「年少者の日本語教育」に関する研修会報告(6.28)

講師の志村ゆかりさん

講師の志村ゆかりさん

6月28日(木)の夜、「日本語を母語としない児童・生徒が抱える問題を考える―これから年少者日本語教育に関わる方に向けてー」というタイトルで、研修を行いました。講師は、一橋大学留学生センター非常勤の志村ゆかりさんです。志村さんは「双方向の研修会にしたいですね。参加した人がみんな自分のこととして考え、それぞれの事例を共有しながら、一緒に考えていくような時間にするつもりです」と事前に語ってくださいましたが、まさにその言葉通りの研修会となりました。
まず「本日のメニュー」として挙げられたのは、次の10項目でした。

1.彼らのビザ(在留資格)
2.来日の年齢と就学
3.日本語支援の態勢
4.彼らの学校生活と教科学習
5.彼らの家庭環境と生活環境
6.彼らの抱える問題と将来
7.年少者日本語教育の諸相
8.行政と草の根の連携
9.今後の課題
10.教科書の日本語を眺めてみる

項目ごとに話が進められましたが、講師が話をすると、すぐに受講者からさまざまな意見・体験談などが飛び出しました。それをみんなで共有し、さらに経験豊かな講師がコメントを加え、肉付けしながら話は展開していきました。志村さんの見事な運びに、改めて「経験に裏付けされたコメント力」の大切さを痛感させられました。「年少者の日本語支援は、みんな一つ一つ違うんです。来た時期、家庭環境、学習環境、いろいろな要因が複雑に絡み合っていて、事例はすべて異なります。それに丁寧に寄り添って支援していくことが重要です」という講師の言葉は、アクラスに集った方々の多様性と重なり合っていました。

みんな講師の話に夢中です

みんな講師の話に夢中です

コーヒーブレイクには、あちこちで自己紹介が始まり、それぞれの事例を熱く語り合ったり、先ほどの話し合いについてもう一度話し合ったり……。ワイワイガヤガヤ、あっという間に時間が過ぎてしまいました。今回は、インドから一時帰国のTさん、小学校の先生、日本語学校や大学で教えている人、地域日本語教室でボランティアをしている人、大学院で年少者日本語教育を研究している人等、参加者は実に多様です。
最後に、教科書の中にある日本語を見ていきながら、「教科につなげる日本語教育の重要性」「学校教員との連携の必要性」、さらには「彼らに合った教科書作りの大切さ」へと話題は展開していきました。講師である志村さんは、仲間と一緒に苦労して教科書作りを進めています。その一つが『数学サバイバル日本語』です。
   http://www.geocities.jp/wakamenokai_jsl/top/koredewakaru.html
このURLにアクセスすると、詳しい説明がありますので、ぜひ一度ご覧ください。ぜひ使ってみたいという方にはPDFで送ってくださるそうです。ここでは『数学サバイバル日本語』の特色を抜き書きして、お伝えしたいと思います。

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『数学サバイバル日本語』

『数学サバイバル日本語』

この本は、「数学は得意だけど、問題の日本語がよく分からなくて答えが出せない、または間違ってしまう」という生徒向けの練習帳です。
数学の典型的な問題を解きながら、数学教科書でよく使われる表現を勉強することができます。言い換えれば、同じ日本語がたくさん出てくるので、それらの表現に慣れることによって、本来の数学の力が発揮できるようになります。

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研修会後、幾つか感想メールを頂きました。
■志村ゆかり先生による「年少者のための日本語教育」、とてもよかったです!
現場の状況をリアルに知ることができて、興味が深まる一方、実情の深刻さに胸が痛みました。でも、志村先生をはじめ、そのジャンルにあたられている方々のパワーと心の熱さに打たれて、自分にできることはなんだろうと思いながら帰りました。

■私が考えていたより、ずっと現場は大変なんだということがよく分かりました。留学生だけを教えていた私には、見えていないものがたくさんあるんだ、ということを改めて感じました。でも、今の私には何ができるんでしょうか。少しじっくり考える必要があるんですが、まずは近くの日本語教室に飛び込んで行きたい気もしています。

そして、講師からは「様々な背景の方々がそれぞれの感想を抱いてくださったことに、これからもがんばるエネルギーをいただきました」というメールが早速届きました。

地域の日本語教室で年少者の日本語教育・支援に長く関わってきた志村さんは、「日本語を母語としない児童・生徒がどんな問題を抱えているのかを、もっともっと多くの人に知ってもらい、ネットワークを作り、支援の輪を広げていきたい」という思いで、この研修を引き受けてくださいました。その思いが一人一人の心に届いた研修会でした。

参考資料①

参考資料①

参考資料②

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