私が見たスペイン日本語教育事情~誕生5年目のスペイン日本語教師会を軸に~

日本語教育に関する調査のため、マドリードを訪れました。一週間にわたる大勢の日本語学習者インタビューを通して、現地で「学習者の生の声」を聞くことができ、また、多くの先生方と貴重な時間を過ごすことができました。ここで、スペインにおける日本語教育事情について、少しお伝えしたいと思います。

 

 

マドリードのコンプルテンセ大学

マドリードのコンプルテンセ大学

■増え続けている日本語学習者~“日本語・日本文化”は、スペインと違うからこそ面白い!~

国際交流基金の『世界の日本語教育』(p.102~103)によると、学習者数は、以下のように増加しています。

2006年=2,802人 → 2009年=4,045人  → 2009年=4,938人

最近は不況の影響もあり、若干伸び率は下がったものの、いまだ日本語・日本への関心は高いというのが、先生方から伺ったお話でした。学習者とのインタビューでは「スペインと日本の文化はとても違うから、本当に面白い」という声が多く聞かれました。中には、「『こころ』が読めるようになりたいから、日本語教育を勉強しています」という学習者もいて、びっくり!

 

上述した基金の報告書によると、80%を超える「学習の目的」は以下のようになっています。こうした「学習目的」は、インタビュー調査からも実感することができました。

1.日本語そのものへの興味(89.8%)

2.歴史・文学等への関心1(88.1%)

3.マンガ・アニメ・J-POP等が好きだから(83.1%)

4.日本語でのコミュニケーション(81.4%)

 

キャンパスの大学生達

キャンパスの大学生達

ただ、調査における日本語学習者数に関して、出てきた数字だけを表面的に捉えるのではなく、その年の調査の状況(どこまで網羅的に調べたのか)など、さまざまことを考慮に入れて数字と向き合うことが重要ではありますが……。

 

■4年前に生まれた「スペイン日本語教師会」~教師の学びを大切に~

スペインの教育機関において日本語教育がスタートしたのは1975年でしたが、2000年以降さまざまな形で日本語教育が盛んに行われるようになりました。そうした状況下、「みんなで課題を出し合いながら、共に学んでいこう」と、2010年2月にスペイン日本語教師会http://apje.es/が生まれました。教師会が出来るまでは孤軍奮闘していた先生方は、夢中になって新しい教授法の理解、実践の共有化を図っていったと、前教師会会長の鈴木裕子さんは熱く語ってくださいました。

 

「私達の教師会が生まれた2か月後、国際交流基金マドリードセンターが出来ました。それ以来、基金と二人三脚、良い協力体制を取ってやってこられたことは、とてもラッキーでした。この教師会では、とにかく学び合うことを大切にしました。大きい研修会を年に4回、それに、小さい研修会が3回程度、そして勉強会は今でも毎週実施しています。いつもマドリードでの開催ですが、地方の方はスカイプ参加も可能ですし……。

最初は、あの厚い『CEFR』の本を一人で読むのはきついということから勉強会で読み始め、1年かけて読破しました。教師会が発足して5年目の今では、勉強会の仲間は<家族のような関係>、会員数も百名を超えました」

 

■スペインで初めての「日本語劇コンクール」~日本語学習者の出会いの場を!~

調査に参加した学生さん達と(コンプルテンセ大学にて)

調査に参加した学生さん達と(コンプルテンセ大学にて)

6月27日(金)には、第一回「スペイン日本語劇コンクール」がコンプルテンセ大学で行われます。ホームページのお知らせ文をご紹介したいと思います。

 

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スペイン日本語教師会の分科会の一つともいえる大学語学センターネットワーク(サンティアゴ・デ・コンポステラ大学、レオン大学、マドリード・コンプルテンセ大学、サラマンカ大学、バレンシア大学、ムルシア大学、マラガ大学)が2013年7月5日に集い、どんなことをしたら、スペイン各地で日本語を学ぶ者同士が集まる機会を持つことができるだろうかという話し合いがなされました。折りしも、その日は劇作家の平田オリザ氏を講師に迎えての研修会があり、氏のアドバイスと共に語学センターネットワークのメンバーの気持ちは、スペインそしてヨーロッパでも、たぶん初の日本語劇コンクール開催へと固まっていきました。それから、約一年の準備期間を経て、2014年6月27日(金曜日)7つの大学語学センターの演劇チームがマドリードに集結します。

 

■ある教育実践~多読、そして物語作りの勧め~

スペイン滞在中に、いろいろな事例、取り組みについて知ることができましたが、ここではコンプルテンセ大学で教える鈴木裕子さんの一つの実践についてお伝えしたいと思います。

 

鈴木先生とボルハさん

鈴木先生とボルハさん

鈴木さんは、インターネットで「日本語多読」のことを知り、早速勉強を始め、授業に取り入れました。週3時間の授業のうち15分は多読タイムとし、読み残した部分は家での宿題にしました。一人ひとり関心も違えば、読むスピードも異なります。こうして毎週実施していくことで、自然に読むことにも慣れていきました。この試みは、「先生、私達は何年も日本語を勉強しているのに、日本の本を読んだことがないのは残念」という学習者の声がきっかけだったそうです。

『小さな金魚の物語』ボルハさん

『小さな金魚の物語』ボルハさん

 

学習者は自宅で本を読み終えると、次の授業でコメントを書くことになっています。このことは、多読による「読み学習」に続いて、「書くこと」の学びにもつながっていきます。そして、この実践はコース最後の「各自の物語づくり」へと発展していくのです。

 

学習者は、まだまだCEFRでいうA2レベルではあるものの、創造的な活動にみんな意欲的に取り組んでいくそうです。「習っている文型や語彙が少ないから、これだけしかできない」と思い込んでいる先生方が、あちこちで見られますが、辞書を使ったり、ネットで調べたりと、いくらでも新たなことを取り入れていく方法はあるはずです。日本語学習をとおして「自分の考え/思い」を外に向けて発信することは、学習者にとって、とても楽しい作業です。インタビュー調査に参加したボルへさんは終了後、「これは、今日鈴木先生に出します。それで、持って来ました」と言って、出来たての『小さな金魚の物語』を見せてくれました。

 

「海外は接触場面が少ないから、学習意欲を維持するのは大変」「レッスンは週3時間しかないんだから、なかなかうまくならないのは当然」などと決めつけるのではなく、さまざまな方法でモチベーションを高め、日本語学習の楽しさ、学習者のキャリア・デザインの中での日本語・日本文化の持つ意味を考えることが常に求められているのではないでしょうか。

学生さん達の作品

学生さん達の作品

 

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6月22日(日)には、マドリードで漢字検定があるそうです。インタビューを受けにきた学生の多くが、「漢検がありますから、勉強しています。漢字は面白いですね。でも、難しいです」とにこにこと話していたのが、とても印象的でした。

マドリード1(午後7時半)

マドリード1(午後7時半)

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