4月のある日、イギリスのオックフフォード・ブルックス大学で日本語を教えていらっしゃる穴井宰子さんから、「ブルックス文庫」が送られてきました。
実は、イギリスで日本語を教える仲間が一緒に作り始めた多読教材が、「ブルックス文庫」として誕生し、ヨーロッパの日本語学習者に親しまれています。
海外で、さまざまな教材が生まれていることは素晴らしいことだと思います。
さらに、これを読んだ学習者の方が、今度は自分たちで「日本語で物語を書いてみる」といったすてきな活動が生まれてくるかもしれません。
私は、「ブルックス文庫」を手にしながら、去年訪れたスペインでのことを思い出していました。
「私が見たスペイン日本語事情~誕生5年目のスペイン日本語教師会を軸に」
(抜粋)
学習者は自宅で本を読み終えると、次の授業でコメントを書くことになっています。このことは、多読による「読み学習」に続いて、「書くこと」の学びにもつながっていきます。そして、この実践はコース最後の「各自の物語づくり」へと発展していくのです。
今日(5月23日)、「ブルックス文庫」の穴井さんから以下のような紹介記事が送られてきました。どうぞご覧ください。
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若い学習者向けに、レベルに合った読み応えのある読み物を提供したいという思いから、ブルックス文庫は生まれました。初級レベルでの読解活動を模索中の2011年、それまで
漠然と捉えていた「多読」に注目し「多読プロジェクト」を企画して、数回の多読ワークショップを行いました。ワークショップでの学生たちの反応は、私たち教師の想像以上のものでした。黙々と読みふける学生たち。読んだ後、お互いに感想を交換しあったり、勧めあったり。休み時間も惜しんで、2時間のワークショップがあっという間に終わってしまいました。自らが読みたいと思ってどんどん読んでいく、その過程を通して日本語の学習や日本社会のことを知ることができるこの活動を継続していこうという時に突き当たった壁が、楽しく読める「読み物」教材がきわめて少ないという現実でした。
そこでオックスフォード近郊の先生方をおさそいして、毎学期に1回リライトワークショップをもうけて、自分たちのクラスの学習者を想定して少しずつ教材を作り始めました。作った読み物をお互いに読みあうとなかなかレベルに合ってしかも面白く読めるという物語の難しさをつくづく痛感しました。それでもできて使えそうなお話しは、すぐに教室でやってみました。A4用紙にコピーしてインタネットからイラストを拝借した手作り教材でしたが、それが学部長の目にとまり、本格的な読み物教材への開発へと大学が支援してくれることになりました。こうして「ブルックス文庫」の開発がはじまったのです。
ブルックス文庫は、学習者が自分たちの知的レベルにあった読み物を欲していることを念頭にタイトルを選出しました。ワークショップを喜んでくれた学生たちが初級用の多読
教材をしばしば「子どもの本」というのです。ブルックス文庫では「大人の絵本」を目指してイラストレーターを選びました。またアートデザインでは、手に取って気持ちのいい美しい本作りを目指しました。ブルックス文庫に収められている物話は、「鶴の恩返し」や「長靴をはいた猫」といった、日本や海外の昔話や、伝記そして、日本の文化や習慣が物語の一部となって紹介されている日本の作家によるオリジナルストーリーで構成されています。観光ガイドブックや説明書ではなく、人物を通して日本の社会が見れるような書き下ろしです。
学習者一人一人が多読用教材として読むのはもちろんですが、いろいろな使い方で教室活動を大きくかえることもできます。読んだ後でPOPを書いたり、日本語劇の脚本を作ったりもしました。また、学期末にグループでの朗読発表会を行っています。自分たちが楽しく読んだ物語を他の人たちにも伝えようという試みです。2014年にはピアノ伴奏、英語字幕つきで小さな劇場で一般公開もしました。
語彙と文法は、ヨーロッパ言語共通参照枠 (CEFR)のレベルに準拠して盛り込む工夫がされています。物語の語彙はどうしても初級教科書の語彙とはことなり、難しいいいまわしもあるのですが、一話ごとに異なる美しい挿絵は、読者が読み進む上での大きな助けとなってくれるでしょう。巻末にはそれぞれの物語の英語の短いイントロがついています。
どれも面白く、読みだしたら止められないことまちがいなし。初級前半レベルの5話がもうすぐ完成します。ブルックス文庫が一人でも多くの学習者の手に取られ、楽しんで日本語を学習してもらえることを願ってやみません。
レベル2、1巻
・ 鶴の恩返し
・ 牛若丸
・ 雪の女王
・ 廃寺の謎
・ 雷門のねこ
レベル2、2巻
・ 大工と鬼
・ 七夕物語
・ 長靴をはいた猫
・ ねこと七夕
・ 仏壇屋のジャズピアニスト
レベル1、1巻(近日発売)
・ ヤマタノオロチ
・ 節分の鬼
・ 不思議の国のアリス
・ 3人の友だち
・ 麻里ちゃんの青い壷
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