2月アクラス研修の報告レポート「言語・演劇・デモクラシー~多文化共生社会をめざして~」

2月アクラス研修は、演劇教育を取り上げました。体験型研修で、3つの班に分かれてワークをやりましたが、2時間後の皆さんのお顔は満足感でいっぱいでした。今回の報告は、大輪香菊さんです。詳しい、臨場感あふれるレポートをどうぞご覧ください。

 

当日使用した資料:①パワーポイント中山さん&飛田さん

         ②「授業実践報告」中山さん

           ③「日本語教育と演劇」飛田さん

 

       ♪   ♪   ♪

2月 アクラス研修 言語・演劇・デモクラシー~多文化共生社会をめざして~

               東京外語学園日本語学校・桜美林大学 非常勤講師 大輪香菊

 

講師の中山由佳さん

講師の中山由佳さん

今回の研修は「演劇」という文字に惹かれてすぐに申し込みました。というのも私は幼き頃両親の勧めで劇団に入っていた事があり、舞台と聞くと今でもワクワクしてきます。日本語教師になってから、そうしたワクワク感を授業に取り入れられないかと常々思っていたのです。

予定時間を15分ほどオーバーするほど盛り上がった様子(の一部)をお伝えします!

 

参加者は、すでに演劇を授業や活動に取り入れており更なるブラッシュアップのためにという人が半数以上でした。中には他業種に勤務している人や、遠く豊田市から駆け付けた人もいて関心の高さを伺わせました。

 

 

 

<ワーク その1>

早速簡単なワークが行われました。「連想アイデアゲーム」です。しりとりの要領で前の人からイメージをもらい、自分が連想したものを言っていきます。“発想は自由”で客観的な正解はありません。ではどのような展開になったのでしょうか?!一例をご紹介しましょう。

講師の飛田勘文さん

講師の飛田勘文さん

【窓】→ウインドウズ→iPad→スマホ→電話→黒い→皮→動物保護→イルカ→くじら→肉→ひつじ→トルコ→風呂→シャワー→汗→スポーツ→山→エベレスト→ネパール→地震→雷→おやじ→背中→お風呂→ボディシャンプー→リンス→つるつる→頭→足→すね毛→おやじ→地震→雷・・・

 

どうですか?私の連想とは全く違うことがほとんどでした。「おやじ」「雷」「地震」が2回ずつ出てきたのも面白いですね。

続いて言葉を発しながら上半身だけ動きをつけていきました。なんとか言葉は出てきても、それに合った動きはなかなか表現できず、悩む姿も見られました。

 

 

 

ワーク その2>

次は「大きな紙を用いた連想ゲーム」です。5人1組のグループになり、順番に絵を描いていきます。ルールは①使用言語は英語またはほかの言語 ②すでに描かれているものを見て、何を描くか考えていく ③どこに描くは自由、折り紙や切り絵を使ってもよいので立体作品も可能 ④アイデアや言葉に困ったときは「ヘルプカード」を使うのも可、でした。最終目標は“みんなでひとつの絵を完成すること”と説明がありました。っとここで参加者から質問です。

Q:「この作業の目的は絵を完成させることですか?それとも言葉を増やすことですか?」

これに対して講師からは、「とりあえず、学習目的については忘れて楽しく遊んで欲しい」

いかにも日本語教師らしい視点の質問でしたね。そうそう、英語を使うのは、日本語学習者にやってもらうときにどんな感覚なのか体験してほしいからというグループワークことでした。

作業時間は約20分。初めは順番に書いていましたが、熱中してくるといつの間にか順番は無視して書いていたり、英単語が出てこなくても言葉を作ってみたりと、あちこちから歓声が聞こえてきました。

3グループの作品は「ニャロメの見た夢」「海」「ワクワク・世界はとにかく楽しい」とです。

講師の中山さんと飛田さんから、ワークの講評が行われました。

二人は、一つの絵を描いていくことで、皆があるルールのもとに参加した「デモクラシー」、何処に描いてもいい「個性尊重」、前の人が描いたものを見て描く「他者尊重」、助けを求めるヘルプカード「相互扶助」といったことが行われていたと話されました。

また、「このワークでは演劇をやるのと同じように楽しむ感覚を感じてほしかった。頭を使って想像力を駆使するというのもリンクしている。やっている内に自分たちの呼吸?いまやってもいいな、というようなリズムが出て来るんだと思う。実際に親に言われてきた子どもは最初壁際にいるのだが、“ここは何してもいいんだ”と思った時に参加してくる。」とおっしゃっていました。

参加者からは「最初乗り気じゃなかったが、始めてみたらすごく楽しかった」「みんなが褒めてくれたり、違う解釈を加えてくれたりの共同作業が楽しかった」「最初はルールを確認していたが、途中から我先にとなった」などのコメントがありました。グループワーク

 

後半は、お二人の講義が行われました。

【中山由佳さん】

中山さんは中学生の頃から演劇を始め、大学卒業後には演劇の専門学校にも通い、劇団でも活躍するなどずっとお芝居に携わってきたそうです。大学の日本語の授業でも演劇を取り入れ、様々な実践をしていらっしゃいます。

実際に10年以上大学で実践している授業についての事例を話され、作品の一部も見せて下さいました。

―――――

この授業では、「演劇作品を制作・上演」するため、学生がオリジナルの脚本を執筆するところから始まり、制作、出演、広報活動まですべて学生が行います。言語、経験、性格など多様な学習者が1つの作品を作り上げる過程で様々なコンフリクトが起こります。それは他者理解のためのきっかけというようなこグループワーク⑥とに変化する可能性を持っていると感じています。教員が何らかの仕掛けを用意してうまく他者理解につなげていくことが必要で、学習者同士の信頼関係をかなり意識してクラスマネジメントを行っていかなければならないと思います。学習者間の距離を縮めていくというのも大切なので、ゲームを取り入れたり、学生間で飲み食いするということを勧めたりもします。

〈事例紹介〉

「確認不足」「強者・弱者の関係」「多数派・少数派」などの事例から、どのように介入し、進めてきたかを紹介します。「学習者同士での解決が難しい場合は、教師が考えを促すような形で介入する事が必要」だと思います。教師の役割は「何かが起こった時には、絡み合ったものをほどいてやるとか、違うレベルにしてそれを提示して考えてもらう、という機会を作ること」だと思っています。

 

【飛田勘文さん】

演劇教育研究、とくにイギリスの演劇教育の研究をされている飛田さんは、演劇教育について、またどのようなことが言語教育とかかわってくるのか、など話されました。

――――グループワーク⑧

 

演劇教育は演劇分野と教育分野の両方の(理論と実践の)影響を受けています。それは私たちがよく知る一般の演劇(自然主義演劇)とも異なっていて、たとえば、一般の演劇の作り手(主体)の中心が劇作家で、劇作家が物語を用意するのに対して、演劇教育の主体は参加者(観客=学習者)で、物語はその場で作られていきます。

 

演劇の効果として“言葉を自信を持って扱えるようになる”“言語機能”“スピーキング・リスニングスキル”“思考能力、記憶能力”を高めるなどがあげられています。また、自分が使っている言語が状況に上手く適合しているかを試すこともできます。

実生活でも、人は異なる役を演じています。演劇はどういった役柄に対してどのような言葉が適切かを学ぶ機会を与えてくれるのです。また、言語は発する言語とは別に頭の中で考える言語もあるので、物語の登場人物の内面を探ることによって、アクティブな思考、感情を操れるようになります。

Aグループ

Aグループ

更に、特定の状況下において身体を通して言葉の意味を明確にする、と同時に記憶に残りやすくしてくれるのです。

 

ヨーロッパでは、言語教育と市民性教育が結びついており、演劇が言語のみならず、市民性教育にも有効であることがわかっています。

まず日本語教師や私のような演劇教育の専門家がまず考えなければならないのは、民主的社会にふさわしい市民のあり方というのは何なのか、民主的社会の構築階に住む市民の育成にふさわしい演劇というのは何なのかということではないでしょうか。そこから物事を組み立てなければならないと思います。イギリスの演劇教育を紹介されて、じゃあそのまま真似をすればいい、というわけではない。先生方一人一人が今の市民にはこれが必要なのだから、言語教育とか演劇の教え方が必要なんだと気づいたなら、そのルールの教授法を組み立てていけばいいのではないかと思います。

 

Bグループ

Bグループ

――参加者の感想

・自分が書きたいとか言いたいとか主体性が活かされると思った

・学生たちがシナリオを作っている過程がわかった。

・コンフリクトは必ず起こるというのを聞いてストンと落ちた

・教師がどのように介入するのか、ということ、振り返りのやり方、すごく勉強になった

 

最後に飛田さんがこうおっしゃいました。

「前半が押したため、今回はとくに発表のスピードが速くなってしまい、わかりにくいところがあったかもしれません。しかし、演劇教育は、一度ではなかなか理解しづらものです」

 

この一言でわたしもホッとしました。一度で理論まで理解するのはとても難しいと思いましたから。

Cグループ

Cグループ

 

 

今回は実際にグループワークで“作り上げる楽しさ”を味わいました。そして演劇教育の実践例と可能性をお話しいただき、教師が何をすべきかと再考するきっかけをいただきました。何をどのようにやるのかは、課題として持ち帰ることになりました。

学習者に何か気づきを与えたい、個々の特性や特技を活かしたい、とにかく何かを作る活動を私もやってみたいと思いました。次回は実践の共有をまた皆さんとできたらと思います。

中山先生、飛田先生、ありがとうございました。

懇親会

 

4 Responses

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  1.  素敵なレポートありがとうございます。さすが大輪さんです!記憶がありありとよみがえりました。皆さまありがとうございました。

    1. 鈴木さん、コメントありがとうございます。大輪さんは、本当に詳しく、分かり易く書いてくださいましたよね。大輪さんの「みんなに伝えたい」というお気持ちがよく表れています。みんなでワイワイ考えながら進めた「楽しい研修」でした。中山さんと飛田さんのご準備に感謝です。

  2. 嶋田様。このたびは研修会にお誘いくださり、ありがとうございました。お礼を申し上げます。

    大輪様。臨場感あふれるたいへん楽しいレポートを執筆してくださり、誠にありがとうございました。感謝致します。

    1. 飛田さん、こちらこそ大変お世話になりました。みなさんそれぞれ深い学びがあったようで、嬉しく思います。また、大輪さんはとても詳しく、その場にいるような感じで報告レポートを書いてくださったので、参加できなかった方にも当日の雰囲気が伝わってきますね。皆さまのご尽力に感謝です。

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