「<著者との対話>『日本語力をつける文章読本』」のご報告

「読みとは何か」について語る門倉さん

先週門倉正美さんによる<著者との対話>が行われました。著書は『日本語力をつける文章読本』です。急ぎ9月末に実施したのは、日本語学校や大学の後期授業に間に合わせたいと考えたからです。

学期末であるため、「本当は行きたいけれど、明日の講師会準備があり…」「とてもこの時期は早く学校を抜けることができず…」と言った声が相次ぎました。それでも当日は15名の参加者、それもとても多様な方々が参加してくださいました。日本語学校や大学で教えている方、ボランティアに関わっている方、以前中学校の教科書編纂に関わっていた方、辞書編纂者(春遍雀来(ハルペン・ジャック)さん)等々……。

前半は門倉さんによる「読みとは何か」「なぜ新書を取り上げたのか」といった示唆に富んだ話が続きました。参加者はたくさんの資料を前に真剣に話を聞いていました。コーヒーブレイクを挟んで後半は、忌憚なく意見を交換し合い、大いに盛り上がりました。

では、門倉さんの話を纏めてみることにします。

語り合う参加者

■もっと日本語の本を読んでほしい!

留学生のレポートの参考文献のところを見ると、殆ど本があげられておらず、webサイトの多いことに、びっくりし、日本語の教科書、漫画、雑誌以外の日本語の本をどれだけ読んでいるかということを調べてみたのですが、非常に少ないことに驚きました。何とか留学生が本を読む仕掛けを~~~と考えているうちに、「新書を使った授業」を思いついたのだそうです。

■教室で「読み」を完結するのではなく、「ソトでの学び」に繋げたい!

学生が教室で「読みの授業」を受け、その授業が終わったらお仕舞い、というのではなく、何とか学生の暮らしと結び付けたいと考えました。読みを楽しむ生活、自ら読みを続けたくなるような授業展開が必要だと強く思い、読解の授業にいろいろ工夫を凝らしていきました。

■読みたい本を読む大切さ!

みんなの話を聞く門倉さん

教師がある本から「切りとった部分」を授業で読ませたり、ある本を1冊選んで皆で読むのではなく、自分が読みたいものを選んで読書するほうが楽しく読み進めることができます。本を選ぶ際には「点検読み」といったことも求められてきます。こうしたことにも目を向ける必要があります。しかし、現実に行われている読みの授業では、あまりにも精読のみを重視しているのではないでしょうか。

 

■実際に行った授業とは……

新書の授業では、①楽しむ ②調べる ③学ぶをスローガンとした3段階で、3つの書評文を提出してもらいます。書評は①が600字、②が1200字、③が2400字と、倍々で字数を増やしていき、長い文章が書けるように訓練するようにしています。③の「学ぶ」では、2冊以上の新書を読み比べることにしているので、学習者は1学期間で最低4冊の新書を通読することになります。

■今の読み授業への批判

門倉さんは「精読主義に陥っている今の読解の教育は、読解を矮小化している」とし、「与えられたものを端から端まで正確に理解することにあまりに力を注いでいると思います。日常ではそんな読みなど殆どしていませんよね」と、みんなに語りかけました。そして、焦点読み、要点読みの重要性について述べ、参加者に「読みとは何か」を改めて考えるきっかけを作ってくださいました。

♪   ♪   ♪

懇親会で

後半のやり取りも、なかなか中身の濃い興味深いものでしたが、紙幅の都合上省略することにします。資料として吉田新一郎『「読む力」はこうしてつける』の紹介がありました。さらに『日本語力をつける文章読本』から、まど・みちお「百歳日記」と、好井裕明『「あたりまえ」を疑う社会学』を取り上げ、具体的にどのような「問い」を立てればよいかといった話がありましたが、実際の教育実践に大いに役立つものでした。

今回の参加者の中には、「私自身が新書が大好きなので・・・」「私の読書生活をさらに豊かにしたいので・・・」という方や、元日本語学習者で現在は辞書編纂をなさっている春遍(ハルペン)さんもおられ、懇親会ではさらに話に花が咲きました。さらに12月には春遍さんが「アクラス研修会」の講師をしてくださることが決まりました。皆さま、どうぞお楽しみに!

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