6月アクラス研修報告「知っておきたい日本語教育におけるIT活用」

6月のアクラス研修は、李在鎬さんによる「知っておきたい日本語教育におけるIT活用」でした。今回は、坂内泰子さん(神奈川県立国際言語文化アカデミア)が報告記事を書いてくださいました。

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知っておきたい日本語教育におけるIT活用

        報告者:坂内泰子(神奈川県立国際言語文化アカデミア)

 

   お知らせ記事 → http://www.acras.jp/?p=2621

  当日の資料 → 「知っておきたい日本語教育のためのIT活用」pdf

 

李在鎬さん

李在鎬さん

6月のアクラス研修は筑波大学の李在鎬先生によるIT活用のお話です。留学生、生活者、ビジネスパーソンなど、さまざまな形で日本語教育に従事している人たちで研修室は一杯でした。「日本語文章難易度判別システムJreadability」(以下、Jreadability)にいつもお世話になっているとはいえ、ITにもコーパスにも疎い私です。お話についていけるかしら、と不安な思いでした。

 

「普通、ここまでは言わないんですけど」の前触れで、先生はご自分の大学学部からの研究の歩みをお話くださいました。格助詞から認知言語学へ、コーパスへ、そして計量言語学・統計へ、自然言語処理へ、言語テストへ、と年を重ねるごとに学問領域が広がっていくさまは、それ自体、本題であってもいいほどの厚みがあり、かつ、それぞれの段階のご研究の説明が次の研究の理解をたやすくするような見事さでした。そしてその各領域が重層的に重なった成果の一部としてJreadabilityが生まれたわけです。

 

そのご説明と同時に、「リーダビリティ=読みやすさ」についてのお話が続きました。もちろんどんな文書であれ読みやすさは必要ですが、日本語教師である私たちには、目の前の文が読みやすい文なのか、対象者の実力と照らし合わせてどうなのか、が常に気になります。語彙や表記、文法項目のチェックや調整などするものの、最終的には、どこか教師個人の判断に頼っているような心許なさがつきまといます。また、ある教科書では初級の学習内容が、別の教科書では中級と分類されているというようなこともあります。その不確かさを解消し、一定の信頼性のもとに判定をしてくれるのが、Jreadabilityなのです。

 

国研の「現代日本語書き言葉均衡コーパスBCCWJ」に100冊以上の日本語教科書を加えた膨大なデータをもとに、判定の基準となるテキストを構築し、そこから、線形回帰分析という手法で難易度を判定する公式を作ります。あとは出来上がったシステムにお好みの文章を代入し、「実行」ボタンをポチッと押すだけ。たちまち、6段階のレベルの判定と読みやすさのスコア、語彙レベル、品詞、語種、文字種など詳しい分析がモニターに映し出されます。先生ご自身のデモンストレーションのほか、受講者もそれぞれのタブレットやスマホで試してみました。

熱心に話を聞く参加者

熱心に話を聞く参加者

 

こう書くと、いかにも簡単なのですが、簡単なのは「ポチッ」だけで、判定する公式とそれを備えたシステムの構築には先生や共同研究者の先生のご苦心があったことは申すまでもありません。ただ、李先生のご説明はとてもわかりやすく、そのあたりの知識の乏しい私でも挫折しないでついていけるものでしたので、上記のように書いてしまいました。

 

こうして出来上がったJreadabilityですが、利用者からのフィードバックがあれば、それをもとにますます精度を上げていくことが可能だそうです。この<利用→フィードバック→改良→精度向上>のサイクルがまわっていくように、これからは「実行」ポチッだけでなく、判別結果の評価も忘れないようにいたします。みなさんもどうぞご協力ください。

 

質疑応答の時間は質問が相次ぎ、嶋田先生からストップがかかるほどでした。形態素解析について、接続詞の扱いについて、「測定不能」判定について、コーパスでの出現頻度との関係などなど、質問は説明がわからないから出るのではなく、そこまでの説明がわかったからこそ出るものだということを実感させられました。また、学習者作文の評価と言う点での利用を希望する方も少なくないように感じました。

 

さて、今回の研修で、ITのこと以外に心に残ったことがあります。それは、留学生として日本にいらっしゃった李先生が、常にピンチをチャンスに変えて歩んでこられたということです。作例の際、母語話者でないためのハンデが、コーパスにつながり、必要なコーパスがなければ「自分で作ればいい」、そして、コーパスをやっていたら就職が大変だ、という声に対しては「じゃあ、みんながコーパスを使えるようにすればいい」と、いかにも気負いのない前向きな生き方に感動しました。ギター片手に成田空港に降り立った「李青年」の軽やかさが数々の素晴らしい成果につながったのでしょう。最後になりましたが、日本語教育学会奨励賞ご受賞おめでとうございます。

(ちなみにこの文章は、中級後半、リーダビリティ・スコア2.5と出ました。紙一重で上級前半を免れたようです。)

懇親会

 

 

 

 

 

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