小学生のとき、「養護学級に…」と言われた生徒が、優秀賞総なめ!(「のしろ日本語教室」便り)

3月15日は、とても嬉しい日でした。ずっと以前から通っている秋田県能代市にある「のしろ日本語学習会」で、マリアさん一家に何年ぶりかでお会いしたのです。

ご家族とコーディネーターの北川さん

ご家族とコーディネーターの北川さん

フィリピン出身のマリアさんとは、第一期OPI縦断調査でお会いしていました(2012年終了)。

※賞状の写真のアップも許可していただきましたので、実名でご紹介します。

 

明るく、真面目で誰からも好かれるマリアさんには、以前ある悩みがありました。それは長男大路君が小学校2年生を終了するころ、「ちょっと普通クラスでは付いて行くのは無理なので、養護学級(特別支援学級)に入ったほうがいいですよ」と担任の先生から言われたのです。優秀なマリアさんにとって、考えてもみなかったことでした。「どうして私の息子が?」と、ご主人と一緒に「のしろ日本語教室」の北川裕子さんのところに相談に行きました。

 

北川さんは「私が責任を持つから、とにかく今まで通り普通学級で勉強させてください」と学校側とかけあい、早速大路君のサポートを始めました。その時のことを北川さんは次のように語ってくださいました。

 

大路は、優秀な子供。日本語が問題なのにそれが先生方には分かっていない。日本で生まれ、日本で育ったあの子に日本語の問題があるわけないと思っているところが学校の先生の問題なんですよ。生活言語は出来ていても、学習言語が育っていない。いや、もしかしたら生活言語も十分育っていないのかもしれない。学習についていけないのは、日本語の問題だと思ったんですよ。

 

 

マリアさん、大路君と一緒に2015.3.15

マリアさん、大路君と一緒に2015.3.15

状況を詳しく見ていくと、家庭では日本語で生活してはいたものの、マリアさんはできるだけ英語に触れさせようと読み聞かせもたいていは英語でやっていることが分かりました。それは、「私が息子に教えられるのは英語しかない。だからできるだけ英語の力がつくように親として頑張ろう」という思いからでした。また、日本語での読み聞かせもしようと努力したのですが、それはかえって言葉のハンディを負うことにつながってしまいました。

 

日本人のお父様は営業の仕事で忙しく、毎晩遅い帰宅、土日も仕事で出かけることが多い毎日でした。そこで、まだまだ日本語力が十分ではない母親のマリアさんとの会話が多く、十分に日本語が育つ環境にはありませんでした。いわゆるダブル・リミテッドだったのですが、そのことに小学校2年生になるまで周りも家族も気づきませんでした。子供をよく観察すれば、学校で先生の話などを聞いていても理解できず、「目が泳いでいる」のが分かるのですが、そうしたサインも見逃されていました。

 

本人の努力、北川さんのサポートなどの結果、1年も経つと、問題はなくなってきました。毎週一回日本語教室に通い、学校の勉強に励むとともに、野球にも夢中になり学校での生活を楽しみ始めました。そして、高校卒業時には賞を総なめするという快挙となったのです。北川さんは、さらに言葉を続けました。

 

  10年前の「あの時、『この子はダメだ。学校にはついていけない子』とレッテル

  を張られ、養護学級に入れられていたら、どうなっていたかと思うと……。その子

  がこうして高校の卒業式に、こんなにたくさんの賞状をもらってきたんですよ。

感無量です。

 

大路君は、周りのサポートで見事に自己実現を果たしましたが、それが出来ずもがき苦しみ、そして場合によって大路君の賞状はドロップアウトしてしまう子供達がどれほど多くいるのでしょうか。私達の前に明確に「その姿」が見えてこないため、こうした問題に日本社会は鈍感になっているのです。今、私達はもっと子供達の姿に真摯な態度で向き合い、課題発見解決に向けて努力すべきではないでしょうか。

 

私は、幸せいっぱいのマリアさん家族を前にシャッターを切りながら、昨年の北羽新聞掲載「包み込む社会力④」に登場したマリアさんのことを思い出していました。

 

    ♪   ♪   ♪

 

【北羽新報 「包み込む社会力④:日本語、文化の学習支援」(2015.3.24)より

 

日本語をどれだけ理解できるかは高田さん本人だけではなく、子育ての面でも大きな問題だった。

北羽新報のマリアさんの記事2016.3.24

北羽新報のマリアさんの記事2016.3.24

 

長男(17)が生まれた時には平仮名や片仮名が読めるようになってはいたものの、文章として書かれている内容の理解は乏しかった。また、絵本を読み聞かせても発音やイントネーションがおかしいため、子どもはその発音のまま言葉を覚えてしまい、子どもも言葉のハンディを背負うことになった。「頭が悪いとか、障害があるのではと子どものことを周りから言われ、涙が出てきた。私がちゃんと日本語ができなかったから」と自分を責めた。

 

北川さんによると、母親が外国出身でも子どもは日本で生まれ育ち、日本語の環境で暮らしてきたのだから「日本語が分かるのは当たり前」という認識は、大きな誤解だという。高田さんのように子育てに悩む外国出身の母親たちは多い。同学習会(のしろ日本語学習会)では、母親と共に子どもたちの日本語支援に取り組み、子連れでも参加できる環境を整え、夏休み中など子どもを対象にした講座も設けている。

 

子どもたちは会話や読み書きの理解が進むことで、学校の授業で学んでいる教科書や問題文が理解できるようになり、勉強を楽しむようになる。高田さんの子どもも勉強に意欲的になり、「私の日本語に不自然な所があると、『そういう言い方はしないよ』と逆に教えてもらっている」と母親として安堵の笑顔を見せる。

 

 

【大路君がもらった賞状】

 ・学業賞

 ・皆勤賞

 ・工業部会長賞

 ・ジュニアマイスターゴールド認定証

 ・「東日本高等学校土木教育研究会」による表彰状

 

北川さんは「この教室があるからこそ、今があるんです」と挨拶する高田さん一家に前に来てもらい、大路君にひと言話をしてもらいました。教室で学ぶ子ども達は賞状の多さに驚きながら、真剣に話を聞いていました。身近にすてきなロールモデルを見ることで、「よし、自分達もがんばろう!」という気持ちになっていくのです。こんな温かい、「つながり」を大切にした日本語教室を目指したいものです。

日本語教室で家族揃って報告

 

 

 

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