察、文章の論理的な組み立て

・レポートや論文というジャンルにふさわしい形式にあわせた書き方

ここで二通先生からの問いかけがあった。

「普段目にする文章で、読みやすい文章、あるいは反対にわかりにくい文章ってどんな特徴がありますか。」
次のような答えが、あげられた。

・知らない語彙が突然出てくると、そこで止まってしまう。話をする二通さん

・句読点が多すぎる、あるいは少なすぎる。

・内容が盛り込みすぎで、焦点が絞れない。

・接続詞を使うと、文の繋がりが明らかにされるが、学生の作文には接続詞が少ない。

・新聞のように、全体が推察できるリード文があるとわかりやすい。
レポートや論文は、日記やエッセイとは違って、与えられた課題に関して考察した内容を論理的に書くわけだが、提出した文章は必ず評価されるので、明確でわかりやすいことも大切だ。そこで、論理的なトレーニングをしながら、留学生がレポートを書けるように指導していくことになる。

また、レポートを書く際に、引用したり、参考文献をあげたりする形式も、留学生に練習させるようにする。ある国では、指導教官の指導や文献をそのまま記すことがいい論文と考えられている場合がある。インターネットから翻訳、コピペをした文章は、学生の考えていたことといくら同じであったとしても、認められないことなども、引用する練習を丁寧にすることによって習得できる。

 

【論理的な文章作成のための参考文献】

木下是雄(1998)『レポートの組み立て方』筑摩書房

井上尚美(1998)『思考力育成への方略―メタ認知・自己学習・言語論理』明治図書

野矢茂樹(1997)『論理トレーニング』産業図書出版社

 

『新訂版 留学生のための論理的な文章の書き方』概要

1)教科書の目的

大学で必要な文章表現力を習得するため、以下の①〜⑤について学ぶ。

①   アカデミック・ライティングにふさわしい文体、表現を用い、正確で明快な文を書くこと

②   段落および文章全体の論理的な構成を意識して書くこと

③   ある事柄や主題に関して、思いつきをそのまま書くのではなく、分類・比較・因果関係の

検討、資料による 検証など、客観的な考察を行ったうえで書くこと

④   資料を適切かつ効果的に使って書くこと

⑤   事実、自分の意見、引用の三つを明確に区別して書くこと

 

特長として、真剣に話を聞く参加者

* 作文との違いに学生が気づき、論理的に書けるようになる。

* 資料の引用のルールに則り、参考文献、引用の出典を明記できる。

* テキストの文章例や課題において現在の日本で話題になっていることが積極的に取り上げられていて、学生自身の社会的な関心や問題意識を高めるように配慮されている。

            

2)教科書の構成

大きく第Ⅰ部<基礎編>文章表現の基礎知識と第Ⅱ部<実践編>論理的文章の作成に分かれている。

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第1部では、レポートに使われる文体「〜である体」、明快な文を書くための文の基本①自動詞・受身形、②「は」と「が」の使い分け、③語や文の名刺化、④首尾一貫した文、句読点や記号の使い方、基本的な引用について学ぶ。これまで勉強してきた文法知識を適切かつ効果的に使えるようにすることが目的だ。

第2部の第1章〜第8課は、目的に応じた論理的な文を作成するための構造やつながりを、文章例を読むことによって理解するだけでなく、新訂版で刷新した社会問題に向き合う。第9章〜第11章ではレポートにおける適切な資料の使い方、引用のしかた、最後にレポート作成の手順を学ぶが、レポート例も載せられている。

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実際の内容を詳しく見ていこう。第1課「段落」では、論理的な文は段落ごとのまとまりがあり、段落どうしのつながりもあること。文章例①では一段落内の構造、文章例②では文章の構造について学ぶ。それぞれの理解問題、練習があり、最後に「段落」に主眼がおかれた課題が出されている。

第2課「仕組みの説明」では、写真やイラストが文章の理解を助けていること、文章例からキーワードを選び、自分で文を再構成したり、表を使ってポイントを整理し、それをもとに説明文を書いたりする練習だ。イコーヒーブレイクンターネットから資料をコピー&ペーストすることなく、自分の知っていることばを使って、文章を作成することができる。スキルを習得しながら、自分の力で短いレポートを完成することができる。

第4課「分類」では、分類の基準や視点が大切であることを取り上げる。テキストでは「日本に来たときに困ったこと」が課題になっているが、学生に合わせてトピックを決めることができる。自分で分類の見出し(カテゴリー)を作り、グループ分けしてみる。

第9課からはレポート作成のためのスキルである。「資料の利用」では具体的な資料を示しながら説得力のある文章を書く方法だ。資料とは、レポートを書くために参考にした本、論文、調査報告、統計・アンケート結果、雑誌・新聞記事などを指す。大学に進学した留学生にとって、日本語のクラスで学んだレポートの書き方は、一般教養科目のレポートにすぐ応用しなければならない。しかし、その実践は専門科目のレポート作成、発表を積み重ね、卒業論文に結びつくと思われる。課題を通して、自分の視点を育てることもできる。

資料の探し方の中で、資料の使用で注意するべきことにも触れられている。

1)明確な目的を持って資料を探そう

2)出所が明確な信頼できる資料だけを使おう

3)調査結果や統計は批判的にチェックしてから使おう

別冊には教科書を使う日本語教師に役だつ教科書の概要、第Ⅱ部各課の説明が書かれている。初版から20年、全体を通して著者の実践成果が詰め込まれていて、学生の役に立つばかりでなく、日本語教師にとってもアカデミック・ライティング指導の参考になる知見に富んでいる。

最後に、大学で学ぶ中国人留学生の書くレポートの誤用について、ある傾向が見られるという紹介があった。その原因は母語の干渉と考えられるが、日本語が上級になっても直っていない場合もある。句読点については、追加資料のようなことが明らかになっているそうだ。

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※今回は、コロナウイルスの件があり、コーヒーブレークも個装のお菓子のみとしました。懇親会は、オフィスで講師を囲んで「おしゃべり中心」のものとしました。研修会そして終了後の懇親会は、とても楽しく、有意義なものになりました。大変な中、北海道から出てきてくださった講師の二通信子さん、ご参加の皆様に心より感謝いたします。一人ずつお皿で - コピー

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