12月のある日、ニュージーランドで活躍なさっている荻野さんから、こんなメッセージが届きました。
この数年、「つながり」という言葉は日本語教育のキーワードの一つになっているようです。今日はニュー
ジーランド(NZ)からのお便りとして、NZの日本語教育と日本の高校教育のつながり、そして、さらなるつながりについてお伝えしたいと思います。
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高大連携教育フォーラム
私はクライストチャーチにあるカンタベリー大学で日本語を教えていますが、「第14回高大連携教育フォーラム」(大学コンソーシアム京都主催)の第二部「表現技法分科会」で、インスピレーショントークをする機会をいただきました。この分科会はフォーラム会場である京都を中心とした高校の先生方と、オンライン会議システムZOOMで日本各地と海外の参加者をつなぎ、リアルとオンラインでの対話を同時に行うハイブリッドワークショップでした。公立高校の英語教員だった私が、高校の先生方に日本語教育の話をするこの機会は私にとっても特別なものとなりました。
越境する学びの仲間と未来を創る
『「学校×ICT×社会」でシナジーを起こす学習デザイン~越境する学びの仲間と未来を創る~』という分科
会のテーマについて、山口県萩商業高校の松嶋渉先生(リクルートの『キャリアガイダンス』で紹介された、全国の「学び合い、挑戦し続ける教師 たち」8人の中の1人)が高校と地域社会をつなぐ実践を紹介しました。次に私がNZの教育の特徴、日本語教育の現状、そしてクライストチャーチの高大連携の実践について話しました。
教育全般については、最近発表されたPISA2015の読解力の結果(日本は8位、NZは10位)を話題として入れました。NZの中学生の学習時間は日本の中学生に比べるとはるかに少ないにもかかわらず、両国の結果に大きな差はありません。少ない学習時間でも日本とあまり変わらない結果となっているNZの教育は注目する価値があるかもしれません。また、NZには高校入試も大学入試もないので、学校教育の中で日本語を学ぶ動機づけの重要性についても触れました。
参加された方にとっては新鮮な驚きだったようですし、日本と異なる教育制度の存在を知ってもらうことは
意義があったと思います。そしてクライストチャーチの高大連携を紹介しました(http://www.acras.jp/?p=4418)。日本でも入試改革の一環として高大連携が注目されているようですが、私たちの高大連携は日本語学習者数の減少への対策であり、「学習はつながりとコミュニティの中に埋め込まれている」(トムソン木下, 2014)の実践ということも話しました。
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二つのトークをベースに京都会場とオンラインの参加者が小グループに分かれ、「あなたにとって越境する学びとは何ですか?」 と「今日のインスピレーショントークを踏まえて、これから越境する学びをどのように広げ、深めていきますか?」について討論し、その内容を会場とオンラインで共有しました。越境する学びの仲間との貴重な出会いがあり、「オンラインとリアルの対話が相互振動する感覚」を体験し、未来志向の実践につながるエネルギーを感じることができました。
つながり
このトークの依頼は筒井洋一先生(前京都精華大学教授)からいただきました。筒井先生のお名前を知ったのは『アカデミック・ジャパニーズの挑戦』(門倉・筒井・三宅, 2006)という本を通してでしたが、その後『反転授業の研究』(Facebookグループ)でつながることになりました。筒井先生は教室=社会という
文脈で学びの実現のために授業をオープンにして「高校生×大学生×地域」を連携する実践をされています。アクラス代表理事の嶋田和子先生は『アカデミック・ジャパニーズの挑戦』の著者のお一人ということもあり、そのご縁でこのお便りを書いています。
NZでは日本語学習者数の減少傾向が続いているので、国内の縦と横のつながり、そして国外の日本語教育関係者とのつながりを強めることが重要だと考えてきました。NZ国内の大学の日本語教師が執筆したCreating New Synergies: Approaches of Tertiary Japanese Programmes in New Zealand は、そのつながりのシンボルでもあります。
今回のフォーラムを通して、日本語教育以外の方とのつながりからも大きな刺激が得られることを学びました。また、高大連携教育フォーラムの「表現技法分科会」という分科会は日本語教育とは関係がなさそうですが、中高大の連携に興味を持つ日本語の先生も参加していました。つながりが生み出すものがあり、そのつながりがさらなるつながりに結びつくことを実感しました。それぞれのつながりを大切にし、多様な刺激を受けながら、これからも日本語教育に携わっていきたいと思います。
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