庵功雄さんからのメッセージ<みんなの力で「「やさしい日本語」ニュース」を継続させよう!>

★ 「この呼びかけは、庵、嶋田の個人的考えに基づくものであり、NHKその他いかなる団体、個人の要請によるものでもありません ★

 

先日、嶋田より「NHK「やさしい日本語」によるニュースサービス」に関してご意見を頂きたいとご連絡いたしました。 NHK「やさしい日本語によるニュースサービス」 http://www.acras.jp/?p=554 既に何人もの方から実践例・改善依頼などさまざまな意見を頂いています。まだの方も是非お寄せください。

本日、 「一橋大学の庵功雄さんより、「「やさしい日本語」と「やさしい日本語」ニュース」というタイトルの呼びかけ文を頂きました。一人でも多くの方に「NHKによる「やさしい日本語」ニュース」の存在を知っていただき、現場の声をNHKに届けたいというのが、この運動の目的です。これからは、ネットワークを活用し、さまざまな課題を共に考え、行動していきたいと思います。まずは庵さんの呼びかけ文をじっくりとお読みください。そして、是非ご意見・ご感想・実践例などをお寄せください(送り先は、本文中にある庵さん、または、嶋田まで kazushimada@acras.jp )。お待ちしています!!

  ●「やさしい日本語」とは     ●「やさしい日本語」の3つの側面

●「やさしい日本語」と「やさしい日本語」ニュース

●貴重なリソースとしての「「やさしい日本語」ニュース」    ]

●みんなの力で「「やさしい日本語」ニュース」を継続させよう!

○参考文献(本文で引用したもの)     ○「やさしい日本語」に関する文献

                     

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                                                           →PDF「やさしい日本語」と「やさしい日本語」ニュース(庵功雄氏)

「やさしい日本語」と「やさしい日本語」ニュース

一橋大学国際教育センター 庵 功雄 (isaoiori[AT]courante.plala.or.jp[1]
http://www12.plala.or.jp/isaoiori/


[1] メールを送られる場合は[AT]を@に置き換えてください。

●「やさしい日本語」とは

定住外国人が増えてきています。その背景には、人材移動のグローバル化と、日本社会の少子高齢化、生産年齢人口(15歳~64歳)の減少ということがあります。これからの社会において、日本が少なくとも現在の経済水準を維持していこうとするならば、外国人の力を借りることは不可欠です。そして、その場合、外国人を「生産の調整弁」と考えていけません。そうではなく、これからの日本社会をともに作っていく主体として受け入れる必要があるのです。

そうであるとすれば、これらの外国人が日本社会において自己実現を図っていく道を保証する必要があります。このことはいろいろな分野にまたがる複雑な問題ですが、私たちの研究グループではこの問題にことばの観点から取り組んでいます。それが「やさしい日本語」です。

 

●「やさしい日本語」の3つの側面

「やさしい日本語」には次の3つの側面があります。

第一の側面は、「初期日本語教育」の対象というものです。私たちの研究グループでは、外国人を日本社会に受け入れるにあたって、その人たちが日本語で最低限のコミュニケーションができるところまでの日本語教育を公費で保証すべきであると考えています(この考え方は、法政大学の山田泉さんが年来主張されていることに賛同するものです)。こうした公費による初期日本語教育が実現した場合に、その教育の内容を検討したものというのが「やさしい日本語」の第一の側面であり、その内容は庵(2009)において、step1, 2という文法項目にまとめられています。そして、このstep1, 2の内容をそれぞれ網羅した教材として、『にほんごこれだけ!1, 2』(ココ出版)を刊行しています。

第二の側面は、「地域型初級」の対象というものです。近年、日本語教育を、大学や日本語学校で行われている「学校型日本語教育」と、地域で行われている「地域型日本語教育」に分けて考える考え方がかなり広く行われるようになってきており、両者の違いがいろいろな形で指摘されています。しかし、現状では、学校型の教材や教授法を地域でも行おうとする考え方が根強いのも事実です。けれども、学校型の初級の到達レベルとされている日本語能力試験N4合格レベルに達するための目標時間である300時間を、地域型日本語教室の標準である週1回2時間でカバーしようとすると、150週(=3年)かかるという算術的事実だけから考えてもこうしたやり方に無理があることは明らかです。上述のStep1, 2はそうした地域の実情を考え、限られた時間の中で、外国人参加者が自ら表現したい内容を日本語を使って表現できることを目指したものです(このあたりの点について詳しくは庵2009、イ2009をご覧ください)。

第三の側面は、「地域社会における共通言語」というものです。これまでの日本社会では、日本人並みの日本語能力を身につけた外国人だけを受け入れるという考え方が支配的でした。日本語教育もそのことを前提として、いかに効率的に日本語力を高めるかということを目的としてきました。しかし、それは外国人を日本社会に「同化」させること(外国人を「日本人化」すること)であり、対等な市民同士の関係とは言えません。私たちが理想とする地域社会のあり方は次のようなものです。

日本語母語話者<受け入れ側の日本人>

↓  コード(文法、語彙)の制限、

日本語から日本語への翻訳

やさしい日本語(地域社会における共通言語)

↑ ミニマムの文法(Step1, 2)と語彙の習得

日本語ゼロビギナー<生活者としての外国人> 

つまり、外国人側にも最低限の日本語習得を求める一方、日本人住民もその外国人が理解できる日本語で話したり、書いたりできるように、自らの日本語を調整する(日本語から日本語への翻訳を行う)。そこに、地域社会における共通言語としての「やさしい日本語」が成立するのです。こうした意味の「共通言語」の役割を果たせるのは、「普通の日本語」ではなく、もちろん英語でもなく、「やさしい日本語」だけなのです。

 

●「やさしい日本語」と「やさしい日本語」ニュース

このように、「やさしい日本語」はこれからの地域社会においてますますその重要度が増すと考えられますが、私たちの研究グループでは、この「やさしい日本語」を使った公文書(自治体が発行している「お知らせ」)の書き換えを行っています。こうした動きに連動して、日本各地の自治体でも、外国人住民に対する情報提供手段として、「やさしい日本語」を取り入れるところが増えてきています(この点については、東京都国際交流協会他編2012をご覧ください)。

こうした流れの中で、2012年4月にNHKがWEBにおいて、「「やさしい日本語」ニュース」の公開実験を開始しました。(http://www3.nhk.or.jp/news/easy/

このニュースはいくつかの点で極めて画期的なものです。

第一は、この「「やさしい日本語」ニュース」がNHKの報道部が公認した形で、「やさしい日本語」で書かれたニュースとして公開されている点です。現在、私たちの研究グループでも自治体との協働を模索しているところですが、なかなか難しいところがあってまだ実現していません。それに対して、この「「やさしい日本語」ニュース」はニュースの原稿作成を担当している報道部の担当者と、「やさしい日本語」への書き換え担当者の意見のすりあわせを経て公開されているものですので、「やさしい日本語」への書き換えに際して常に問題となる、「日本語としての自然さ」の問題を気にせずに利用できます。

第二は、「「やさしい日本語」ニュース」の表示にさまざまな工夫がなされているということです。全ての漢字にルビがつけられているのは言うまでもなく、地名、人名、組織名がそれぞれ色分けされていて、辞書などで調べる場合でも調べやすくなっています。難しい語には「やさしい日本語」で書かれた語釈がついており、その語にカーソルを合わせるとその語釈が読めるようになっています。また、ニュースを音読したものもついているため、聴解の練習にも使えます。さらに、元のニュースの原稿も参照できるため、この「「やさしい日本語」ニュース」をきっかけにさらに上のレベルの日本語を学びたいという学習者も利用することができます。

 

●貴重なリソースとしての「「やさしい日本語」ニュース」

このように、さまざまな工夫を凝らして公開されている「「やさしい日本語」ニュース」ですが、日本語教育関係者としては、これを是非最大限に活用したいところです。ここでは、そうした活用例として考えられることを2つ挙げてみたいと思います。

まず、地域日本語教室での活用が考えられます。この「「やさしい日本語」ニュース」は前述のstep1, 2をベースに作られています(それに若干の文法的要素を加えています)ので、文法的知識がそれほどない外国人でも利用することができます。インターネット環境がないと利用できないのはやや難点ですが、最近はノートパソコンの値段も急速に下がってきていますし、無線LANもかなり普及してきていますので、この点は早晩解決できるものと考えられます。何より、その日の(少なくともその1週間以内の)ニュースを使って活動をすることができますので、外国人側の達成感が高いと思われます。

次に、海外での利用が考えられます。海外ではどうしても日本の情報が不足しがちです。確かに、インターネットの普及で、日本のアニメやドラマなどはアクセスしやすくなったかもしれませんが、日本に関する最新の情報を「やさしい日本語」で得るということは決して容易ではないと思われます。現在、海外では日本語を学びたいというニーズは決して低くないと言われています。しかし、その関心を持続させていくことが決して容易でないこともまたよく指摘されています。そうした現状を変えていくきっかけとして、この「「やさしい日本語」ニュース」は大きな潜在的可能性を持っていると言えます。

 

●みんなの力で「「やさしい日本語」ニュース」を継続させよう!

以上見てきたように、「「やさしい日本語」ニュース」はたいへん貴重なものです(ここで提供されている情報を個人の手で作ろうとしたら、どれほどの手間がかかるかを想像してみてください)。しかし、現在のままだと、来年3月に「公開実験」が終わると、それで打ち切りになる可能性も十分に考えられます。この計画がいったん打ち切りになると、それを改めて立ち上げることは非常に難しくなります。そうならずに、来年度以降、恒久的に放送が続けられるようにするには、「「やさしい日本語」ニュース」が広く活用されているという声をNHKに届け、このニュースの開発に携わっている方たちを後方から支援していく必要があります。その声を届けられるのはみなさんです。どうぞ、ご協力のほどよろしくお願いいたします。

 

参考文献(本文で引用したもの)

イ・ヨンスク(2009)「外国人が能動的に生きるための日本語教育」『AJALT』32、国際日本語普及協会(この資料が必要な方はメールでご請求ください)

庵 功雄(2009)「地域日本語教育と日本語教育文法―「やさしい日本語」という観点から―」 『人文・自然研究』3、一橋大学

http://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/rs/bitstream/10086/17337/2/jinbun0000301260.pdf

庵 功雄監修(2010, 2011)『にほんごこれだけ!1, 2』ココ出版(http://cocopb.com/koredake/

東京都国際交流協会他編(2012)『日本語を母語としない人への情報発信等に関する実態調査報告書』(http://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/rs/bitstream/10086/23093/1/0491200201.pdf

 

【「やさしい日本語」に関する文献】

*私たちの研究グループの活動について述べた文献を挙げておきます。

庵 功雄(2012)「「やさしい日本語」の本質とその必要性」『東京日本語ボランティアネットワーク(TNVN) ニュースレター』77号

http://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/rs/bitstream/10086/23097/1/0101205401.pdf

庵 功雄編(2011)「やさしい日本語を用いたユニバーサルコミュニケーション社会実現のための総合的研究」(科学研究費補助金研究成果報告書(中間報告))

http://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/rs/bitstream/10086/19320/1/0411100201.pdf

庵 功雄・岩田一成・筒井千絵・森 篤嗣・松田真希子(2010)「「やさしい日本語」を用いたユニバーサルコミュニケーション実現のための予備的考察」『一橋大学国際教育センター紀要』創刊号、一橋大学

http://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/rs/bitstream/10086/18797/1/kokusai0000100310.pdf

庵 功雄・岩田一成・森 篤嗣(2011)「「やさしい日本語」を用いた公文書の書き換え」『人文・自然研究』5、一橋大学

http://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/rs/bitstream/10086/19016/2/jinbun0000501150.pdf

岩田一成(2010)「言語サービスにおける英語志向」『社会言語科学』13-1、社会言語科学会

岩田一成・庵 功雄(2012)「看護師国家試験のための日本語教育文法 必修問題編」『人文・自然研究』6、一橋大学

http://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/rs/bitstream/10086/22982/2/jinbun0000600560.pdf

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