「介護の日本語」研修会の報告(7月26日実施)

話をする神吉宇一氏

話をする神吉宇一氏

7月26日、HIDA(旧AOTS)の神吉宇一さんを講師にお迎えして、「介護の日本語」研修会を行いました。当日参加なさった方の参加目的は実にさまざまです。

○日本語学校で留学生教育に携わっているけれど、今後介護の日本語に関わっていきたいという人

○EPA関連の日本語研修で数カ月フィリピンで教えてきた人

○現在は海外でさまざまな学習者を教えているけれど、いずれは「介護の日本語」に関わりたいという人

○まだこの道に足を踏み入れてはいないが、EPA関連の日本語教師募集があった時には、ぜひ応募してみたいという人

○「介護の日本語」はまだイメージできないけれど、とにかく知りたいと思って来たという人

まずは、介護と看護の違いについての確認がありました。「介護とはまさに生活そのもの」であり、「正解があり、ある程度世界基準がある看護」とはそもそも根本的に大きく違います。看護は、関わる中で相手は治癒し、元気になって出ていくわけですが、介護はそうはいきません。介護を必要とする人は、それぞれこれまで歩んできた人生も違えば、考え方・ライフスタイルなど大きく異なります。講師の話に、まだ「介護の世界はよく知らないんです」という人達も、どんどん引き込まれていきました。

話に聞き入る参加者

話に聞き入る参加者

今回も、相互にやり取りのある全員参加型の研修で、参加者自ら考え、実践を振り返るものとなりました。研修会のテーマは「介護の日本語」でしたが、いつの間にやら「日本語教師としての自分」「一人の生活者としての自分」を見つめ直すことになったのです。受講者一人ひとりが、「今の自分を振り返る」「大きな枠組みの中で、自分のしていることを考える」「これから自分ができること・すべきことを考える」「社会づくりという視点でキャリアデザインを考える」ことができる研修会こそが、今の時代々に求められているのではないでしょうか。

当日以下の2冊の本が紹介されました。夏休みにでも涼しい木陰で読んでみませんか。また、「日本語教師はなぜ『貧しい』のか」という論文が配られました。この論文では、「日本語教師が低賃金労働者として扱われるのは、自己責任の問題ではなく、社会的な問題」であり、「労働としての日本語教育は、労働としての介護と似ている」と指摘しています。目先のことに追われるのではなく、「なぜこうした状態が続いているのか」「問題解決に向けて何が求められているのか」を真剣に考えていく必要性を改めて考えさせられました。

◆安里和晃『労働鎖国ニッポンの崩壊―人口減少社会の担い手はだれか』(2011、ダイヤモンド社)http://www.diamond.co.jp/book/9784478015896.html

◆六車由実『驚きの介護民俗学』(2012、医学書院<シリーズ ケアをひらく>)  http://shukan.bunshun.jp/articles/-/1169

◆春原憲一郎・神吉宇一「日本語教師はなぜ『貧しい』のか~ことば・こころ・からだのケアとグローバリゼーション」(2010、世界日本語教育大会予稿集)

参加者も積極的に「思い・考え」を語る

参加者も積極的に「思い・考え」を語る

最後に受講した方からのコメントを少しご紹介したいと思います。

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■試験や働く現場での問題についてのお話なのかなと思っていたら、労働鎖国と言われる日本の問題、そして「日本語教師とは」という問題まで……。日本の介護に日本語教師がどんなふうに関われるのか、じっくり考えさせられる時間になりました。

■研究会では、神吉先生やいろいろなご経験の方の貴重な意見をうかがい、勉強になりました。介護に関しては、日本語教育の世界に入った当初から目標だったものの、やっと入り口へたどり着いたような状態です。皆様のお話しをうかがい、まだまだ勉強不足で、知らないことばかりだとわかりました。ホームヘルパー実習が続きますが、デイサービスと訪問介護実習で、日本語教育につながる多くのことを学んできたいと思っております(この方は、4月から「ホームヘルパー2級」の講習を受けていらっしゃいます)。

■コンテンツよりコンテキストが重要だという言葉、とても印象に残りました。日本語学校でも同じことが言えると思います。特に、「介護と日本語、専門性は何か」での、3つの問いについてはいろいろ考えさせられました。

(3つの問い問い1:介護のことを知らないと介護日本語は教えられないのか

問い2:「介護を担う外国人はNいくつぐらい必要ですか」にどう答えるか

問い3:「うちの施設で2年働いてるんだけど、日本語がまったくできないんです。どうしたらいいですか」という問い合わせにどう答えるか。

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