モンゴルの大学生(イシさん)のスピーチ「火を点ける先生」に感動!

11月10日(土)、モンゴル日本語教師会、日本・モンゴル人材開発センター、国際交流基金による共催事業として、「24回学校対抗日本語スピーチコンテスト」が開かれました。今年はモンゴル日本語教師会設立20周年に当たり、その記念事業としての実施となりました。スピーチコンテストは、「高校の部」と「大学の部」に分かれ

イシさんがご自分の写真を送ってくださいました。

イシさんがご自分の写真を送ってくださいました。

て行われるもので、今年は、高校生10名と大学生8名が、学校を代表してスピーチを行いました。スピーチコンテストのタイトルは、「私が伝えたい日本」です。出場者は、スピーチをするだけではなく、スピーチをした後、審査員からの質問答えなければなりません。

 

私は、先月モンゴルに行ったばかりなので、スピコンのニュースをとても懐かしい思いで、見ていました。と、スピコン実施の1週間後、モンゴルで日本語教師をしていらっしゃる菱川さんからメールが届きました。

 

11月10日に行われた日本語スピーチコンテストで、教育大のイシという学生

が「私が伝えたい日本」というテーマで、スピーチを発表しました。

日本語シンポジュウムに参加し、先生のおっしゃった「心に火を点ける先生」という言葉が印象に残り、そのことについてスピーチし、2位というよい成績を 修めることができました。

先生の言葉がモンゴルの一学生の心に火を灯した事が嬉しくて、お知らせしたいと思い、メールを差し上げた次第です。

なんと嬉しい知らせでしょう! 実は、10月6日にモンゴルで行われた「日本語教育シンポジウム:初中等日本語教育のスタンダードおよび高等教育との連携」には、モンゴル教育大学の学生さんが何人も参加してくださり、終わってからいろいろお話しする機会がありました。「将来は日本語の先生になりたい」という夢を持って、熱心に学んでいる学生さん達の姿は、とても印象的でした。

 

私は、基調講演の中で、すぐれた教師とは、「学習者を“洞察”することができる」「学習者に気づかせることができる」「学習者の力を引き出すことができ

る」教師であると伝えました。さらに、OPIのマニュアル(p.121)にある文章を引用しました。

 

  教師が取るべき役割は、自分自身を「舞台に上がった賢人」に見立てるような

  伝統的なものではなく、むしろ、「側に付き添う案内人」というようなものに

  なるはずである。すなわち、教師側からの話を最小限に抑え、学習者が発話に

  参加する機会を最大限に増やすという役割である。

 

そして、最後に、「最高の教師とは?」と聴衆に問いかけ、「学習者の心に火をつけることができる教師」であると伝えたのです。その言葉をしっかりと受け

イシさんと菱川さん

イシさんと菱川さん

止め、覚えてくれていたこと、さらには、その言葉を軸にすばらしいスピーチをしてくれたことを知り、胸がいっぱいになりました。

イシさんのスピーチを紹介したいと思い、菱川さんにお願いしたところ、次のようなメッセージとともに、写真が届きました。

今 彼女の同級生二人が イシのように上手になりたい、来年スピーチコンテストに出たいと スピーチの 練習をしています。先生がまいてくださった種が芽を出し、花が咲いて、また種をまいたのです。

 

では、どうぞイシさんのスピーチ原稿をお読みください。

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          火を点ける先生        

バトサイハン イシ(モンゴル国立教育大学)

 

私は今年の十月に、モンゴル日本センターで開かれた日本語シンポジュウムに参加しました。そこでは日本語の先生たちが、日本語スタンダードについて話し合っていました。その話し合いの中で私が、気になった言葉があります。

それは嶋田先生が、

「すばらしい先生というのは、子供の心に火を点ける人です」

とおっしゃった言葉です。モンゴルの先生達は子供に勉強させる時、しかったり、怒ったりします。子どもは叱られたくなくて一生懸命勉強します。これは子供の心に火を点けることでしょぅか。

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私は日本語が上手になりたいので、日本の情報を知るためにフェイスブックを見ます。ある日いつものようにフェイスブックを見ていると面白いビデオが出て

スピーチコンテストで①

スピーチコンテストで①

きました。幼稚園の年長組の男の子が、卒園式で跳び箱を飛んでいるビデオでした。その子供の名前は凌君です。跳び箱は十段で凌君の背より高いです。幼稚園の子供には山のようでしょう。一メートル二十センチくらいはありそうです。そんな高いものを六歳の子供が跳べるでしょうか。

先生の合図で凌君は跳び箱に向かって走りましたが、できません。二回目も、三回目もできません。凌君の友達も先生もお父さんも「がんばれ」「できる」と応援していました。でも四回目もできなかったので、とうとう凌君は泣いてしまいました。

私は会場に行って、十段を九段にしてあげたかったです。そして凌君の涙をふいてあげたかったです。私は先生がなぜ九段にしないかと思いました。九段にすればできるかもしれません。先生は厳しすぎます。

でも凌君は涙をぬぐいながら五回目をがんばりましたが、やっぱり跳べません。すると先生が、

「年長のみんな!力をかしてあげて!」

と言ったので、私は驚きました。力をかすって、消しゴムを貸すようにできるのだろうか、と思いました。その時、そこで応援していた二十人くらいの子供達がたちあがりました。凌君と円陣を作ると、

「できる!できる!できる!」

と大きい声で言ったのです。それから凌君はスタートラインについて、自分に言い聞かせるようにうなづきました。凌君は跳び箱に向かって狼がウサギを追うような目をしています。体から何か光が出ているみたいです。何かが起こるかもしれないと思いました。凌君は走り出しました。私は手を握りしめ、

「がんばれ!がんばれ!」

と思わず言っていました。凌君は山のような跳び箱に向かって、力強く走り出しました。

「とんだ!」

「ワー!できた!」

歓声が会場にひびきました。みんなが拍手しました。私も拍手しながら涙が出ました。

スピーチコンテストで②

スピーチコンテストで②

私は「これだ」と思いました。それは「信じる」と言う事です。先生も友達も凌君もできると信じました。先生は凌君ができると信じたから、十段をそのままにしたのです。先生が子供を信じ、子どもは自分を信じ、そして信じてくれた人を大切に思う心が力になったのです。信じることで子供の心に火が付いたのです。

私が先生になったら、凌君の先生のように子どもの心の奥にある宝物をみつけて、引き出してあげたいです。子どもの力を信じ子供の心に火をつける先生になりたいです。私と同じように教師を目指しているクラスメイトに跳び箱のビデオを見せ、日本にこんな素晴らしい先生がいることを知らせたいです。

 

参考:2018.10.16

「連携を軸に『新しい日本語教育』を進めるモンゴル

~3年ぶりのモンゴル訪問で~」

http://www.acras.jp/?p=8241

 

 

 

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