8月アクラス研修報告レポート「介護の日本語ー日本語教師が教えられること」(報告者:松本三知代)

8月19日に行われたアクラス研修「『介護の日本語』日本語教師が教えられること」に関する報告レポートは、松本三知代さんが作成してくださいました。とても詳しく書いてくださっていますので、今回参加できなかった方にもとてもわかりやすいものになっています。どうぞご覧ください。

 

 お知らせ    ➡ アクラス研修「介護の日本語ー日本語教師が教えられること」

   当日配布資料  ➡ アクラス研修会20180819

もっと知りたい介護の日本語(教師向けサポート資料について)

    報告レポート ➡ アクラス8月研修 レポート(松本三知代)

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「介護の日本語」日本語教師が教えられること

 

講師:明海大学講師 大原学園講師 三橋麻子氏

   明海大学講師 大原学園講師 丸山真貴子氏

 

                     報告レポート:松本三知代(浜松日本語学院)

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「介護の日本語」研修会に、山梨、富山、茨城、千葉、東京、埼玉、鎌倉、足利等、全国各地から参加者が集いました。現在、留学生やEPA介護福祉候補者、

講師の三橋麻子さん

講師の三橋麻子さん

定住外国人の介護ワーカーの皆さんと学んでいる(学んでいた)方、これから介護の日本語の仕事に関心のある方、福祉の専門家、現在ご家族を介護していらっしゃる方などそれぞれの背景や研修に参加した経緯、目的を共有して、研修が始まりました。

 

研修の順に沿って内容をレポート致します。

 

1.日本の介護分野に外国人が従事するようになった背景

日本の高齢化

介護福祉士(介護人材)の不足

→ 外国人介護従事者が増加しているが、日本語教師として支援できることは何だろうか。

 

2.「介護の日本語」の対象者 (「介護」を学ぶ外国人は どのような人がいるだろうか。)

在留資格

※1「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」

(H29.11.28公布 H29.11.1施行)

※2「出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律」(H28.9.1公布 H29.9.1施行)

 

3. 介護福祉士になるための学習とは? →介護の業務をしながら介護福祉士国家試験の勉強

講師の丸山真貴子さん

講師の丸山真貴子さん

をして、介護福祉士を志す外国人にとっての困難点や問題点は何か。

  日本語教師(日本語教育)の立場から、具体的にどのような支援ができるか。

<グループワーク>

生活面・学習面・仕事面から、日本語教師は、介護福祉士を志す外国人に対してどのような支援ができるのだろうか。

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グループワークから出た意見

【生活面】

◆メンタル(精神的)なフォロー

◆交通ルールなどのルールの提示

◆生活基盤の支援(来日間もない場合、買い物、交通手段、銀行口座など多岐にわたる。)

◆コミュニケーションのとき、失礼にならない表現など(社会言語的な待遇表現)

◆方言

◆宗教(食生活・衣服など)

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【勉強面】

◆国家試験の勉強 (EPA候補者)

◆JLPTの勉強(EPA候補者はN3は必要だろう。)

◆基本的な日本語(定住外国人の中には、口頭のコミュニケーションは達者だが読む・書くがやや苦手な人もいる。)

◆自律学習のための手助け(アプリの紹介など)

それぞれ課題に向き合って

それぞれ課題に向き合って

【仕事面】

◆申し送りや記録

◆施設ごとに異なる表現や言葉の整理

◆母国と日本との違いの確認 (例:清潔の程度、手の洗い方)

◆外部の日本語教師ができる職場への提案(衣料仕分けの棚のルビふり等)

<グループワークまとめ>

【生活面】 生活の中での必要な日本語力とは?

◆日本社会や地域におけるルール、マナー、タブーなど。

◆人との付き合い方(近所づきあいや挨拶など)

◆サービスレベルの乖離 (例:コンビニのサービス、残業(サービスor残業の範囲)

◆宗教の理解(受け入れ施設へ提案  断食、お祈り、食生活への配慮等)

◆方言の理解の支援

◆一般的な知識や情報の提示

【学習面】 専門書を読む、国家試験に必要な日本語力とは?

◆基本的な日本語力 (JLPTのN3 レベル)

◆漢字 (複合語 熟語の習得)

◆語彙・専門語彙 (介護の専門語彙)

国家試験に出てくる語彙と実際の現場での言い方の違い ⇒ 一つの意味に対して複数の表現を覚える必要がある。状況にふさわしい表現を選択する必要がある。

◆文法 岩田・庵(2012)の調査では、看護師国家試験において旧1級の文法はない。→ N3とN2の文法知識で対応が可能

◆専門知識 分野が多岐に渡る。母国で介護・看護の知識があっても日本にそのまま移行できないことがある。(カリキュラムや国の事情が異なる)

◆読解力(速読力) 国試 220分で125問を解く。→速読力が必要

◆文体  仕事をするときは「です・ます体」 試験問題は「だ・である体」

◆日本社会の理解 生活面だけでなく、国試においても日本社会の常識や一般的知識が問われる。

参加者間の対話

参加者間の対話

【仕事面】 実務の中で必要な日本語力とは?

◆話しことば・書きことば   表現のバリエーション

◆職員・利用者とのコミュニケーションがギャップ

・状況や気持ちがうまく表現できない(例:報連相で状況を適切に叙述できない。)

・曖昧な日本語が理解できない(・ありがとう ・いいです / 結構です ・~から・・言いさし文)

→ 外国人介護従事者にとって曖昧な表現に含まれる真意の理解や表現を聞いて行動することが難しい。

◆国家試験の使用語彙と実際の現場での表現の違い

例 褥瘡(国家試験) = 床ずれ (介護現場)

  咀嚼(国家試験) = 噛む(介護現場) = もぐもぐする(介護現場)

一つの意味に対応して、状況(国家試験・介護現場)に応じた複数の言葉の習得が必要。

話し言葉の表現は介護の施設によっては幼児語とみなす場合もあるため、日本語支援者は施設において適切かどうか留意する必要がある。

◆方言 「私はこわい」千葉県方言 こわい→ 疲れたの意味

コーヒーブレイク

コーヒーブレイク

◆日常業務で必要な言葉

・オノマトペ(病気の症状や程度の表現) ・衣類の言葉(種類・季節のバリエーション)

・色(種類が多い。利用者が使う表現の理解) 例 灰色 グレー → ねずみ色

・日本語の難しさ 発音や待遇表現など

                         

4.まとめ 日本語教師(日本語教育)の立場から支援できることは何か。

介護福祉士を志す外国人にとって問題となる日本語

表2内容とカテゴリー                                      

Q&A

Q: 『はじめて学ぶ介護の日本語 基本のことば』の使い方を知りたい。

A:『はじめて学ぶ介護の日本語 基本のことば』(2017)三橋麻子・丸山真貴子・堀内貴子・西己加子  スリーエーネットワーク テキスト紹介

                              

<テキストの特徴>

介護分野の語彙1500語を集めたもの。介護現場と国家試験に必要最低限な語彙を集めたもの。

<学習対象者>

・日本で介護関係の仕事に就くことを目指している人

・すでに介護現場で働いている人

 → EPA介護福祉士候補者・定住外国人介護ワーカー・技能実習生・介護を学ぶ留学生

<翻訳> 英語 中国語 ベトナム語 インドネシア語  4言語

<構成> Part1  施設のことば  Part2 体・体調のことば Part3 介護のことば

     Part4  制度のことば Part5 まとめの問題  5部構成

                                 

<テキストでできること> 目標

①    介護のことばが読めて 意味がわかる。

②    ことばと例文から介護の全体をイメージすることができる。(1語につき1つの例文)

③    ことばが介護場面で使われるところを意識できる。

                           

<テキスト例>

・話しことばと書きことば、専門用語や利用者への声掛けの表現など同じ意味のことば(同義語)はまとめて記載している。

(例)含嗽 うがい くちゅくちゅぺー がらがらぺー

・自律学習用赤シート(自律学習を促し、楽しく読むための工夫)

・わかりやすいアイコンの使用(同義語 対義語 共起することば(コロケーション) 省略語)

・介護現場で複数の言い方をしていても、翻訳は1つの同じ訳がついている。

・意味がわかりにくいものはイラストを提示する。(例 脱健着患などわかりにくいことばはイラストで提示)

・練習問題

 ・イラストを提示 → ことばを書く介護の日本語 基本のことば

 ・読みを問う問題

 ・共起を問う問題

 ・短文作成をする問題

 ・対義語の問題

 ・カタカナ語の問題

・語彙定着を図る問題

テキスト使用者は、スリーエーネットワークに依頼すれば文字カードや介護現場で使用する画像を入手することができる。

                     

<参加者の感想や振り返り>

・発表を聞いて、教材準備のヒントを得た。ぜひ実際の実践で生かしたいと思う。

・介護現場のことがわかってよかった。

・教材や介護の日本語が多方面の角度からアプローチされてとても興味深かった。

・学習者のことをよく考えて教材が作られていると思った。

・介護福祉士の仕事が多岐にわたっていることを知ることができた。

・外国人が仕事に就くとき、そこで困っていることを支援するのも日本語教師の新たな仕事の一面かと思った。

・日本語教師は外国人介護従事者を支援するだけでなく、介護施設に働きかける役割もあると気付いた。

・コースデザインに興味がある。等

                       

介護を担う外国人はどんな人?介護福祉士の仕事とは?外国人介護人材を迎え入れる日本社会の現状など、介護の日本語を必要とする外国人とその背景についてとてもわかりやすく導入していただきました。その後、「介護の日本語」について日本語教師ができることをグループで語り合い、全体で整理することができました。あっという間の2時間です。今後の社会情勢や法改正に注意を向けつつ、より実践的で、学習者が充実した学習が進められるよう「介護の日本語」に取り組んでいきたいと改めて思いました。

講師の三橋先生、丸山先生、コーディネートしてくださった嶋田先生、本当にどうもありがとうございました。

                                    

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★当日参加された皆様へ講師から訂正

当日、外国人介護福祉士のビザ変更についてお話しを致しましたが、現行の制度では、

EPA看護師は、国家試験取得後ビザを「特定活動」から「医療」への変更は可能。

EPA介護福祉士は、国家試験取得後も「特定活動」のまま。介護福祉士のほうは、今の

ところ「介護」への変更は認められていません。

お詫びして訂正いたします。

懇親会

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