■日本語学校の校内俳句コンテスト~選者は地域の方々~
東中野にあるイーストウエスト日本語学校(以下、EWとします)は、ずっと以前から地域社会との交流を大切にしてやってきました。毎年秋になると、「校内俳句コンテスト」が行われますが、選句は地元にお住まいの方、ご近所のお店の方、ボランティアで毎週来てくださっている方など、さまざまな方が選んでくださいます。中には「先生、まだ選句用紙が来ていませんけど、今年もありますよね。あれ、楽しみにしてるんですよ」と声をかけてくださるお店の方もいらっしゃいます。
そうした中、今年新たに交流が始まった「ゆめまち分科会」(なかの生涯学習サポーターの会主催の〝生涯学習「実践・学び合い」講座〟がスタートとなったグループ)のメンバー、大石さんが選句だけではなく、クラス句会にも参加してくださいました。クラスによって、さまざまな形で句会を実施していますが、俳句を長くやっていらっしゃる地域の方に参加していただけたのは、留学生にとって大きな刺激となりました。また、大石さんにとっても、日本語を学び始めて日が浅い留学生が俳句づくりを楽しむ姿に、新鮮な発見がありました。
校内俳句コンテストでは、「一句には絞れない」と、複数の俳句を選び、丁寧にコメントをつけてくださいました。1つだけご紹介したいと思います。
13 母いつも 柿の苦さを 飲みこんだ
お母さんが苦労して自分を育ててくれた。
そのお母さんはいつも苦労を飲み込んでくれていた。
“苦さ=苦労を飲み込む”の表現が卓抜、意味深い。
■新たに始まった「ゆめまち分科会」との交流~留学生の声を聴きたい!~
「ゆめまち分科会」とEWの出会い、そしてその後の交流についてお伝えしたいと思います。
中野区には、地域の生涯学習・文化芸術・区民が活動しやすい環境を整えることを目的とする「なかの生涯学習サポーターの会」があり、さまざまな活動をしています。その一つが〝生涯学習「実践・学び合い」講座〟の開催です。2019年度は、4つのテーマでグループ学習をし、最終日にはグループ発表をしました。4つのテーマは以下の通りです。
1.自治組織を学ぶ
2.安全で快適な美しい街創り
3.地域の施設を活かす
4.多世代共生を考える
ゆめまち分科会のメンバーは上記2.のテーマを、〝ユニバーサルデザインの切り口から外国人目線で街を歩き、「外国人でも分りやすい表記」の検証をしてみよう〟と考えました。そこで、思いついたのは、「外国人は、実際にどんなことに困っているのか」についてのアンケート調査です。調査の対象として留学生が大勢学んでいるEWを選び、「来日して日が浅い留学生は、困っていることがいろいろあるに違いない。その実態を知り、改善につなげたい」と、スタートを切りました。
しかし、実際に留学生からアンケートを取り、さらに座談会、クラスに入ってのビジターセッションでの対話を通して分かったことは、「自分達がかなり思い違いをしていた」ということでした。講座最終日の発表資料(模造紙大)、そして分科会の皆さんから伺ったお話をもとに、ご紹介したいと思います。「日本人にも外国人にも安全で快適なまち町づくり」は、対話を重ね、理解し合うことから始まります。そのために、マジョリティである日本人がどうあるべきかについて、「ゆめまち分科会」のメンバーには、大きな学び/気づきがありました。
■意外だった「留学生が感じる困ったこと」~図書館で自習が出来ない!?~
留学生が困ったこととして挙げたのは、次のようなことでした。
1)学校では日本人と触れ合えるけれど、それ以外は触れ合いが少ない。
(EWでは、ボランティアグループが「日本語サロン」を毎週実施、授業ではビジターセッションが行われているため、「学校では日本人と触れ合えるるが……」という発言になりました。)
2)区役所からくる書類は、漢字が難しい。フリガナがあって読めれば辞書、スマホで調べることができるが、振られていないことが多い。
3)来日6ヵ月は銀行口座ができないので困っている。
4)国では図書館で自分が持っていった参考書や本で勉強できるけれど、日本では「図書館の本を読む場所だから、勉強してはダメ」と言われるので、困っている。自分のシェアハウスは明りが暗いので勉強しにくい。
メンバーは、「交通機関の行き方、街角の表示が難しくて、さぞかし困っているだろう」と思っていましたが、「スマホがあれば問題ない」という留学生の答えにびっくり! また、「図書館に本を持ち込んで自習をすることができない」という実態をメンバーはじめ、日本語教師も多くは把握していないことも判明しました。その際に、こんなやり取りがありました。
メンバー:じゃあ、図書館で借りた本を立てて見えないようにして、
自分が持ってきた本で勉強してみてはどう?
留学生: そんなことできません。ルールをきちんと守りたいです。
守らないと私の国の人がみんな悪いと、日本人が思います。
私たちは、国の代表だと思って、頑張っています。
■分科会メンバーの学び/気づき~外国人は、ともに地域社会をつくる仲間!~
中野ゼロホールに掲示されていた発表資料を読み、また、その後の面談で話を聞きました。今回の「留学生へのアンケート」から始まった〝ゆめまち分科会〟の活動は広範で、具体的には、中野区と新宿区の区役所・駅・図書館・郵便局・病院と都庁など公共施設のにおける窓口の表示・提出書類表記などについての外国人への対応を、実際に歩いて調査をしています。その他にも両区の国際交流協会を訪ねたり、区役所講師の話を聞いたりと、実に意欲的に活動したことが分りました。以下に、メンバーが挙げられた「学び/気づき」を記します。
1)外国人をひとくくりにしていたことへの反省。
※留学生、定住者、ツーリスト……さまざまな人がいる。
2)外国人向けの掲示物・配付文書は正確性を保ちながら、しかし簡単に表現する必要がある。
※これは、日本人向けにも共通した課題。
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3)英語は必ずしも共通語ではないことを意識する必要がある。
※英語が分かる外国住民は、3割程度!
多国籍/多言語化の限界と、共通語として「やさしい日本語」の意義
4)情報通信技術の発達による変化に目を向ける必要がある。
※多言語対応券売機は、いずれ必要なくなるのでは?
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5)外国人を「助けが必要な人」として見るのではなく、仲間として見る。
※外国人はお客様ではなく、「地域住民の一員」としての身近な触れ合いを求めている!
5つ目の学び/気づきは、とても重要なことであり、そこから本当の意味での多文化共生社会が生まれるのではないでしょうか。面談での大津さんの言葉が心に残りました。
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外国人も仲間なのです。「助けたり、助けられたり、お互い対等な関係にある」という認識がとても大切です。例えば、何かイベントを開催するときも、外国人は“お客様”として呼ばれるのではなく、一緒に企画・運営に関わりたいという希望を持っています。「支援してあげる」ではなく、企画から一緒にやっていくようなシステムづくりが大切です。私達は、それを進めていけることを、これから考えて活動していきます。
発表資料は〝なかのゼロホール〟で掲示されていましたが、11月末で終了、
その後12月末まではJR中野駅の南北を結ぶガード下〝夢通り〟に掲示されているとのことです。
「ゆめまち分科会」の発表資料