2月アクラス研修(講師:山脇啓造さん)に関する報告レポート(報告者:伴野崇生さん)

2月のアクラス研修「多文化共生の新時代~『外国人材』と私たち」に関する報告レポートです。今回のレポーターである伴野崇生さんは、「参加できなかった方にも、できるだけ分かりやすいように」という思いから、詳しく記してくださっています。どうぞご覧ください。

当日配布の資料

レジュメ→  レジュメ

資料 →   資料①1303浜松ビジョン概要

資料②東京都多文化共生指針

資料③安芸高田市

資料④0612生活者(最終)概要

資料⑤1812総合的対応策(概要)

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2019年2月20日(水)アクラス研修会報告レポート

報告者:伴野崇生(慶應義塾大学 特任講師)

 

「多文化共生の新時代~『外国人材』と私たち」 山脇啓造(明治大学教授)

 

山脇さん2018年2月の経済財政諮問会議で安倍首相が「専門的・技術的な外国人受入れの制度の在り方」について言及して以降、この分野に関わる環境は目まぐるしく変化してきました。2018年12月には「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律」が成立、公布され、2019年4月からは新たな在留資格である「特定技能1号」「特定技能2号」が創設されます。このタイミングで、これまでの流れを学び(直し)、国の方針や制度などについて俯瞰できるようになっておくことは日本語教師として、外国につながる多くの人々と関わる者として、また一市民として必要だと考え、今回の研修会に参加しました。

先生はこの日、NHKでの番組収録後にかけつけてくださいました。

 

【自己紹介・一番聞きたいことの共有】

まずはいつものように、参加者の自己紹介から始まりました。地方出身者で地方との格差に興味がある人、実質「出稼ぎ」のような形で来日している留学生に接している人、ビザについて理解しておきたいと考えている人、4月からの新制度に興味がある人、以前ほど日本が魅力的でなくなってきたと聞くことが多いがその中でどううまくやっていけるかに興味がある人、外国につながる子どもたちの学習支援をしている人、今後の方向性について総合的に理解したい人、亡くなることまでも含めて地域に根付くとはどうことか考えたい人など、様々な人が参加していました。いわゆる「外国人材」について興味を持っている参加者が多かったこともあり、先生からは最初に、今回のタイトル「多文化共生の新時代~『外国人材』と私たち」の「外国人材」に鉤括弧がついているのは、政府が進めている施策としてという意味だという説明がありました。

 

【講義】

①  「人口減少対策ではない」「移民政策ではない」

2018年6月末の統計によれば、今日本には約264万人の外国人がいて、総人口のおよそ2%です。仮に一年に20万人増えているという計算で10年経つと200万人増え、単純計算では460万で、倍近くまで増えていくことになります。一方、日本の人口は一年で40万人近く減っています。高齢化率にせよ総人口にせよ、急激に変化しています。特に生産年齢人口はどんどん減っています。こういう長期的なトレンドの中で、外国人への関心が高まっているのですが、ただし、今の政府のスタンスは、あくまでも現在の人手不足への対応として「外国人材」を増やすというものです。

 

②   日本創成会議報告「2040年に全国の自治体が半減」のインパクト2014年5月に日本創成会議という民間シンクタンクの研究会が、このまま行くと今ある1800近い自治体のほぼ半数が2040年には消滅しているという衝撃的なレポートを発表しました。これを受けて、政府は戦後日本にとって初めて50年後に人口1億人を維持するという数値目標を掲げています。2014年にもう一つ重要な決定がされたのが、いわゆる「外国人材の活用」です。この2014年の時点で、外国人材を積極的に活用する、ただし、「移民政策と誤解されないように配慮する」という、今になっては有名になったこの決まり文句が使われています。

 

③   自治体の取り組み 「人権」から「国際化」そして「多文化共生」へ

熱心に話を聞く参加者

熱心に話を聞く参加者

自治体の取り組みが始まったのは1970年代でした。当時は日本に住んでいる外国人の大多数は在日韓国・朝鮮人でした。日本で生まれ育った2世が、集住地域(大阪や川崎など)で社会運動を起こしました。この時期、在日韓国・朝鮮人に対する差別の問題が深刻で、学校においても韓国・朝鮮人の子どもに対する差別やいじめの問題もありました。当時は外国人に関わる課題は「人権問題」として取り組まれました。

1980年代になると、中曽根政権の時代になります。中曽根政権は「国際国家・日本」を掲げ、「国際化」が当時のキーワードの一つになりました。当時の自治省(現 総務省)は「地域の国際化」を進めていて、その中で自治体に国際交流担当の部署ができたり、あるいは国際交流協会が各地に広がっていきました。

1990年に改正入管法が施行されて、日系人の受入れが進みました。日系人、特に日系ブラジル人は最初は「出稼ぎ労働者」と見なされていたのですが、次第に家族の呼び寄せあるいは日本人と結婚したりして定住化が進んでいきます。この時期、東海地方でブラジル人労働者が急増して、公営住宅で急速に集住が進みます。集住が進んだ地域では様々な摩擦や軋轢が起きました。ゴミ、騒音、におい、違法駐車など、トラブルが次々と起こります。1990年代後半には愛知県で日系ブラジル人の少年が日本の少年グループに殺害されるという悲惨な事件も起きました。また、愛知県の県営住宅で、日本人と外国人の対立が起き、機動隊が導入されるといった事件もありました。

こういった問題が起きる中、2000年代には正面から外国人住民の課題に立ち向かうようになって、自治体の政策が進展していきます。その場しのぎの対策ではなく、より総合的・体系的な外国人住民施策を進める自治体が増えていきました。

2001年には「外国人集住都市会議」がスタートしました。当時、13市町で浜松市が中心的な役割を担いました。「浜松宣言」では、日本人と外国人が共生する都市をめざすことを宣言するとともに、国に対して外国人住民の存在を前提とした制度設計を求める、教育であったり社会保障であったり外国人登録だったり、そういう提言を出します。この会議はその後ほぼ毎年関係省庁を招いて、外国人住民を巡る対話を行っています。

 

<2000年代の自治体の取り組み>

2001 外国人集住都市会議「浜松宣言」

2005 川崎市「多文化共生社会­推進指針」、新宿区「多文化共生プラザ」

2007 宮城県「多文化共生社会の形成の推進に関する条例」

2008 愛知県「日本語学習支援基金」

 

④   2010年代「多文化共生2.0」へ2000年代の多文化共生はどちらかというと外国人支援の取り組みが中心的だったのですが、2010年代に入って、外国人がまちづくりのパートナーとなる、外国人を地域の活力をもたらす存在とみなす観点が広がっていきました。これを私は「多文化共生2.0」と呼んでいます。

その一つの例は2012年の多文化共生都市サミットです。日本・韓国・ヨーロッパの多文化共生に取り組む自治体の首長が集まったサミットで、日本からは浜松市長、新宿区長、大田区長が参加をしました。浜松の鈴木市長は、インターカルチュラルシティの理念に共感され、2013年には浜松市で多文化共生都市ビジョンがつくられました。

2013年はもう一つ大事な動きが出てきました。広島県安芸高田市です。人口3万人弱の山間部にある小さな自治体で、ここは人口減少が進み、高齢化も進み、過疎化も進んで限界集落がどんどん増えている、典型的な地方の小規模自治体です。そこが、多文化共生の担当部署を設け、日本人も外国人もともにまちづくりに参加することで、なんとかまちを存続させようという方針を掲げている自治体で、2013年には多文化共生プランをつくっています。

2017年には浜松市がアジアで初めてインターカルチュラルシティのネットワークに加入します。また2018年には世田谷区が「多様性を認め合い男女共同参画と多文化共生を推進する条例」をつくりました。この条例でLGBTへの差別だったり、外国人への偏見や差別を解消することを謳っていまして、男女共同参画と結びつけたのも初めてですし、偏見・差別の解消をうたっているのも初めてです。しかも、世田谷区の場合には苦情処理機関も設置した、そういう画期的な条例が去年の3月にできています。2018年の春には安芸高田市も第2次の多文化共生プランをつくっています。外国人の移住・定住を目指したプランは全国の自治体で初めてのものでした。

 

<2010年代の自治体の取り組み>

2012 日韓欧多文化共生都市サミット「東京宣言」(多様性を生かした都市づくり)

2013 浜松市「多文化共生都市ビジョン」、広島県安芸高田市「多文化共生推進プラン」

2015 外国人集住都市会議の改組

2016 東京都「多文化共生推進指針」

2017 浜松市のインターカルチュラル・シティへの加入

2018 世田谷区「多様性を認め合い男女共同参画と多文化共生を推進する条例」

安芸高田市「第 2 次多文化共生推進プラン」

 

⑤   2018「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」

熱心に話を聞く参加者②

熱心に話を聞く参加者②

2018年「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」に至る大事なポイントはやはり2006年です。総務省が多文化共生プランをつくった2006年に「『生活者としての外国人』」に関する総合的対応策」をつっています。外国人が「社会の一員として日本人と同様の公共サービスを享受し生活できるよう環境整備が必要」であることを述べていますが、外国人も社会の一員だと国が認めたのはこのときが初めてだと思います。

2018年の「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」には、外国人支援の話が多く出てきます。一つは就労環境の整備、もう一つは生活環境の整備です。それに対して、共生社会づくりの観点は非常に弱い。受け入れる日本人の側の意識づくりの問題だったり、外国人に対する偏見や差別の解消であったり、日本人と外国人がどのように交流していくかといった観点が弱いと思います。あと、すでにやっていること、あるいはやろうとしていることと、これからやっていこうとしていることが混ざっていて、わかりにくいと思います。これからやることもいつやるのかが分からない、曖昧なパッケージになっていると思います。また、多言語化については8〜11言語で対応すると書いているんですが、この中に「やさしい日本語」が出てこないのは不思議です。

私は2002年から新聞に投稿したりして提案してきているのですが、多文化共生社会基本法が必要だと思います。例えば、男女共同参画であったり障害者政策であったり高齢社会対策であったり、そういった行政分野には最低一つ法律があります。自治体はその法律に則って行政を行ないますが、多文化共生に関しては法的根拠がありません。従って、自治体によって非常にばらつきがでます。ばらつきがあるというのは、例えば、教育に関して言えば、ある自治体では学校でいろいろなサポートを受けられるけど、別の自治体に住んでいると何もないといった格差が生じています。

 

⑥   まとめ

国に関して言えば、多文化共生を進める法律と担当組織が必要です。今回、法務省が出入国在留管理庁という新しい組織をつくることになって、4月からしますが、この組織が出入国管理と在留管理を行い、さらに、外国人支援・共生社会づくりを担うことになっているのですが、まだどういう組織体制でやっていくのか、わかりません。管理ばかり推し進めて、共生は取り組まないということが危惧されています。

自治体は多文化共生2.0のステージに入っています。浜松市、東京都、あるいは横浜市、名古屋市といったところは、多文化共生の指針を作っていて、グローバル都市を目指して、外国人の生活環境を整備し、外国人が活躍する環境を整備しようとしています。一方、広島県安芸高田市、岡山県美作市、北海道上川郡東川町といったところは、地方創生の観点から多文化共生に取り組んでいると言えます。これからそういった地方の小規模自治体が増えるでしょう。

多文化共生は、基礎自治体の庁内連携、国・都道府県・市町村間の連携、行政と民間の連携といったいろいろな関係団体が連携して取り組んでいく必要があります。その上で、自治体には多文化共生の地域づくりの成功事例をつくり、発信してもらいたいと思います。

私は以前から学校を拠点とした多文化共生の地域づくりに関心を持っていて、2005年に横浜市立いちょう小学校の取り組みについて本をつくったことがあります。あれから14年経って、当時の校長先生と一緒に、今度は一つの学校ではなく横浜全体に広げて、学校や教育委員会、国際交流協会、さらに市民団体などに協力してもらって、学校と地域が連携した実践を1冊の本『新 多文化共生の学校づくりー横浜市の挑戦』にまとめました。よかったらぜひ読んでいただきたいと思います。 

【質疑応答】

ーーー 多文化共生というと主語は「人々」、社会統合というと「国」が主体のように感じる。多文化共生ということばを使うことで曖昧になってしまうことがあるのではないか。

休憩時間に記念撮影をしました。

休憩時間に記念撮影をしました。

 

国際的には「統合政策(integration policy)」が一般的かと思います。ただ、日本では、多文化共生が政策用語としてある程度定着していると思います。「多文化共生政策」と言えば、行政が取り組むという意味になると思います。

 

 

ーーー ことばの問題だけではないかもしれないが、「共生」という曖昧なことばを使うことで、自治体丸投げ、予算が大してついていないということになっているのではないか。

 

私は国に法律がないことが大きいと思っています。法律がないから国として自治体を応援しますよというスタンスになる。それを変えるには法律が必要で、日本語教育推進基本法も国の責務ということをはっきり位置付けています。多文化共生についても、法律をつくることで国がやることをはっきりさせるべきだと思います。

 

ーーー 法律をつくるために成功事例の発信というのは効果があるのか。

 

成功事例によって市民の意識を変えることができると思います。市民の意識を変えるということと法律をつくるということはもちろん関係がありますが、「鶏が先か卵が先か」と似たような話になってしまう。両方同時に進めていく必要があると思います。

 

ーーー 多文化共生で言われる「外国人」は一律に言われるが、どういう人たちを想定しているのか。「国籍や民族」の違いだけなのか。経済的・社会的なことは考慮されなくていいのか。

 

多文化共生に文化という言葉が含まれているので、「言語と文化」の話と思われる場合もあるけれども、経済・社会的格差の問題も重要です。自治体の多文化共生プランの委員会では、市民団体の委員は工場労働者や非熟練労働者、大企業の委員は高度人材を想定して、すれ違うこともあります。

 

ーーー 安芸高田市の第2次多文化共生推進プランの基本目標「移住・定住したくなる魅⼒的な地域づくり」が気になります。どのように市民に働きかけてきたのでしょうか。外国人だからという先入観を払拭しないといけないと思いますが、どのようにしてきたのでしょうか。

 

もちろん抵抗感を感じる人は安芸高田市にもいたし、今もいるでしょう。二次プラン策定にあたって、一般市民に調査をしたところ、受入れにネガティブな意見はあまりありませんでした。

懇親会(「オルガニコ」にて)

懇親会(「オルガニコ」にて)

ーーー 外国人と言うことで外国人じゃないJSLの子どものことが抜けてしまうのではないか。

 

横浜市はかなり前から、外国籍だけでなく、外国につながる日本籍児童・生徒の統計を取っています。実は横浜市は外国籍児童・生徒よりも外国につながる日本籍児童・生徒の方が数が多いです。日本語指導が必要な児童・生徒が日本人も含めて5人いると、国際教室を開設します。

 

【何を学んだか】

最後に、参加者が今日何を学んだのかについて、一言ずつ話していきました。「よりよく理解できた・全体像をつかむことができた」「自分たちに何ができるか考えていきたい」「法的根拠の必要性を感じた」といったコメントが多く出されました。

 

・いつも日本語教育の中からしか見ていなかったことを広い視野から理解することができた

・日本語教育に関わっている人たちでも知らないこと、誤解していることが多くあるということに気づいた

・断片的にはいろいろなところで聞くが、まとまった形で聞くことができて勉強になった

・日常的に実感していることもあったが、データとともに俯瞰して見られてよかった

・本当にやらなければならないことがたくさんあって、今後も自分に何ができるか考えていきたい

・お話を聞きながらいろいろな人の顔が浮かんで来た。何ができるか考えたい

・安芸高田市の事例が最も勉強になった。自分たちの地域で何ができるかを考えたい

・日本語学校で働いている私はインターフェイスにいるので、日本語教育に多文化共生の観点をどう活かしていけるか考えたい

・法律があって総合的対応策が出たのだと思っていた。

・法的根拠の必要性を実感した。

・体制づくりには議員に働きかけることが必要だが、この分野から議員を出すことも必要。

3月下旬に出たばかりの新刊書です。

3月に出たばかりの新刊書です。

・法的な根拠と意識の問題についても日本語教師の仕事だと思った。

 

 

【報告者 感想】

山脇先生のお名前はいろいろなところで見聞きしておりましたが、今回初めてまとまった形でお話を聞くことができました。他の参加者の方も言っていましたが、国・地方自治体の様々な施策について歴史的な流れの中で、改めて見ていくことができたような気がしております。今後の展開についても政府から出るものだけでなく、各政党の政策の違い、それぞれの地方自治体の取り組みなどにも注目しつつ、また同時に様々なアクターの連携についても考え続けていきたいと思います。

学校を拠点とした多文化共生の地域づくりという観点は、自分自身も教員であることもあり、強い興味を覚えました。まずは『新 多文化共生の学校づくり ー 横浜市の挑戦』を読むところから始めてみたいと思います。

山脇先生、このような研修の場をつくってくださった嶋田先生に改めてお礼申し上げたいと思います。ありがとうございました。

 

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