2月のアクラス研修は阿部裕さんによる<著者との対話>『あなたにもできる外国人へのこころの支援』でした。前半はご著書のご紹介を中心に進められ、後半は参加者が事例を出して質問をするという形となりました。レポーターの藤村さんが、詳しく記してくださっていますので、どうぞじっくりご覧ください。
参考:研修会のお知らせ http://www.acras.jp/?p=6111
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アクラス研修会報告
「あなたにもできる外国人への心の支援」(阿部裕先生)
藤村 恵(横浜国際語学院・東京外語専門学校非常勤講師)
今回のアクラス研修会では、多文化精神医学会理事長の阿部裕先生の外国人への心の支援の現場と日ごろ私たちが接している外国人の方々にどういったことができるのかということについてのお話を伺いました。
研修参加者は、大学、専門学校、日本語学校の教師、地域のボランティアの方々、日本語教師養成講座で勉強されている方など様々でした。毎回のことではありますが、この研修も人気が高くアップされて数時間で満席になったそうです。私も放送大学で心理学をかじっていますので、ぜひこの研修には参加させていただきたいと思いました。残念ながら研修にご参加できなかった方に、当日の雰囲気を少しでもお伝えできたらと、ご報告させていただきます。
まずこの研修のきっかけは伴野先生が阿部先生も執筆していらっしゃる『あなたにもできる外国人への心の支援』を嶋田先生にお勧めになったことでした。伴野先生は日本語教育関係の方々にメンタルヘルスの関わり合いは人によって、全く関知しないという方と、深くかかわっている方との二極化されているということから、アクラスの研修のテーマとして取り上げてはとご提案されました。
阿部先生は明治学院大学で臨床心理の教鞭をとられるとともにクリニックでは多文化外来の診療をなさっています。この8年間で外国人の患者さんは920名、年回100名ぐらいクリニックに来院されています。
今回は16名の先生方の著書である『あなたにもできる外国人への心の支援』のエッセンスを解説していただきました。
阿部先生がどうして多文化診療に携われるようになったかというと、スペイン留学から帰国された時、入管法が変わりスペイン語話者のクライエントが増え、スペイン語で支援を始めたことだそうです。他にも東北の外国人花嫁、インドシナ難民、中国帰国者など日本の生活に適応するのが難しいと感じられているかたがの支援が増えてきたそうです。そうした支援活動をしていらっしゃる先生方がお集まりになり、多文化精神医学会を1993年に立ち上げられたそうです。現在24年目となり、いろいろな立場の方が共に学会を作っていこうとされています。会員の募集もされているそうです。
http://www.jstp.net/24confer/index.html
5月14日(日曜日)に研修会がNTT東関東病院で行われるそうです。
http://jstp.net/support_seminar/index.html
○外国人こころの支援
・外国人をどう理解サポートしていくか。・重要なことは「相手が支援する人に何を求めているか。」支援する人とされる人が一緒にやっていき、求められている以上のことをしない。
・過剰なサポートは決して相手のためにならない。
・習慣の違いを理解していないと、誤解することもある。
・サポートのサービスはいろいろあるが、その人にとってどの団体に連絡してサポートしてもらえるのかが分からないといけない。
・自国と日本でのステイタスの違いにより心が折れてしまうことがある。
・欧米人は精神的にダメージを受けるが、アジア系の人は身体症状に現れやすい。
○支援の仕方
・困っている部分だけお手伝いする。
・相手の意見を否定せず受け入れる(傾聴)
・支援に時間をかけラポール(ラポールは「親密な関係」、「信頼関係」などと訳される。フランス語では「橋をかける」という意味)をつくる。
○児童・生徒の支援
・早いうちにサポートする。言葉や文化を理由にせず、後回しにしない。遅くなると時間がかかってしまう。
・児童の多様な背景を理解する。
・二重言語の問題・ダブルリミテッド
・発達検査では日本人に心理士が検査するのとバイリンガル心理士が検査するのでは、結果が違うこともある。
・発達検査でIQ80以下だとよく特別支援学級も視野に入れる。
・日本で生まれても母語は母語で学習する・・・・アイデンティティーの問題に対処。
・カルチャーコンプレックスには多文化対応能力を支援者は身に付ける。
○医療現場で起ること
・どの言語で電話がかかってくるかわからないので、常時10名ぐらいのスタッフで対応
母語対応ができる日に電話してもらう。
・電話で予約していても3人のうち一人ぐらいしか来院しない。
・こころの病にかかると日本語能力は落ちるので、通訳を通して診察する。
・通訳は患者寄りになり、精神福祉医療の基礎知識を持っていることが必要。
・このごろは遠隔地治療サービスの利用ができるようになった。
・保険に入っていない患者さんもおり、未払いのままのケースもある。
・母国へ帰国となった時は、医師が同乗し、外国への持ち込み制限のある薬物についても知識が必要となる。
コーヒーブレイクの後は、参加者からの質問に阿部先生からアドバイスがありました。
質問①(大学)
「自分はうつ病だと学生から報告があった。」
➡北欧系の人は比較的鬱になりやすく、よくみられる季節性うつ病と考えられる。高緯度地域に住む人に多く、日照時間によってうつ病が発生してくる。本人がどの程度困っているかによって、支援が必要かどうかに分かれる。自分でコントロールできれば大丈夫だが、朝起きられないなど日常生活に支障があるときは、専門家に相談する。
質問②(大学)
「様子がおかしい、例えば学校には出てこないのに夜になると元気になるというような怠け癖と取られるような行動をとる学生にどう声掛けできるか。本人が申告しない限り配慮の仕様がない。」
➡学生支援システムのある学校はそこに相談する。このシステムができていないと支援は難しいので、システムを作るようにしていかなければならない。学生もそういうシステムがあると気軽に相談に行ける。
質問③(大学)
「様子がおかしい学生も在学中はごまかしたり、苦手なものを回避させたりしてそのまま進学させてもいいのだろうか。」
➡その人に合った方法で、面接が苦手であれば面接の無い大学を勧めるのはいいこと。問題のある学生は優秀な人が多いが、自己を客観的に見られない。回避できるのであれば、回避してその人に適したところを紹介する。
質問④(日本語学校)
「親子関係に問題がある場合。母語での対応ができているので、親に連絡を取ることができるが、親に問題があるようなケースがあり遠くに離れているのでなかなか難しい。」
➡どこでもそう言った問題はあり、親と一緒に居たくないので日本へ来たというケースもあったが、モチベーションがあるので親を巻き込まなくても何とかやれる。
質問⑤(日本語学校)
「問題が起こった場合、学生は日本にいたほうがいいか母国に帰ったほうがいいのか…」
➡ケースバイケース。リストカットした学生がいて、本人の了承を得て帰国したケースもある。できるだけ本人の希望に合わせて対応する。それなりのモチベーションをもって日本に来ているので、帰国させるのがいいとは限らない。
質問⑥(日本語学校)
「教師に対する学生のストーカー行為」
➡もともと誰かに依存しなければならない人がいる。拒絶するとますます付きまとわれる。初期の段階で手を打たなければならない。相談事はあまり深く聞かない。距離感をもって付き合うようにする。深刻な相談は専門家に任せるという線引きをするべき。日本語教師は日本語を教えるだけなので、相談できるところを紹介する。
質問⑦(ボランティア教室)
「問題がありそうな方がいても、ボランティア教室に来なくなってしまい、支援できない。」
➡日本語教室の居場所間尺度、日本語教室が外国人にとっての居場所となるためにどう改善していけるのか考えて、客観的に観察する。
質問⑧(ボランティア教室)
「外国人中学生にどこまで踏み込めるのか、虐めがあるのではなのか不安。今後の進路についても心配している。」
➡誰をキーパーソンにするかが決め手となる。ボランティアの助言は聞かなくても学校の先生だとすぐに動いてくれることもある。
最後に参加者の方々の感想として
・力になりたいという気持ちだけではだめなんだということが分かった。
・心が折れる前のへこんだ状態の時どう相談に乗れるかが課題。
・ルールを作る、システム化する、線引きをするとか、自分以外の人との連携をとる。困っていることだけの支援が必要だ。
・学校に相談できるセクションがあるので、そこから相談できるのでそこへつなぐようにしている。
・プロではないので、今まで向き合ってこなかったが、上手にプロの力を借りるということをしていきたい。
・行政や地域のサービスの利用の仕方を知らないので、繋ぐために相談できる場所の知識は必要だと思った。
・困ったことがあったら、アドバイスでなく良い聞き手となり受け入れるということを心掛ける。
・今の時代は他のところと連携をし、自分たちだけで解決しようとせず周りとのネットワークが必要だと感じた。
・どこに繋げばいいかを勉強しなければならないと思った。
・問題が有った時に本人がコントロールできるかが一つの判断の基準になり、帰国するかどうかは本人の意志だということが分かった。
・線引きをするのがいけないと思うのは、繋ぐ先を持っていないからで、線引きすることで孤立させてはいけないと思ってしまう。繋がる先をたくさん知っているとそのようなことにならないと思った。
最後に、阿部先生より
皆さんが困ってらっしゃることは先生にとっても同じで、毎日が応用問題だそうです。皆さんも常に応用問題の中でやっていかれることになるので、一緒にやっていきましょうとのことでした。
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