清泉女子大学では、カトリック関連のネットワークなどを活かした大学生によるボランティア活動が盛んです。しかし、大学生が企画し自主的に運営する「かわいい日本語サロン」は初めての経験でした。夏にチームが発足し、スタートまで11回の全体会議に加え、3つのチームに分かれて話し合いを重ねました。さらに、少しでも時間を有効活用しようと、3回シリーズで「ランチタイム研修」も実施。この研修会は「つながり重視の活動をめざして」というテーマで私が担当し、地域日本語支援における大切なポイントを中心に、実践例を挙げながらお話をしていきました。
日本語教員課程の西村美保先生やボランティアラーニングセンターのスタッフに背後からそっと見守られながら進めていった「かわいい日本語サロン」は、次のような内容でした(1回90分)。
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第1回「買い物」
・洋服店での試着 ・ポイントカードの利用 ・商品について質問する
第2回「薬局を利用する」
・症状を伝える ・薬について質問する
第3回「美容院を利用する」
・予約する ・希望のスタイルを伝える
第4回「復習&パーティー」
・ひとことスピーチ ・お菓子を食べながらお話
対象は「品川区に暮らす外国人女性」ですが、それは女子大である特徴を生かした日本語サロンにしようと考えてのことでした。果たしてどれだけの方が参加してくださるだろうと・・・心配していたようですが、さまざまな出身国・地域の方々が参加してくださいました。この背景には、もちろん大学生の努力もありますが、日ごろから地域のボランティア団体と密接な関係を持ってきた清泉女子大学のネットワークの力があります。今回は、IWC(NPO法人IWC国際市民の会)やSIFA(公益財団法人品川区国際友好協会)の関係者も「大学生の自主活動、いいですね!」とご協力くださいました。
最後のパーティーでの参加者による「ひとことスピーチ」では、以下のようなことが述べられました。
◆このサロンのお蔭で、美容院に行って試してみることができた。でも、子どもの髪のことはまだ日本語で言えないので、ぜひ勉強したい。
◆日本に来て何年も経つが、こうした機会は初めてだったので、本当に嬉しい。友達が出来たのが
最高。
◆来年もまたやってほしい!今度はやってもらうだけじゃなく、自分達も何かできることをしたい。
受講した方々は、心のこもった大学生作成の修了書を受け取って満面の笑み。たった4回の日本語サロンでしたが、お互いの気持ちが通じ合った、ほのぼのとした時間でした。
受講者を見送ってからは大学生による「振り返り」の時間でした。
◇いくら計画して、準備しても実際に進めるとなると、思い通りにいかないということがよく分かった。頭で考えているのと実践とでは、大きな違いがあることがよく理解でした。
◇グループで活動する時、それぞれが「思い描いている教室」が一人ずつ違うのでそれをまとめていくのが大変だったけれど、とても良い経験になった。
◇外国の人に接する機会がとても少なかったので、近づくにつれ、「どうし接したらいいのか」「どう日本語を教えたらいいのか」と、不安になっていた。しかし、「友達として対話すればいいのだ」ということを思い出して接していると、緊張が和らいだ。対話の大切さがよく分かった。
では、ここで、「大学生による日本語サロン」誕生のきっかけを作り、この活動に最初からずっとファシリテーターとして関わっていらした西村先生、そして参加した2人の大学生の報告メールをご紹介したいと思います
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(1)かわいい日本語サロン設立の経緯と学生の学びについて
清泉女子大学日本語教員課程主任 西村美保
清泉女子大学日本語教員課程は、副専攻相当であり、日本語教育だけを専門に学ぶ学生はおりません。そし
て、修了しても、日本語教育の分野に進学する学生や日本語教員になる学生は1年に一人いるかいないかという程度です。つまり、ほとんどの学生は日本語教育を、「いつか使うチャンスがあれば使いたい」と考えて教養の一つとして学んでいるということです。だとしたら、学校型の教え方を学ぶより、地域日本語教室でどのような活動が行われているかを学んだ方が、その知識・技能をボランティア活動などで生かし、多文化共生社会を作り上げる一員としての役割を担えるのではないかと常々考えていました。
一方で、本学ボランティア・ラーニング・センターは品川地域のさまざまな団体と連携しており、外国人支援に関しては、「無料の日本語教室がない」、「日本語会話を練習する機会が少ない」といった声を聞いていました。そこで、品川地域外国人住民のための交流型日本語教室を学内に作り、学生たちに企画・運営をさせてみようということになりました。
学習者の募集対象を女性に限定した理由は、本学が女子大学だからということもありますが、私が学生時代
に、ある国立工業大学で留学生の家族のために開かれた日本語教室で体験したことにもあります。そのクラス内は全員女性だったため、普段外では全身黒い装束を身につけて目と手だけを出して過ごしている中東の女性が、いつも教室に入るとブルカをさっと脱いで屈託のない笑顔でたくさんおしゃべりを始めるのです。一人でも男性がいたら、それは彼女にとっては許されない行為です。ですから、日本語教室でも女性限定にするということには重要な意味があると考えています。こうして、品川区在住の外国人女性を対象として学生の企画・運営による「かわいい日本語サロン」を始めるに至りました。
日本語教員課程履修者から有志を募り、まずは欲張らずに3回だけクラスを開き、最後はパーティーにしようと皆で決めました。私の頭の中で描いている交流型日本語教室のイメージは、授業やミーティングを通じて学生たちに伝えていたつもりでしたが、チームに分かれて授業案を作らせてみると、私の意図したものとは違いつつも、案外興味深いアイデアを出してきました。それで、いっそ細かい指示は与えずに学生たち全て任せようと思うようになりました。
実際に三つのテーマでそれぞれのチームが教室を開き、最後の4回目に皆で手作りの修了証を渡してパー
ティーを開きましたが、もちろん、それぞれの回でうまくいった点とうまくいかなかった点があります。全てが初めてのことですし、うまくいかなかった部分も、反省点を自分たち自身で振り返り、今後に生かせればそれでいいと思います。学生たち一人一人が多くのことを学ぶことができたはずです。
さらに、たとえうまくいかない部分があっても、学習者の皆さんに、「楽しかった」とか「来年もまた開いてほしい」と言われたことは、準備してきた学生たちにとって非常に大きな達成感と自信になったと確信しています。修了パーティーで私は、学生たちが非常によく頑張ってやり遂げたと感激して涙がこぼれそうになりました。
今後も、学生たちが主体的に作り上げる日本語サロンが、品川地域で必要とされるものになるよう、引き続き活動していきたいと考えています。
(2)「かわいい日本語サロン」を開催して
清泉女子大学 文化史学科2年 吉田弥莉
「かわいい日本語サロン」とは、日本語を学びたいという地域の在住外国人の女性を対象とした、対話中心の日本語教室です。日本で生活をする際に、何か困ったことなどを気軽に相談できる交流の場となることを目指し、サロンを開催しました。このサロンは、日本語教員課程を履修している学生達が中心となり計画し、授業での学びを実践する場ともなりました。今回は「買い物」「薬局」「美容院」という生活に密着したテーマを設け、全4回のうち3回のサロンと最後の1回はパーティーを行いました。
私は第1回目の「買い物」の回を担当しました。初回のサロンということもあり、学習者の日本語会話のレベルが分からなかったため、どのような場合でも対応できるように、サロンを想定したリハーサルを3回ほど行い、当日に臨みました。また、嶋田先生の講演会での学びを反映させようと何度も計画を練り直しました。実際にサロンを行ってみると、なかなか計画通りに進行することは難しく、準備していた内容の半分ほどしか行うことができませんでした。しかし、学習者との会話が弾み、時間を忘れるほど楽しいひと時を過ごすことができたことは、嬉しい誤算でした。また、初回のサロンの最後に実施したアンケートでは、学習者の全員が次回のサロンにも参加したいという項目を選んでくれました。次回も参加してくれるかという心配もありましたが、この結果にほっとしました。けれども、未熟な点など反省点も多く、サロンの様子や気を付けるべき点などを、参加学生全体で共有し、次週のサロンに反映させました。
最終回のパーティーでは、学習者の方に1人ずつサロン全体の感想をスピーチしてもらいました。感想では、「楽しかった」という声も多く聞かれましたが、「少し難しかった」、「予習するためにテキストをはやくもらいたい」という声もあり、今後、見直さなければならない点に気が付きました。そして、今回のサロンで何よりも嬉しかったことはパーティーの最後にサプライズで、参加された学習者の方々が一列に並び、感謝の言葉を述べてくれたことでした。このサロンが少しでも、皆さんの役に立てたのならば、この上ない喜びです。今後も、このような活動を継続的に行い、多文化理解を深めていきたいです。
(3)日本語サロンを終えて
清泉女子大学地球市民学科4年 山本実奈枝
私は今年の夏、海外での日本語教育実習に参加し、帰国後にこの経験を生かしたいと思い、この「かわいい
日本語サロン」の運営に関わるようになりました。
今回の運営メンバーは二年生の学生が中心となっていて、たった一人の四年生の私は主に見守りをしていました。
日本語教員課程を今年取り始めた人が運営メンバーには多く、事前準備をたくさんしていても、当日は経験不足からくるドキドキハラハラな出来事がたくさんありました。
それでも、現役女子大生が作るサロンはとても可愛く、愛情があり、終始笑顔で終わったことがとても印象的でした。
今回、工夫していたところは、プレゼンやお土産、装飾など、全て女子大生が協力して手作りしていた点だと思います。
私は今までの学生生活の中でいくつか日本語を教える場に行ったことがありますが、こんなに可愛さ満点なところは見たことがありません。見た目だけではなく、運営メンバーの努力している姿は「可愛い」でいっぱいでした。
大変だったことは、運営メンバーの一人一人が思い描くサロンの理想像が異なり、それを擦り合わせていくことでした。今回は初めての経験でしたが、経験を重ねることでこうした課題も解決されていくと期待しています。
来年の「かわいい日本語サロン」開催を目標とし、みんなで一丸となって内容を充実させ、可愛さにより磨きをかけていきます!
ホームカミングに参加したこともあり、去年は母校を身近に感じる年でした。
「かわいい日本語サロン」の活動を読ませていただきました。本当にわくわくする素敵な活動ですね。私の頃にはまだ日本語教育・日本語活動の場が無かったのでちょっぴり(かなり?!)羨ましいです。
私も地域で大人の日本語教室に10年ほど関わり、現在は児童の日本語教室で10年近くなります。私は大学時代に少し日本語教育の勉強をしたことがきっかけで、回り道の後、今に至っています。
後輩の方々の頑張っている姿に感動し、エネルギーがもらえました。
ぜひ今後も繋げていってほしいと思います。
西村さん、すてきなコメントをありがとうございました。清泉女子大学の学生さんは、意欲的でクリエイティブな方が多いですね。先日授業で「わたしの今年の漢字」をしたところ、「挑」が一番多かったんですよ。これからもドンドン活動を広げていってほしいと思っています。そして、地域とのつながりの次に考えているのは、卒業生と在校生とのつながりです。どうぞよろしくお願い致します!!(私は今年度で定年ですが、ボランティア活動には関わっていきたいと思っています)。
ご多忙のところ返信ありがとうございます。気づかず失礼しておりました。このわくわくする活動に卒業生として関われたら~と思うと心が躍ります。そのときはどうぞよろしくお願いいたします。